第16話 竜伐特務旅団東へ
残りの近衛師団長の討伐戦は、特に問題もなく終了しました。
いよいよ陸棲の亜竜、トカゲ頭狩りです。
体重八、九トンの、頭だけトカゲの走り回る鳥です。
羽毛恐竜の、飛べるようになったのに頭はトカゲのまま、みたいな。
飛行力で体を浮かして森の中を走り回るので、レーザーの長射程が生かせません。
「パルスって出来ないんでしょうか」
意味が判るはずのワイサイト教授に聞きます。
「君は、判ってるんだよね」
「細かいの一杯出せるってだけですね」
「それが判っているなら、詳細は僕が説明出来ると思う」
「どう云うもんじゃ?」
「一斉攻撃が一人で出来る、みたいな。溜まってるのをどばって全部出しちゃうんじゃなくて、チビチビ出せればいいんですけど」
「できんのか、それ。嬢ちゃん達のは弾撃っとるのと違うじゃろ」
「そうです! 機械の真似することないんだわ」
そんな会話の後、セネアチータ殿と特訓して、四日で安定してパルス状に撃てるようになりました。
ただ一度撃ち出すとフルオートで溜めた分は全部出ます。
今回はレーザーは牽制撹乱用と割り切って、トカゲ頭狩りに行くことに成りました。
老師様以上にガラデニア薬学科長が張り切っています。
「トカゲ頭を瀕死で動けなく出来ないんでしょうか」
「そこまで余裕がないでな。倒せるものを倒さんで死人出したら悔やみきれん」
「ワイサイト君、なにか妙案はないの」
「生物は判りませんね」
「嬢ちゃんはどうじゃ」
「魔獣って頚椎折っても体動くんでしょうか」
ちょっと余計な事を言ってしまいました。
「やった事がないで、なんとも云えん」
薬学科長が食い下がります。
「落とし穴は?」
「森にトカゲ頭がすっぽり入る穴掘れるなら掘ってみい」
森の地面は木の根が張りめぐらされてるんですよね。薬学科が知らないはず無いのに。
そんな会話もありましたが、マグナムグスフラメンタムへ出発しました。
奥地からやって来て森の比較的浅い処に棲み付いてしまった「下がり者」を狩るために、森の入り口に野営地を設置することがあります。
野営地の設置実習に、士官学校の選抜組が付いて来ました。
王都から三日ほど東にあるマグナムグスフラメンタムに着いたら、まず太守閣下にご挨拶です。地方の子会社に本社の会長が次期社長の孫を連れて来たみたいな具合でした。
東に向かう中継地点の重要都市なのですが。
ベース基地は更に東の湾にある漁港になりました。元締めは男の人です。
老師様の娘はいませんでした。
この湾の北半分、陸地が森に覆われている部分は深みになっていて、なにか危ない物がいるそうです。
なので三分の一くらいのところでしか漁が出来ません。
「嬢ちゃん、一発かましてみるかい。あそこなら、人間の漁には関係ないで」
人間の漁に関係なければなにやっても良い訳じゃありませんが。
「余計なことして、なんだか判らない物がここまで来たらどうします」
「ここでなら討ってしまえるじゃろ」
「なんか、出来るってんすか?」
いかにも網元な元締めが額に皺を寄せます。
老師様が言うより早く、ワイサイト教授が言いました。
「レーザーを撃ちます」
「れへざ?」
「れえざあじゃ」
「レーザーです。概念を正しく広めないといけません」
「そう云うこっちゃ」
「やれるってならやって見ておくんなせい」
本気で戦闘態勢を整えてから、港の端に立って、思い切りぶっ放します。
「なんでえ! 今のは!」
「レーザーです」
「じゃ」
魚が浮いてきた後に、海水が盛り上がって黒いものが見えました。
「六属性の嬢ちゃん!」
「はい!」
セネアチータ殿が撃つと、水脈がこちらにやって来ます。
「嬢ちゃん、溜まったら直ぐ思いっ切り撃っとくれ」
「はい」
「若賢者殿とお嬢もじゃ」
横に来た二人に合わせずに撃って、セネアチータ殿と入れ替わります。わたしの攻撃で水面から黒い柱が立ちました。
三人がほぼ同時に撃って、柱が向こうに倒れます。
「鉤! 届くか!」
「おうさ、手前ら、きばれ!」
鉤付きの銛が投げられ、黒い柱が引き寄せられます。直径一メートル以上ありそう。
「そこで固定じゃ。ラメール鎖鉤打て」
「はい」
漁師が綱を放したのを確認して、ラメール様が電撃を放ちました。黒い棒はのたっと動いただけでした。
「生きてるなら上げて!」
生き血大好きさんが叫びます。
「おう、曳け!」
元締めの声で柔軟性のある黒い柱が陸に上げられ、薬学科が群がりました。
元締めはわたしの横にやって来ます。丁度良いので聞きました。
「なんですか、これ」
「八つ足でさあ。こんなでけえのは見たことがねえが」
ヤツメウナギに八本足生やしたと言えば七割がた合ってるかな。
薬学科が何かしているのを見ていると、風が吹きました。
「あああ、死んじゃった」
生き血大好きさんの嘆きが聞こえて来ます。瀕死の重傷から生き血抜き取ったら死にますよ。
元締めが黒い死体を見ています。
「曳き賃に、頂けるだけ革を頂きてえんすが」
「これ、食べられないんですか」
「や、食えるが薬食いで、ここの男にゃ必要ねえんで」
「正当な対価が崩れるみたいな、上げすぎちゃいけないとかあります?」
後で問題になった時に、責任を押し付け易い偉い人に聞きました。
「そんなもんはないわ。嬢ちゃんがやりたいだけやって良いよ。儂等には余禄じゃから」
「じゃ、錬成科と薬学科が必要ない部分の革全部上げます。安全になるんですよね」
「さいで! このでかさの八つ足の革なら、この辺りの魚の歯は通らねえ」
錬成科も薬学科も革はいらないと言う事で、全部漁師の手甲と脛当てになりました。
森の浅いところに野営地を築くにも物資の調達にも元締めが全面協力してくれて、非常にスムーズに事が運びました。
士官学校が製薬隊と薬学科を連れて森に入り、採りたい物を採らせます。漁港に出入りしている商人が野営地まで買いに来ますよ。
体高一メートル弱の前足が半分羽根のトカゲが結構居て、護衛が居ないと危ないのであまり採集がされていないために、色々豊富のようです。
トカゲは鱗鳥と呼ばれていて、食べたら鳥です。漁師鍋に入れると二味くらい美味しくなります。補給に来る漁師も買って行きますよ。
製薬隊と薬学科が採集した植物系食材を護衛料として提供して、和気あいあいとキャンプしています。
士官学校の訓練としてはこの辺りで良いのですが、竜伐特務旅団本体は森の奥に挑みます。学院関係者は科長と教授、助教授の四名だけです。
この森の中は平坦ではなく、所々小山があります。その辺りは霊気が薄目なので、誘き寄せられれば良いのですが。
地形のせいで大木の間隔も開いていて、かなり遠くが見える場所もあります。
「嬢ちゃん、あそこにトカゲ頭がおるじゃろ」
「確かに、頭だけトカゲですね」
「じゃろ。びいむを当ててみてくれんか。全員戦闘準備」
大木の間から思ったより小さいトカゲ頭が見えます。戦闘態勢と打ち合わせが済んだら、全力放出です。
なにすんじゃわれ、みたいな感じで睨まれます。海に撃ち込むとかなりの威力に思えるのですが、亜竜相手だと、痛えなこの野郎程度なのです。
セネアチータ殿がパルスを当てると走って来ました。二人で交互に撃って咆哮を封殺します。
やっぱりどんどん大きくなって来る。妖女鳥の森より木が大きいのを忘れていました。
闘気弾の射程に入ってわたし達は控えに回り、小山の麓まで来させて、ちょっと登ったところで衝撃波の十字砲火と老師様の闘気弾で落としました。
バーチェス公子が高速で走り寄って首の中程を斬り付け、ムーたんに乗ったラメール様が傷口に電撃を加えて、起き上がろうとした巨体が痙攣して倒れました。
溜めを作っていた老師様が跳び掛かって、短槍の石突で首の傷口を打ちました。
「バーチェス、尻尾突いてみい」
「動きません」
「よし、生きとるぞ、血抜き」
老師様は走り寄って来た薬学科二人を守るように、盾持ちに指示します。わたし達は周辺警戒です。
首に太い針を刺されても、トカゲ頭は動きませんでした。
「そろそろ死ぬぞ、離れい」
老師様がおっしゃって、薬学科が離れると直ぐに、開放された生命力が突風になりました。こう言うのは流石ですね。
巨体が収納されて、みんな戻ってきます。
「亜竜の首、一撃で折れるんですね」
つい言ってしまいました。
「やった事がなかったでな。やってみた」
もっと褒めて欲しそうですが、どうしましょう。
「退きますか」
バーチェス公子が現実に戻します。
「途中で追われるより、ここで迎え撃つか」
しばらく待っていると、ヒグマより大きな、突き出た口吻も大きい茶色いのが数匹やって来ました。ばらばらな方向から来たので、群れじゃないようです。
二人でパルスをばら撒いて怯ませ、衝撃波を浴びせて足が止まったところに闘気弾を打ち込み、バーチェス公子と老師様で仕留めました。
これ以上は持ち切れなくなるので帰ります。
熊みたいのは「森廻り」と言う名で、他に言いようのない魔獣でした。革は売れますが、肉は癖が強いので魚の餌です。
大きいのが来るので、只ではないのですが。
日が暮れたら、ワイサイト教授が森に向かってなんかしています。見ていたら子供が乗れそうな蜘蛛がやって来ました。
タランチュラみたいに蜘蛛としては足が太短くて、全体に柔らかそうな毛が生えてぽやぽやして可愛い感じなのだけど、こんな大きな蜘蛛は無理。
話をしているようで、時々蜘蛛が前足を振っています。
話が付いたらしく、ワイサイト教授が森に向かってなんかすると、更に何匹か蜘蛛が来て、出された森廻りを糸で巻きました。
血を吸う代わりに糸を提供するのだそうです。普段は鎧鳥でやっているのでした。
森廻りは蜘蛛に好評だったとワイサイト教授が言っていました。
蜘蛛と話せるのは心属性一級だからなのか、あの人だからなのか判りませんけど。
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