第11話 竜伐特務遊撃大隊

 老師様を睨んでいると、ムスターナさんが割って入りました。


「隊長さん、どんだけすげえ事したか、判ってねえんじゃねえか。公子様がただの武人じゃねえのは知ってるが、今まではカマス頭仕留めるのは大将の役だったんだぜ」

「今まではどこの辺で獲ってたんです?」

「獲ってなんぞいねえや。港襲われたら、浜のもんは穴倉に隠れて、軍が来てくれるのを待ってたんで」

「あの辺りでの漁は禁止しとるんじゃがな、どうしても金が必要で行く者はおってな。潮目を読みそこなって沖に流され、カマス頭が喰うと人の味を覚えて、港を襲うんじゃ」

「今まで、何匹くらい獲ってるんです?」

「儂が二匹、インティソルビスとエレガンティナが一匹づつじゃな」

「そんなものをいきなり獲らせたんですね」

「出来ると思うたからな。お弟子よ、云うて大丈夫か?」

「大丈夫だと思います」

「なんです」

「嬢ちゃん、カマス頭を全く恐れとらんじゃろ」

「いや、怖かったですよ」


 お弟子が反論してきました。


「当たったら死ぬでかくて重たい物、くらいにしか思ってなかったでしょ。霊的な恐怖じゃなかったはず」

「それは、そうですけど」

「云うて妙に意識してしもうて、出来なくなれば元も子もないで黙っとったんじゃが、初撃は別としても、亜竜に相対で敵視されてから撃ち返せるのは准将以上じゃ。嬢ちゃんは胆力だけならもう将官なんじゃよ」

「セネアチータ殿は?」

「六属性の嬢ちゃんは相手にされとらん。それでも奴の目を見て撃てるのは将校に値するんじゃが」

「もうね、諦めて。大体老師様に言い返せるのが並みの者じゃないよ」

「もの凄い無礼をしていたのですね」

「そのような事はないわ。儂と嬢ちゃんは同格じゃ。でなければ竜殺しになれん。シェムーザから単属性特級の聴講生がいると聞いた時は期待はしたが、ここまでとは思わんかった」


 普段あんまり表情から感情が判らないトーアベヒター錬成科長までも、あからさまに嬉しそうです。


「咆哮が空撃ちになったのも、良い誤算でした。次も同じであれば、カマス頭猟の危険度が変わります」

「次っていつですか」

「早くて三日以降だろう。あの辺りは良い漁場らしく、常に一体おるのだが倒されると三日から七日は空くのだ。小船が様子見に行くのでそちらからの知らせ待ちだ」

「一匹獲れたら帰るんじゃないんですか」

「こちらの損害がまったくなかったからな。怪我人も出ず大筏も傷一つない。同行した武人、漁師の能力も上がり、士気も高い。この機を逃すのは愚かだ」


 愚か者でいいから帰りたいのですが、帰ったら国に居る場所がなくなりますね。

 他所の国に行っても、これ以上の人間関係や待遇があるとは思えません。

 ラメール様にも三日は休めますから、と気休めを言ってもらいました。


  元締めの屋敷の宴会場は無礼極まりない無礼講の場と化しました。エロビデオの団体温泉旅行。なんでそんな物の記憶があるのかしら。

 同じ男の人と付き合っていると子宮が妊娠可能状態になる一種の刺激性排卵で、生理がないのがすごく楽に思えるので、前世も女だったと思うのですが。

 巻き込まれないように食事をしたらさっさと部屋に行きます。

 明日のご飯は漁師鍋みたいのが大量に用意してあって、好きな時間に食べられるそうです。一日中寝ててもいい。

 明日になると商人が貿易港から来て屋台なんかも出るので、三日はまったくお休みです。


 ご飯を食べに食堂に行くのも面倒なので、収納の中の携帯食で済ませて、昼過ぎまでだらだらしました。

 漁師鍋を一杯だけ貰って、屋台を見に行きます。小さい店が多いので、バザールより縁日に近い感じです。

 漁港では採れない果物を色々売っています。

 森の果物は美味しいけど、乳脂肪二十%以上のアイスクリームみたいのばっかりです。ちょっと軽くて美味しいのも食べたい。

 ロンタノはちゃんと付いて来てくれるのだけど、ムーたんは欲しい物があると、そっちに行きます。

 ラメール様は行くのは止めません。


「ムーたんおいで、それは買わないよ」

「めえ」


 弱目に抗議して戻ってきます。


「呼べば戻ってくるので、問題はありません」

「騎乗者を置いて行くこと自体問題なのでは」

「状況判断を自分で出来ないと、拙の乗騎には向かないのです。ここは安全だと判断しているのです」


 戻ってきたムーたんをよしよしされます。

 固定砲台のわたしと違って、ラメール様は接近戦をしなければならないので、砲手の他に運転手が必要なのですね。

 ちょっと変わった子なので、なかなか騎乗者が見付からなかったのだそうです。子供達に好かれているので、悪い子ではないはずですが。


「山羊ちゃん、食べる?」


 なんだかくたびれた感じの女の人が、拳大の黄色いジャガイモみたいなのを差し出しました。

 ムーたんはラメール様を見ますよ。


「や、それはいらない」


 美味しくないものでも、乗騎に食べさせてお金取るんですね。一般人でも乗騎をもっている人はいますから、この手の商売のやり方もあるんでしょう。ムーたんは引っ掛かりませんでした。

 ちょっと見直したので、ムーたんが欲しがる果物を買ってみました。橙色で大き目のプラムの見た目。

 いい匂い。でもすっぱい。完熟した梅みたい。匂い詐欺。


「山羊ってすっぱい物好きなんですか」

「ムーたんが好きなだけです。だからムーたんの好きな物は買わないんです」

「なんでおっしゃって下さらなかったの」

「女の人はすっぱい物好きな人いますから」

「そうですね、心当たりはあります」


 薬学科長と女子若干名がスダチだかライムだかみたいのをかじっているのを見たことがあります。あの人達味覚がムーたんと同じなんだわ。

 自分の通った同じ道を歩かせたいとか、被害者を増やしたかった気がしないのでもないのですが。そう言う事すると女の子は一生覚えてますよ。

 品行方正なだけのつまらない人ではないんだと、良い様に取っておきましょう。

 食べ残しはムーたんが食べてくれました。ロンタノに甘そうなのを頼んだら、ちょっとしっかりしたスイカみたいのでした。まあ、無難。


 貿易港から持って来ているので、見たことのない果物が沢山あります。大きくてもロンタノとムーたんが食べてくれるので、少しずつ味見が出来ました。

 わりと楽しいお休みでしたよ。

 ちなみに匂い詐欺を買って薬学科に上げたら、群がって来ました。酔香果と言うのだそうです。名は体を表す。

 薬学科の人達はどこにも出ないで、ずっとカマス頭の血の処理をしています。それが楽しいらしいので。


 四日目に、同じ場所からカマス頭が見えると報告が入りました。

 老師様がやって見たい事があるとおっしゃって、仕留め役は老師様になりました。

 一応、以前からやっている咆哮の衝撃を二人掛かりの衝撃波で打ち消すつもりで行きます。

 口を開いたらわたしとセネアチータ殿が口に撃ってから衝撃波、打消しても一方的な攻撃になっても直後に一斉攻撃。

 一回目は安全のためにわたし達二人は下げられましたが、射線を開けておいてくれれば、後ろからでも撃てるんです。

 相手の居る事なので予定通りにはいかず、わたしが胴を撃っただけでこっちに向かって来ました。


「六属性の嬢ちゃんも撃っとくれ、嬢ちゃんも、もう一発じゃ」


 こんな時は百戦錬磨の人がいると安心です。

 わたしが撃ったら口を開きました。


「六属性の嬢ちゃん、弱くて良いが撃てるか」

「はい」


 セネアチータ殿の攻撃が口の中に当たって湯気が出ました。衝撃波ではレーザーは押し返せませんからね。

 口を閉じて突っ込んできたところに衝撃波の十字砲火に合わせたレーザーを二発、後は落ちて感電して老師様が上がった頭を撃つまでは同じでした。

 命綱を着けてカマス頭の胸に飛び乗った老師様は、石突で胸を打ちました。

 一呼吸遅れて、霊気爆発が起きます。

 引き上げられた亜竜に作業員が群がります。

 戻って来られた老師様がドヤ顔です。


「穴を開けてしまうより、死に立ての鮮血が多く採れるじゃろ」

「そう言う狙いだったんですね」


 周辺警戒をしながら作業が終わるのを待ちます。

 バーチェス公子とラメール様は漁師と一緒に怖い顔の魚、シャチホコを二匹獲りました。

 採血の作業が終わると、内臓の摘出を腑分け大好きさんに任せて、薬学科長がやって来ました。


「御陰様で鮮血が大量に採取できましたが、なんとか、殺す前に生き血が採れるようになりませんか」


 薬学科長が変なことを言い出します。この人は足るを知ると言う事はないのでしょうか。


「断末魔の一撃が残っとるもんを筏に上げられんじゃろ」


 老師様が至極当然のお答えをなさいます。


「陸棲の亜竜でなんとか出来ませんか」

「やって見んと、判らんな」


 何言ってんでしょうこの人達は。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る