第20話 仕事は趣味じゃない
次はハズレでみんなで湖畔のキャンプ場でした。沼だけど。
最初に安全確保で一発撃ちます。海と違って、魔物ばかりなのでかまわないんだそうです。
魔物の魚ってどうやって繁殖してるんだろう。普通の魚が魔物化するんじゃないの?
浮いた魚の目ぼしいのを引き寄せても、水の中からはそれ以上大きいのは来ませんでした。
翼長三メートルの鷲が寄って来たので、わたしより命中率が高いセネアチータ殿が撃ち落としました。
老師様が褒めていました。これを一人で狩れると一人前以上なんだそうです。
錬成科は長い曲がった爪の熊手に網が張ってある、アサリ掘りみたいので沼の中も漁っています。
霊法術師組は周辺警戒です。乗騎もやってくれるので、実際は意味がないのですが、自分でも敵を感知出来るようにならないといけないのです。
何時でもロンタノが側に居てくれるわけじゃありませんから。
士官学校の選抜組でも本来は来れるような場所じゃないので、緊張感が無茶苦茶です。
一人だけイージーモードに退屈している人がいますが。
「鹿来るで」
老師様の一言で採集組が森の獣道から離れました。わたしとセネアチータ殿は正面に立って、鹿が見えたらパルスを浴びせ掛けて、左右に逃げます。
獣道を突進してきた鹿に、横からミューザレイヌ殿が衝撃波を当てて転ばせ、バーチェス公子が斬り付け、傷口にラメール様が電撃を流し、グラシア殿とアマーレ殿が頭を撃って仕留めました。
「問題ないのう。なんか来んかな」
これはフラグなのか物欲レーダーなのか。待ってると来ないんですよ。
解体と収納は錬成科と薬学科がしてくれます。この鹿革の鎧は士官学校の女生徒に人気があります。数が獲れそうなので、彼女達に回せます。男子は森廻りを欲しがります。
一通り採集が終わって、士官学校生が最後に今日のおかずを獲るために網を打ちました。一メートル前後のがちらほら入っていますね。
非常に充実した狩猟と採集でした。一人だけつまらなそうな人がいますが、今止めちゃうとわたしの成長が遅くなって、先の面白い事が先延ばしになるだけなので、我慢しています。
百年以上生きてるんですから、そのくらいは判るようです。
老師様がいなければわたしなんかこの森に来ることさえなかったわけで、そんな所の奥に来てつまらないもないもんですが、錬成科も目ぼしい物を採集してしまったようで、帰ったら元締めに東側の湾の奥に近い森の情報を聞いていました。
「あの辺りはほとんど行く者がいねえんで。東に有る程度行ってると南に逃げても湾になりやすから、森から出るにや南西に長めに森の中を移動しねえとならねえんで」
「老師様、危険はありますでしょうか」
「行ってみんと判らんよな。嬢ちゃん、どうじゃな」
もう行ってみたくてしょうがないんでしょ。
「奥に行くのではなくて、西に行くのを東に行くなら、構いませんけど」
「そうじゃな。次にトカゲ頭がおらなんだら、東に行くか。薬学はどうじゃ」
「お供します。なにがあるか判らないなら、調査の必要がありますから」
飽きた人約一名と新しい採集所に行きたい人約二名によって予定が変更されました。
そう言う心掛けで行くと、ちゃんとトカゲ頭がいるのですね。
「おるんかい」
「いちゃいけませんか」
「いけなくは、ないが」
なぜか三大権力に勝った気がしましたが、気のせいでした。
滞りなく森廻りの討伐まで終わったのですが、三匹だけでした。採集の手際も良くなったので、少し時間が余りました。
「嬢ちゃん、ちっとだけ東に行ってみんか」
やだって言う勇気が欲しい。言ったところで、子供が駄々を捏ねてると思われるだけだけど。
錬成科の二人は、薬学科の徒歩組と一緒に普通の強壮剤を飲んでいます。
「ちょっとだけですね」
「ちょっとだけよ」
なんで薬学科長が返事をするんでしょう。確実に利益があるのはこの人なのですが。
しょうがないので、ロンタノを撫ぜて、知らない危ないところに行くので頑張ってくれるようにお願いします。
「むうう」と返事をしてすりすりしてきますよ。可愛い。この子で良かった。
乗ろうとしたら、既にラメール様を乗せたムーたんが寄って来ました。
「並んで歩くのは無理よ」
「いえ、少し撫ぜて下さい。貴女に撫ぜてもらいたいのです」
「そうなの。大きな強そうなのが出て来たら、ムーたんにも頑張ってもらわないとね」
はい、よしよしします。ちょっと撫ぜたら「めえ」と言って満足したらしいので、出発です。
別のムーたんがこっち見てる気がするけど、気のせいでしょう。
斥候二人に先導させて、老師様がその後を行きます。わたしとセネアチータ殿、ミューザレイヌ殿は薬学科と一緒に手勢に守られています。
薬学科長が時々何かを採るように指示してちょっと止まったりしながら、慎重に進みました。
索敵の練習がてら周囲を見回して、気付いた事なども話しました。
「黒ブドウが多いですね。潮風に強いんですか」
「弱くは無い、程度ですね。森芋もかなりありますが、掘られた跡があります。イノシシ類がいるでしょうか。荒れ方から見て中型の集団ですね」
中型と言っても一トンはあるらしく、大型じゃないくらいには大きいようです。
「嬢ちゃん達、三人とも来とくれ」
老師様に呼ばれて、セネアチータ殿、ミューザレイヌ殿と行きます。トーアベヒター錬成科長も呼ばれなくても寄って来ました。
「下草に隠れとるがイノシシの集団じゃろうな。そこそこのがおるわ。二人でぱるす撃っとくれ。寄ってきたら衝撃波じゃ」
老師様が各種の指示をされて、戦闘隊形を整えてから大きな羊歯の群生に向かってパルスを撃つと、小口径の機関砲くらいの威力の爆発が起きます。
それを突っ切って、サイサイズのイノシシが向かって来ました。
衝撃波を浴びせて動きを止め、闘気弾の雨を降らせた後、老師様とバーチェス公子が斬り込んで仕留めたのですが、半分くらいになったら老師様が威圧して追い払われました。
「どうしたんですか」
「これ以上獲っても持ち切れんわ」
トカゲ頭も獲ったのですよね。なんか麻痺して来ましたよ。横取りが来たら無駄に殺す事になるので、さっさと撤退しました。
港に帰ったら、イノシシの肉は好評でした。誘き寄せるだけなら三級のレーザーでも出来そうですし、尉官以上を揃えて行けばイノシシの群れは獲れるのですが、横取りになにか来るかが問題です。
次にトカゲ頭がいなかったら、東に行って見る事になりました。
なんか邪念みたいのがあると上手く行かないもので、次はトカゲ頭がいた上に、老師様が殺し損ねてしまいました。
瀕死の亜竜が生き血大好きさんの餌食になった後、三匹だけ来た森廻りが八つ当たりで瞬殺されて、もうちょっとだけ北に行きたいと、お爺ちゃんが駄々を捏ねました。
別のトカゲ頭に遭う可能性はかなり低いし、森廻りもいないはずで、いるなら鹿くらいなので、行ってみたら鹿がいたので獲って、それで帰投になりました。
収穫としては随分良かったのですが。
「次は、直に東行ってみんか。群れイノシシ獲るにしても、その上が何か判らんとまずかろう」
「これ程の戦力の揃った調査隊を組むのは困難ですから、出来ればして頂きたいのですが、危険性としては、未知の魔獣の生息域での戦闘になることでしょうか」
ガラデニア薬学科長が常識的な意見を述べたのですが。
「東の霊気の薄い場所を辿るなら、未知の亜竜でもありったけの爆音雷を投げれば、逃げられるんじゃないでしょうか」
あまり希望的観測を言わないワイサイト教授が言いました。
「やや南寄りを行けば討てぬ事もあるまい。薬学科の戦闘慣れしておらん者は連れて行けんが、よいか」
「未知領域の調査ですから」
流石に安全マージンは取りますね。
薬学科を士官学校からの選抜組に入れ替えて、東側の調査に行きました。
イノシシの群れを狩って、出来るだけ霊気の薄いところで待っていたら、頭の大きな狼らしき魔獣の群れが来ました。
似たような古代生物がいましたね。アンドリューサルクスでしたっけ。あれの口を横に広くして、口吻だけなら毛の生えたクロコダイルにも見えます。
見た目が凄くても老師様の敵ではなく、班狼と同じように狩られてしまいました。
「こんなもんか。もっと強いのはおらんか」
「トカゲ頭も狩りに来るのを更に南に呼んでいるのですから、この辺りではこれが一番なのではないでしょうか」
生物学専門のガラデニア薬学科長の見解に反対意見もなく、獲物の量的にも収納限界なので帰りました。
大頭狼と名付けられた魔獣の革は、班狼と同じ重さで防御力が高く、高級品になりました。竜伐特務旅団全員が普段着にもらいました。
群れイノシシも大頭狼も適当に強い上に実入りもあり、軍の上位者の修練に最適なので、野営地が恒久化することになりました。
亜竜の干し肉で咆哮を吐ける乗騎も増えてきて、採集も安全になるようです。
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