第19話 介護する必要がない元気なお年寄りのお守り
四回目の討伐は空振りでした。いなかったんですよ。索敵能力の高い老師様とロンタノのお母さんで警戒しながら、トカゲ頭が待ち伏せしていた処に行ってみました。
亜竜の干し肉を食べ続けていたお陰で、ロンタノのお母さんは衝撃波の咆哮が吐けるようになったので、前衛も出来ます。
牛だけど、基本的には魔獣なので、雑食です。
鹿の通り道があるようで、それほど待たずにやって来た鹿を獲りました。
採集も普段より深い場所で出来たので、学院関係者は良かったのですが、只で護衛をさせられた老人が我がままを言い出しました。
「嬢ちゃん、五匹にせんか。来ないときもあるで。十匹は無理じゃろ」
「急ぎ過ぎだから変更したんじゃないですか。戻してどうするんです」
「したが、儂、暇じゃで」
「索敵して下さいよ」
こっちは周辺警戒だけでも緊張しているのに。
「しとるよ。あぁ、鹿来るで」
来た鹿は最早作業で獲ります。
「この鹿、どこから来るんでしょう。同じ道通るのはなぜ?」
「どこから来るかは判らないが、この先には広い沼がある。水を飲みに行くのだな」
会った時にはかなり個性的だったのですが、ただ付いて来る人になっているトーアベヒター錬成科長が教えてくれました。
「このくらい奥でもそこまで判ってるんですね」
「隠密力の高い猟師が入り込んでいる。採集すべき植物を知っていれば、危険に見合う収益はある。猟師では判らぬ物もあると思う」
「嬢ちゃん、そっち行ってみんか。面白い事があるかもしれん」
このジジイは。
「良い物があると言う事は、ここより危険なんじゃないですか」
一生懸命何か採集していたはずの薬学科長も、寄って来ました。
「植物の重要度は霊気の濃度だけではありません。老師様がご同行下さるなら危険はないでしょう」
行きたくないのはわたしだけのようです。
「沼と湖の違いって、深さですよね? この先にあるのが沼なら、そんなに深くないから、変なのはいませんよね」
「森の中にあるのは大きさに関係なく、大概沼と呼んでいるよ。澄んでて小さいのは泉」
ワイサイト教授が無駄に不安にさせてくれます。
科長二人よりわたしの方が偉いと言われても、三大国家権力に逆らえるはずも無く、巨大鹿が踏み固めた二人並んで歩ける幅の獣道を行くのでした。
そして、キャンプ場かなと思えてしまう、見晴らしの良い岸辺に到着しました。
ロンタノの背中の上から水平線が見えます。地球だったら五キロくらいかな。もっとかな。これでも沼なのね。
「若賢者殿、ここになにかおる云う話は聞いとるか。近衛軍司令になってから現場に疎くなってしもうた」
「いえ、水上に何か大物が見えたと言う話はありません」
「おるとしたらまったくの水中か。さあ嬢ちゃん、一発頼むで」
生き返ったような老師様に促されて、水平線よりは結構手前に一発撃ちました。隕石が落っこちたみたいになった後、それなりに大きな魚がなんとか届きそうな辺りに浮かびました。
「二腕越えか。皆下れ。鉤縄投げるで」
老師様が鉤縄を収納から出して、直径五メートルくらいで振り回して投げました。
「凄い。あそこまで届くんだ。しかも当たってる」
うっかり声に出してしまいました。背中なのに喜んでるのが判るのはなぜ?
士官学校生が寄って行きます。
「曳きますか」
「おう。まかせる」
人間より大きな魚が無事に水揚げされました。
解体を薬師科に任せて、錬成科は岸辺の石を漁り出します。
生で欲しい部分が少なかったのか、わりと早く魚は仕舞われました。
見てるだけで暇だったので、余計な事を言ってしまいました。
「ここの頂点捕食者としては物足りない感じですね」
「どう云うこっちゃ?」
「この魚を食べるのがいてもよさそうな」
「そうじゃろ、儂もそう思う」
岸辺で何かやっていた人達を引き上げさせて、セネアチータ殿と二人掛かりで、水平線近くを撃ってみました。
一旦わたし達が下がって、老師様が仁王立ちで気を放たれます。
「おのれの棲家を荒らしに来たぞ。勝負せい」
水平線との中間辺りに、角ばったトカゲっぽい頭が浮かびました。
「嬢ちゃん達、もう一撃じゃ」
気配を消した老師様を挟んでもう一撃をします。少し手前にトカゲ頭が現れて水流を吐きましたが空中で消えます。
大きな鱗に覆われているので表情は変わらないはずですが「あれ?」みたいな雰囲気でこっちを見ています。
「嬢ちゃん達、もう一発撃ったら代わっとくれ。鼻面よりちと手前がよいか」
「はい」
頭を狙って沈まれると向こうに飛んでいってしまうので、手前を撃つんですね。溜めている間に潜られたので、ちょっと手前の水面を撃って、衝撃波組と交代しました。
衝撃波の射程に出た鱗張りの頭に衝撃波の十字砲火が当たり、また引っ込みます。
老師様が独り岸辺に残って、全員を森の中に後退させました。
「釣れたようじゃな。儂もちと下るか。嬢ちゃん達、口開いたらぱるす撃っとくれ」
「はい」
構えて見ていると、大きな亀かと思うほど平たいゴツゴツしたトカゲらしき物が水際を上がって来ました。
前足の手首の先は分厚い鰭に爪が付いています。尻尾はおたまじゃくしみたいに縦に平たい。
老師様が誘いで下ると口を開いたので、パルスを浴びせました。
嫌がって短い首を振りますが、後ろには下りません。
パルスが終わった途端に老師様が飛び掛って、首に石突を振り下ろしました。
「生きとるぞ。薬学、どうする」
「下さい!」
薬学科が全員走って行きます。言われなくても盾役も付いて行きました。
「強くはなかったが、知らん獲物が獲れたのは、まあまあじゃったな」
お爺ちゃんが満足してくれたようでよかったですね。
カマス頭と同じくらいの亜竜だったんでしょうか。
ネッシー型の何十トンもある魔獣とか居たらやだなと思っていたのですが、異世界だからって、そんなに突拍子も無い事は起きないようです。
開放された生命力を感じて、一メートル越えの魚も寄って来て、士官候補生に仕留められました。このくらいの霊気の濃い場所に棲んでいる川魚は高級魚で、綺麗に仕留めたのは献上物にもなるそうです。
飽きたからって帰っても、カマス頭狩りをするだけなので、ルーティンワークなのは同じです。
死の都討伐の為にも、トカゲ頭の素材はあればあるほど良いので、十匹狩る事にしました。
死の都はついでに寄って行けるような処ではなく、国を挙げての攻略になるそうです。
トカゲ頭がいなかったら、沼に行って採集になります。無理に水棲の平たいトカゲは獲らずに、大きな魚が獲れればいいそうです。あんまり強くないので、老師様が興味を失いました。
数がいるかどうかも判りませんしね。
二腕越えが次に獲れたら、ぐちゃぐちゃに解剖しないで国王陛下に献上になります。
色々打ち合わせをして行ったら、トカゲ頭がいたので、老師様が殺しちゃいました。薬学科長が「意地悪ううう」とか言ったけど。
これから先の戦いを考えると、手加減する癖なんか付けてはいけないのだそうで。どんな戦いが待っているのやら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます