第18話 異世界と言えばダンジョン
竜魚の消化器官の内容物は錬成科に任せて、薬学科は早く生き血をどうにかしたいらしくて帰り支度です。
生き血自体は収納に入れちゃっていいんですね。収納に入れると細胞が死んでしまうとしても、死にたてと収納に入れた体から採ったのは同じじゃないかと思うのですが。明らかに違うんだから、違うんでしょうね。
戦士組は、内臓に寄って来るハゲタカサイズのトウゾクカモメみたいな、大きな鳥を撃ち落として修行です。
わたしとセネアチータ殿も弱目にレーザーを速射して、群れに襲われた時の対処の練習をします。
「嬢ちゃん二人とも、随分上手いのう。これなら、門番鳥もいけるじゃろう」
独居老人が変な独り言を言っています。今ちょっと忙しいから、相手をして上げられないの。
「嬢ちゃん、門番鳥気にならんか」
「今、この鳥で手一杯なんです」
「こんな雑魚は若いもんに任せておけばええ」
「わたしが一番若いんですが」
「そう云わんと聞いておくれ」
抵抗してみてもどうせ聞かされるんでしょうけど。一人だけ暇なんですよ。
「ここから一日西に戻った辺りの北に、死の都があるんじゃ」
今まで話に出て来なかった場所です。言えない要素があるのでしょう。
「絶対に行きたくない名前ですね」
「行くと死ぬ訳ではないで。棲んどるのが全部、動く骨だけの死体なだけじゃ」
「名実共に絶対行きたくないです」
「しかしな、行かん訳にもいかんで。霊鋼銀が採れるのはあそこが一番近いで」
「なんでそれを採りに行かないといけないんですか」
「バーチェスとラメールの武器造らんと。これと同じじゃ」
老師様が持っている短槍を差し出して見せて来ます。
「なんで老師様がお持ちのと同じ物が必要なんです。カマス頭やトカゲ頭の爪の槍でいいでしょう。同じ亜竜じゃありませんか」
「それだけ走り鎌が硬いんじゃ。我が国の亜竜としては最強じゃで」
「走り鎌を獲らなければよいのでは。今まで獲ってないんですから」
「嬢ちゃんがいれば獲れるんじゃ。真竜獲るんじゃから、今更そんな事を云わんでおくれ」
やれるからやらせようとするんでしょうけど。
「結局その内行くんでしょうけど」
「じゃからな、今の内から知っとくと良いんじゃ」
もう、相手してやらないとどうにもなりませんね。
「なんなんですか門番鳥って」
「恐らく元の大きさはカマス頭と変わらん」
「亜竜じゃないですか」
「元はな。今は骨だけじゃ」
「亜竜のスケルトン?」
「異界の言葉は判らんが、知っとるようじゃな。そいつが入り口におってな、骨の癖しおって咆哮吐くんじゃ。しかも、人間の衝撃波より射程が長いんじゃ」
生体ではなく、純粋な霊力による攻撃だからでしょうか。
「今までどうしてたんです」
「衝撃波持ちを揃えて打ち消すしかないわな」
「骨を霊障壁が包んでいるんですよね? レーザーはあんまり効かないんじゃないでしょうか」
「当りゃええんじゃよ。攻撃すれば寄って来るで」
「弓じゃだめなんですか」
「霊力が乗っとらんと反応せん。大弩でも結界の外からでは当たってもすぐに元に戻るんじゃ」
「結界なんてあるんですか」
「壁みたいなもんではないが、霊的な境があるんじゃよ」
「入り口に亜竜のスケルトンがいるフィールド型のダンジョンなんですか?」
「すまん、それはお弟子に聞いとくれ」
今する必要のない話をしている間に粗方の調査が終わって、日が暮れる前に帰ります。
帰ったら、宴会は兎も角、次のトカゲ頭狩りの打ち合わせをしないといけないはずのなですが、死の都の話になりました。
若い娘が行きたがる訳もない場所なので、黙っていたのですね。
カマス頭が順調に獲れて骨で戦槌が沢山造れたので、前倒しにしたいと。
やっぱり、フィールド型ダンジョンで、古代都市がダンジョン化したのが魔都、森がなったのが魔境です。洞窟型の魔窟もあります。
普通の魔獣と違って、生殖せずにリポップするようです。
魔獣がいなくてアンデッドばっかりなのが死の都なのですが、どうしてそうなったかは、なった原因のせいで不明のようです。大絶滅みたいなことが起きたのでしょうか。
死の都を定期的に攻略しておくと、この世界では湧き出しと呼ばれている、所謂モンスタースタンピードが起きなかったり小規模になったりするので、危険でも攻略しない訳にはいかないのだそうです。
これは行かないでは済ませられません。わたしが行かなかったせいで死人がでたら嫌ですよね。
今のところ湧き出しの兆候は見られないそうですが。
「動死骨とやり合う為にも、トカゲ頭の骨は必要なんじゃ。大物もおるで」
「最初からそのつもりで、獲りに来たんですね」
「そう云う事じゃな。思っとった以上に嬢ちゃんの能力が高いで、ちと急ぎ過ぎすぎたな。五匹でええと思うたが、十匹獲るか」
「なにか違う気がするんだけど」
「気のせいじゃよ」
どう足掻いても勝てないので、三匹目のトカゲ頭狩りに行きます。
やはり小山から見えるところにいたのですが、山頂からでは木に隠れて位置が悪いので中腹まで降りてレーザーを撃ちました。
先にわたしが撃って、こっち向いた怖い顔にセネアチータ殿が撃って、一緒に山を登ったのですが、牛のロンタノより山羊のフレシュナイトの方が山登りは速い。
山頂に着いたセネアチータ殿が撃ったちょっと後にわたしが着いたのですが、
「嬢ちゃんはぱるすじゃ!」
「はい」
もうそんな距離に来てるんですね。セネアチータ殿もパルスを撃って闘気弾組と交代です。
その後は同じ手順で、薬学科の願いも虚しく老師様が首を圧し折って殺してしまいました。
「無理に殺す事はないじゃないですか!」
「勝手に死んだんじゃ」
それ悪人の台詞です。素人目でも態と殺したようにしか見えませんでしたよ。
最初の一匹の時に比べて、老師様が強くなってませんか。
吸収できる生命力には限界があるので、そんなに急に能力が上がらないはずなのですが。
森廻りは五匹しか来ませんでした。減ったんでしょうか。
代わりに帰りに一トン越えの鹿がいたので、わたし達だけで倒してみました。
セネアチータ殿と二人掛かりでパルスを撃って、おたおたしている内にミューザレイヌ殿が近付いて衝撃波全力ブッパ。倒れたところにバーチェス公子が斬り付けてほぼ致命傷。ラメール様の風属性弾と縁故入隊ズの闘気弾で仕留めました。
鹿は大物より最期に動き易いので、遠距離攻撃で仕留めます。
「問題ないようじゃな。走り鎌を獲ればバーチェスがトカゲ頭の仕留めが出来るようになるじゃろ。グラシアもアマーレもちっとの間に闘気弾の威力が上がったのう。なんもかんも良い方向に行っとる」
強くなったのは老師様だけではありませんね。こちらは最初から見ればの話ですが。
士官学校生九人にやらせると、闘気弾の射程に入る前に逃げてしまいます。人数を少なくすると危ないのでやらせません。
さらに二匹鹿を仕留めて帰ると、元締めから、竜魚の内容物から古代の金貨が出た報告がありました。好事家が集めているので、出所がはっきりしている物は良い値段になるそうです。
異世界にもある謎の古代文明。
「死の都の建築様式は、何時頃のものなのでしょう」
賢そうな生産職一同に聞いたのですが、ワイサイト教授すら反応してくれません。
「時代や民族で建物の形が違わないんですか」
「それは、ないね」
「一回文明が世界規模で滅んでいるはずなのに、建築様式は一緒なんですか」
「うん。今、言われるまで不思議に思わなかった」
「これって、気付いたらだめな事だったりします?」
「特に、無いように思うけど、ちょっと気にしておくよ」
他にどうしようもないので、この話はここまでになりました。
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