第21話 竜伐特務旅団更に東へ
二回に一回はトカゲ頭が獲れると知ったエレガンティナ閣下が獲りたいと言い出し、インディソルビリス閣下が今度は自分が先だと言い出してしまったようです。
まったく我儘な二人です。
行き帰り含めると一月くらいになるので、許可が出るはずがないと思っていたら、部下が強くなっているので、許可されてしまいました。
誰が仕留め役でもわたしには直接影響はないのですが、我儘が通ってしまうのがいやです。
カマス頭の事があるので、インディソルビリス閣下が先に来られました。
飽きていたくせに自分の獲物を取られた老師様がおかんむりです。
「なんでこんな我儘が通るんじゃ。近衛軍司令が一月も都空けて良いのか」
「トカゲ頭どころか、カマス頭も狩れる獲物ではありませんでした。全てはタチバナ旅団長のお陰です」
わたしのせいにしないで。
どう言っても正式に許可が出ているのですから、トカゲ頭狩りです。
「何とか、確実に瀕死に出来ないのでしょうか」
諦めの悪い薬学科長が食い下がります。
「多分真上から打って頸動脈が切れると死んじゃうんですよね。倒れているのを真後ろからは無理でしょうね。手加減なしでも斜め横から頸椎だけ打てませんか」
「やってみよう」
「儂、出来ん訳じゃないぞ、嬢ちゃんが教えてくれなんだだけじゃ」
出発前にちょっとごたごたしましたが、いつもの狩場に到着しました。
インディソルビリス閣下は倒れたトカゲ頭の後ろに回って、石突で水平に打ち込みました。
「打つんじゃなくて、槍なんだから刺すのと同じに突けばいいのね」
「ま、そうじゃな」
なんでこの発想がなかったんでしょう。コロンブスの卵ですね。
カマス頭狩りで打ち下ろす癖が付いていたみたいです。
頸椎損傷で全身麻痺の亜竜から、生き血が大量に採集されました。
老師様が不機嫌なので、インディソルビリス閣下はとっとと帰りました。
近衛軍司令閣下か帰り着かないと王都守備軍司令閣下は出発出来ないので、その間に老師様は水平突きで二匹頚損を作りました。
「凄いです! 亜竜の生き血が確実に入手可能になりました!」
ガラデニア科長が嬉しそうなのも、そこはかとなくいや。わたしって性格歪んでるのかしら。
「嬢ちゃん、何か、思い付かんか」
「いきなりおっしゃられても、どうお答えすれば良いのやら」
「何かこう、妙に感じとる事とかな」
「そうですね、なんで湾の奥に行かないんだろうとは思っています」
トーアベヒター科長が答えました。
「漁師が恐れているのだ。そう簡単に長年の恐怖がなくなるものではない」
野獣がうろついているだけの中世の地球でも、旅行は命懸けだったのです。
魔物がうようよ泳いでいる海で、トライ&エラー(トライアル&エラー?)なんか出来る訳がありません。
「嬢ちゃんのれえざあをぶち込めば、一月は大物は寄って来んじゃろ。しかし、奥行ってどうするんじゃ」
「小さな浜がありますよね。あそこから森に入れそうな。簡単にトカゲ頭狩りと同じくらいまで行けるんじゃないでしょうか」
「それじゃ! エレガンティナを乗せてくる船をそのまま漁港に廻せんか聞いてみる!」
老師様が消えました。衝撃波は出ていないので、音速は超えていませんね。
エレガンティナ閣下も、トカゲ頭狩りの前に東の未知領域に行かれる事になりました。勿論その方が安心です。
予算は潤沢なので、浜に簡易の陣地を造って出撃する事になりました。
エレガンティナ閣下が着く前に、景気付で一発ぶち込みます。
「びびってんじゃねえ! 行け!」
元締めの発破に押されて動力船が奥に突っ込んで、網を下ろしました。
半死半生の大きなカニがいっぱい獲れました。
深海魚まで行かない底魚も獲れて、浜は大賑わいです。
エレガンティナ閣下が着いた翌日出発、湾の奥の浜に陣地を造って翌朝から探索の予定でしたが、午後に着いたエレガンティナ閣下は船から降りてこないで、早く行こうとこちらを呼びます。
わたし以外はみんな早く行きたかったようで、乗船して湾の奥に向かい、日暮れ前に陣地が出来ました。
早寝してゆっくり休んで、翌朝早くに出発です。
エレガンティナ閣下は二十樽入りの収納を持って来ていました。
無理をせずに西側から、斑狼、大頭狼、森回り、大鹿を獲って探索域を広げて行きました。
手付かずの地域だったので、薬草、果物類は多いのですが、変わった物はありませんでした。
少し北に向かいましたが、海が入り込んでいるせいで暖かいからでしょうか、緯度としてはトカゲ頭が待ち伏せしている辺りまで来てしまいました。
「気候が違えば、別の物がいても不思議はないのですけどね」
ガラデニア科長が誰言うとなく言った言葉が引き金だったかのように、老師様が立ち止まりました。
「おるぞ、かなりでかい。下がれるだけ南に下がるか」
少しでも有利になるように、小高い場所に陣取ります。
「下草で何も見えんが、あの辺りじゃ。トカゲ頭より大きな生命力を感じるが、儂とエレガンティナ二人掛かりなら倒せんことはあるまい」
「はい」
指さされた場所に、暴発寸前のビームを打ち込みます。
起き上がった何かにセネアチータ殿のパルスが降り注ぎ、お返しとばかりにそれは瓦礫の嵐を吐出しましたが、こちらまでは届きません。
「地属性か!」
思わず老師様が叫びました。防御力、耐久力が大きいものが多いのです。
相手がどうでもひたすら攻撃します。乗騎も混ざって衝撃波を吐き、老師様とエレガンティナ閣下の闘気弾の十字砲火が両目を撃って、漸く止まりました。
「撃ち方止め! エレガンティナ行くぞ!」
「はい!」
一瞬でお二人が距離を詰め、両目に直接槍を突き刺しました。
そして、また一瞬で戻って来られます。
「よし! 撃て!」
頭がなくなるほど撃ち込んで、突風が吹きました。
「血抜きの暇はない、二十樽に入るか? だめなら解体じゃ」
大蛇に見えたのですが、ドラゴンぽくなった巨大なツチノコでした。
ギリギリ二十樽に入りました。
何が来るか判らないので、すぐさま撤退します。
「意地汚いのが追ってくるわ。戦えぬ者はそのまま下がれ。嬢ちゃん、合図したら、斜め上にふらっしゅを頼む」
「はい」
老師様の合図で、振り向きざまに思い切り広範囲フラッシュです。
何かが何匹か、ぎゃあっと悲鳴を上げて落ちました。
闘気弾がボコボコ撃ち込まれて、何かは皆殺しにされました。
拾っているのを見ると、ゴリラより大きなムササビのようです。
「ノブスマですね。これもまた良いものです」
ガラデニア科長が嬉しそう。
亜竜は新種ではなく、他国で討伐記録のある歩き岩と言うものでした。
下り者を大将格が複数で討伐したのですが、かなりの死傷者が出たそうです。
こちら側が全く無傷での討伐は世界初でした。
「なかなかの成果じゃ。エレガンティナは帰るか」
「なんでです、まだトカゲ頭仕留めさせてもらってません」
「何時までも都ほっといたらいかんわ」
「カマス頭が襲ってこなければ、王都守備軍司令の仕事なんかないじゃないですか」
「ま、そうなんじゃが」
書類仕事なんかはないんでしょうか。
老師様の索敵能力ならば、向こうに気づかれる前に逃げられるのですがもう少し広範囲に探索する為にも大将二人の方が安全なので、エレガンティナ閣下は続投になりました。
ノブスマは実はかなり危険な魔獣で、精神衝撃波とも呼ばれる強力な恫喝をして、純粋な戦闘力では自分より強い者も倒すのだそうです。
毒蛇やサソリみたいなものですね。
「ノブスマをもう少し傷なく獲れないでしょうか」
贅沢を言えば限がないのに贅沢を言う人がいます。
「我が国では今までおらんかったじゃろ。判らんわ。嬢ちゃん、どうじゃ」
「あれは普段群れているものなのでしょうか」
「いえ、単独で縄張りもありません。今回は非常に大きな生命力の開放に集まって来ただけです」
「食性はどうなのです」
「消化器の残留物からの推定では雑食で何でも食べ、人も食べるために襲います」
生命力は狒々程度なので、老師様にも見えないと区別が出来ません。
心属性の敵意感知が有効なのですが、ワイサイト教授は特殊能力のデメリットで、現実の受動感知範囲が狭いのです。
あまり心属性を使わないセネチアータ殿が索敵する事になりました。
これ以上北に行くのは危険なので、真東に向かいます。
湾のさらに東に、大陸の割れ目と言って良いほどの大河があって、奥地から流れてくるので、当然その周囲は温度が低くて霊気が濃くなっています。
窪地があれば、大きなものが棲んでいる可能性があります。
昼前に到達した浅い盆地の底に、パイナップルみたいなごつごつした鱗の大蛇が、雑にとぐろを巻いていました。
「誂えたようなのがおるな。エレガンティナ、あれ仕留めさせてやるで」
「よろしいのですが、初物なのに」
「多分トカゲ頭と互角程度じゃ」
「では、遠慮なく」
蛇なので打ち下ろしで頚損に出来そうなので、試します。
地球の蛇は頭潰しても体は動くけど、こちらの蛇は頭を切っても動いている体が、頭をつぶした途端に動かなくなります。
ビームを当てて這い出してきたのにボコボコに遠距離攻撃を当てて、鎖鉤を咥えさせて痺れさせて、頸椎を折りました。
トカゲとは別の生き血が採れましたが、製品は味が違うだけでした。好みの問題です。
日を空けて別の蛇が来るか見るので、わたし達は陣地に残りましたが、流石にエレガンティナ閣下は帰りました。
ノブスマは二日に一匹くらい獲れました。必ずこっちを見ているので、恫喝をされる前に見つけてフラッシュを浴びせれば、バーチェス公子が頚損に出来ます。
そんなに大蛇はいないらしく、別のが来たのは二十日後でした。
インディソルビス閣下がパイナップル大蛇を獲りたいと申請を出されたのですが、却下されました。
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