第7話 異世界諸景
一旦王都に帰る事になりましたが、砦にいる内に老師様がわたしの昇進を推薦されて、即日承諾されました。自分はサピエンティア近衛特務中尉であります。
帰りはロンタノに乗って帰りました。老師様が
「無理せんで、こっち乗ったらどうじゃ」
とおっしゃって下さったのですが、ずっと半日森の中を乗っていたわけで、別に無理でもなくなりました。
能力が急成長したおかげか、まったく疲れはありません。
ロンタノに乗ったまま家に帰りましたよ。と言うかロンタノに家まで送ってもらったのです。
妹はわたしよりロンタノの帰りを喜んでいました。わたしの四次元収納には、美味しい果物が入っていたのに。
我が一族では、母方の祖父の王都建設管理局道路管理部道路保全課石畳補修係係長が最高位です。わたしとどっちが偉いかで妹ともめました。
事務系は役職が少ないので、役職では階級が判り難いのですが、お
ちょっと前までハズレ特級だった姉さまが急に出世したのか気に食わないと言うのではなく、自分のお姉ちゃんじゃなくなっちゃったみたいな気がするようです。
大丈夫よ、姉さまは出世したくらいで自分を見失ったりしないから。この際だから、転生者なのを言ってしまおうかと思ったんだけど、妹が訳判らなくなるといけないので止めました。
海に行く前に三日間お休みを貰ったのですが、どうしていいか判りません。
普段着や日常品なんかは充填役で貰ったお金で買い揃えたので、買い物の必要が特にありません。
遊ぶにしても同じ年頃の友達はいないのです。初等科学問所の子はもう会えないし、本当なら聴講生の友達が出来ている予定だったわけで。
友達がいても、個人的な不定期の休みなんかないので、遊べないはず。
触れ合い広場に行ってロンタノと遊ぼうかとも思いましたが、妹とかユリアナちゃんが来たら恥ずかしい。
この世界、あんまり娯楽がないんですよね。中央広場に大道芸人がいるはずなので、見に行きました。
中央広場は最初の外壁の正門と壁を少しなくして、元の入り口の広場と門の前の広場を繋げたもので、上流階級の住居と中流階級の住居の境をなくす役目をしています。
広場より上の道に用も無しに入ってくる中流階級はいないのですが。こちらも子供の頃は横の壁の向こうには行ってはいけないと言われていました。
壁の向こうを外の広場、こちら側を内の広場と言う言い方もあります。
そうです。広場の下側へ行けばいいのです。もう近衛将校なんですから。
少なくとも中流民辺りまでの治安は良いのですが、万が一の場合の防御力と身分証明で下賜の鎧を着て行きました。
森の中なら防御力が必要なので抵抗がなかったのですが、街中をこれで歩くのって恥ずかしいのですけど。
肌がそれほど見えて無くても、バニーガールのコスプレで歩いているみたいなもんですよ。
戦士系ならビキニみたいな簡易鎧で歩いてる人も普通にいるのですが。
元の外壁に住んでいるので、壁伝いで中央広場はわりと近くにあります。
中流側に行くと、匂いが変わります。屋台で売っている物が違うのです。
A5ランクのすき焼き食べたからって焼き鳥が不味くなるわけじゃありません。B級グルメや庶民の味も良いものです。
現在の外壁の外の、本物の庶民が住んでいる所には怖くて行けませんが、ここにくるとそこで売られているような物を上品にしたようなのが食べられます。
謁見の間に並ぶ時に王様から見て右側にいる家臣が偉いので、お城から見て右側が出店の権利が高いので、繁盛しているはず。
屋台でなんの肉使ってるかなんか気にしたら負けなので、匂いで判断します。焼き鳥の倍以上あるそろった長方形の肉の串焼きの屋台に惹かれました。
「いい匂いね」
「おう、旦那、うちはアニモサス一家でい。はんぱな肉は使ってねえぜ」
「え!? その家名使っていいの?」
家名を名乗り治安維持を任されている元締めと呼ばれる顔役がいるのですが、アニモサスは老師様の家名ですよ。
出世してから生まれた家とは別の姓を名乗られたので、老師様の直系血族以外は他にはいません。
「お若えから知らねえか。うちの頭は認知済みの守護将の旦那の庶子でえ」
優れた男の人には、沢山子供を残す義務があるのは知っているのですが。
老師様がまだ王国四天王の一人だった頃に、何かもう忘れられた理由で先代の顔役と喧嘩して叩きのめして、娘に惚れられたのだそうです。
生まれた娘に跡目を継がせると言って家名を名乗らせて貰ったのですが、今になっては大儲けだそうです。
とりあえず一串買って食べたら美味しかったので、もう一本と夕飯の足しに八本買いました。これを二本妹に食べさせたら、胃袋のキャパシティが一杯になるはずですが、同じ数じゃないと怒るので。
「旦那は守護将の旦那に娘から玄孫まで、女で十六で揃ってるのも知らねえか」
沢山買ったので、店の者の口も軽くなります。
「そう言うのは、あんまり話が出ないの」
「そうだよな。軍じゃ。去年は四人揃って十五になったんで、この辺りじゃ話の種になったんだが。その内の孫と曾孫が、家の頭の娘と孫なんでぇ」
男の人はほぼ死ぬまで生殖能力があるので、長生きしているとそう言う事もあるのですが、娘や息子と玄孫が同じ歳なのは珍しいようです。
大概子供が二十歳になるくらいまでは生きている為に、八十歳辺りで子供作るの止めるのです。ちょっとはみ出したくらいかな。
果物を買って食べて野菜も摂ったつもりになって、少し下の芸人のいる方へ行きました。
上の広場だと薄いトーガや全身用のパレオを纏っているのですが、こちらでは裸同然と言うより裸に装身具だけで、鈴や音が出る飾りを付けて踊っています。男女共。
伴奏している人達も同じ格好です。中流でこうなので、外壁の外はどうなっているのでしょう。
男でも女でも一人で芸人を見ていると、買わないかと声を掛けられます。果物屋の小母ちゃんの呼び込みと同じです。
芸人が投げ銭で暮らせるほど甘くはありません。広場の上側にいるのは、趣味で音楽や踊りをやっていたり、中には宮廷楽士が修行でやってたりします。
お城から見て右にいる芸人は、稼ぎが良いのだけど芸人で稼ぎが良いのはそう言う事でした。
あんまり見ていると買う気があるんじゃないかと思われるので、お鳥目を上げて離れました。
これ以上下に行くのは怖いので、左側に行ってみます。様々な雑貨とか日除けベールを売っています。じゃらじゃらの装身具も売ってますね。中近東のバザールってこんなかな。
香辛料やお香を売っている店もあって、雰囲気のある匂いのBGMになっています。暇な日はこっち来て過ごそう。
山羊を連れた人がちらほらいます。文官系は大概乗騎が山羊なのです。護衛に連れているんですね。
そうだ、明日はロンタノ連れてこよう、と思ったけど、目立ちすぎるので止めました。
見た目が珍しいだけじゃなく割と有名なんですよ。
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