第4話 妖女鳥討伐
連れて行かれた森から少し離れた小高い丘にある砦も、第二錬成科の根城(あそこはそう呼ぶことにしました)と同じ円形建物でした。
たまに魔物が森から溢れ出すので、防御のし易い形をしています。大きさはかなり大きいです。野球場くらいかも。
兵隊さんが補給物資の搬入とかしている間に、老師様と錬成科長、お弟子こと助教授に連れられて、森に近い物見櫓に登らされました。
錬成科のお二人の衣装はフィールドワーク用の作務衣風作業着です。魔物の蜘蛛の糸製だそうです。わたしもそっちがいいんだけど。
見ていると、時々森の樹冠から低く飛ぶ物があります。
「さあ嬢ちゃん、あのクソ鳥共に痛い目を見せてやっておくれ」
「なんで老師様はあれがそんなにお嫌いなのですか」
「森の木が邪魔でな、下からの攻撃は上手く当たらん。あやつら別に用もないのにやって来て、ケツ振ってクソひっかけて逃げるんじゃ」
襲って来るのではなくて、純粋に嫌がらせするので嫌われているようです。上から何か落とすには有効射程気にしなくていいし、飛び散るし。
うんこは近くに落ちても嫌ですからね。当たらなくてもどうと言う事もあるのです。
ご熱望にお答えして、当たればいいと言う事で、胴体狙って一発撃ってみました。水分が多いからでしょうか、爆発しました。
かなり離れているのですが、大気で減衰する感じはありません。射程と速度は光なのに、光属性の霊的な攻撃なのでしょうか。
「おお! ええ気味じゃあ!」
老師様は大喜びですが、
「今は拾えぬからどうでもよいが、接近してきたら頭はいらんが、出来るだけ体は残して欲しい」
錬成科長からはダメ出しされました。出来るだけ頭を撃つ癖を付けましょう。
更に三匹撃ったら飛ばなくなりました。
「れえざあの恐ろしさを思い知ったか。さあ嬢ちゃん、森に行くぞ」
「なんでですか、ここから撃つだけじゃないんですか」
「今日はその積もりじゃったが、彼奴等嬢ちゃんの顔を覚えたはずじゃ。目だけは良いからな。恐れて近寄らんじゃろ。採集に行けるぞ」
「森の浅層でも樹木の生え具合で樹上から攻撃し易く採集の出来ぬ場所がある。猿ならば衝撃波で落とせるが、妖女鳥はこちらの射程を見切って糞を落とし、混乱したところで弱い者を狙って襲って来るのだ。ここから撃って体が爆散する攻撃があると知れば寄って来ないはずだ。時間が惜しい。行くぞ」
錬成科長も乗り気です。嫌がらせされるのは老師様くらい強い人で、一般人は普通に襲われるようですね。
鞍にしがみ付いていればいいからとロンタノに乗せられました。初めてのまともなお仕事で、ロンタノもやる気十分です。大きな鉢金風の牛用の兜をおでこに着けたアーマードロンタノも可愛い。
薬学科の人達もどやどや兵員輸送車に乗り込んで、錬成科長と助教授は自前の四輪駆動車です。
これを作れるのは今のところ助教授率いる第二錬成科のチームだけです。四輪駆動のような複雑な仕掛けは、うっかり作ると攻撃力がなくても魔獣化します。
太い木の根がそこらじゅうにあるので、車では森に入れません。四輪駆動車も途中までしか無理なので、兵員輸送車の見張りの人に任せて置いて行きます。
老師様のお付きの若い戦士数人が、ばさばさ下草を払い、人が入っていないジャングルを行きます。
時々薬学科の人達が何かがあったと言って歓声を上げますが、わたしは高射砲なのでそちらを見る余裕はありません。
どれだけ時間が経ったのでしょう、老師様が寄って来られました。
「来たぞ、嬢ちゃん」
「こっちを見てますか」
「おう、やるか。二時方向二十腕辺りじゃ」
「はい。ロンタノ、首下げて。全員対閃光防御」
わたしには見えませんが、何かが見ているようなので、新たな必殺技を試します。名付けて、傍迷惑な明るさトイレのサーチライト攻撃。
「撃ちます」
言うと同時に溜めておいた霊力を光に変えて、ありったけ放出しました。サーチライトと言うか、ちょっと長目のフラッシュですね。
光は見えたら攻撃が届いているのです。「ぎええええ!」と叫んで何かが落ちました。
老師様が瞬間移動したとしか思えない速度でわたしの前方に現れました。
「仕留めたぞ。仕舞わん方が良いんじゃな」
「はい、解体します」
引率役の薬学科の助教授が走り寄って、何かに何かし始めました。見てるの止そう。
「
「良過ぎるものが獲れたか」
錬成科長と老師様の間で話が付いて、帰投となりました。
薬学科の人達が妙にはしゃいでいるので、何が獲れたのか聞いたのですが、青緑の皮膚の体毛のない尾長ザルみたいのでした。これも妖女鳥と同じ、人型で雌だけの魔物です。
高知能で体毛のない雌だけの魔物が結構います。別の雄の魔物の精気で分裂生殖しているようです。
人間も魔物が弱体化して霊核がなくなり、霊気の薄いところにもすめるようになったものなんじゃないでしょうか。
この世界の人間には髪の毛はあるけど体毛がありません。
「
薬学科助教授の人が、とんでもない事を教えてくれました。
攫った人間の生き血を吸いながら殺して、開放される生命力で擬似妊娠するのだそうです。生命力なので男女どちらでもいいそうです。
「なんで、そんなところに行ったんです」
「あそこには行った事がないので、出るとは思わなかったのです」
「儂がおれば大丈夫じゃから」
「明日は半日は入れますので、もう少し奥に行きたいのですが、特務少尉殿はご承知頂けますか」
「儂がおれば大丈夫じゃよ」
絶対最初からそのつもりだったんでしょ。
「老師様がお強いのは信じています」
「そうか。そうか。ええ子じゃ」
どうにでもして。
当初の目的だった夕暮れの妖女鳥は来ませんでした。
翌朝になったら森の上を妖女鳥が飛んでいるので、二匹撃ったら昨日のことを思い出したらしくて、飛ばなくなりました。純粋な鳥よりは賢いようです。
森に入ると、昨日より少し奥で焦げ茶色の大型犬の群れが来たので、老師様が威圧して動けなくしてから、掃討されました。
一匹百キロ以上ある犬が三十匹以上獲れたので、三トンを超えたのですが、老師様は従卒二人に十トン入りの四次元収納を一つずつ背負わせているので、大丈夫です。
武人は十キロのものを一日中背負って歩いても平気のようです。
さらに奥に行くと、細身で機動性の高い足長ゴリラみたいなのの群れか来ましたが、わたしのサーチライト攻撃で木から手を離して目を塞がせてから、老師様の威圧で落としてさくさくされました。
百五十キロ以上の猿が二十匹余り獲れました。
この猿はそれなりに強くて、老師様の威圧だけだと逃げてしまうのだそうです。
競争相手がいなくなったので、薬学科の人達が好きなだけ森の中を採りまくります。
今日も実りが多かったようです。足長ゴリラは砦の衛士が喜んでいました。結構良い鎧になるんだとか。
「なあ、嬢ちゃん、頼みがあるんじゃが」
夕飯の後、老師様にお願いされました。お願いは初めてですね。
「なんでしょうか」
「今日行った処よりちっと奥に、でかいイノシシおるんじゃ。旨いんじゃが基礎能力で敵を感知するで、儂が近付くと逃げるんじゃ。普段獲ろうとしたら、勢子大勢使って大事になるわ、怪我人は出るわでな。嬢ちゃんなら、あれが逃げん距離から片足吹っ飛ばせるんじゃないかい」
「見たこともないどころか聞いたのが初めてなので、出来るかどうか判りません」
「そじゃな。やってみんと判らんよな。だめでも向こうが逃げるだけで危険はないんじゃ」
だったらなんでお願いするんでしょう。
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