3.なし崩し的にというより飯崩し的に③
あーん、美味しいっ!
美味し過ぎて、やめなきゃって思うのに次々に口に入れちゃうのを止められない。
入れるのやめなきゃ話せないのにっ!
モグモグ……ゴクン……。モグモグ……ゴクン……。
それを無言でしばらく続けて……お重の中が、最初の量の10分の1くらいになったところで私はお吸い物をひと口飲んで、やっと手を止めた。
そうしてからようやく、私の前で澄ました顔でうな重を口に運んでいる
ピンと伸びた背筋や、箸を口元に運ぶ角度など、何を取っても所作がすごく綺麗で、お育ちの良さを感じてしまう。何だか悔しいな。
そんな人を前に私はガサガサと騒ぎ立てる。
「さっきのっ!」
言ったらチラリと視線を投げかけられて、
「さっきの? はて……何の話だろうね?」
分かってるくせに絶対
「9つしか離れてないくせにボケるのは早いんじゃないですか?」
そこで、
んーっ! ふかふかで本当美味しいっ。
じゃなくて――!
「む、胸元に仕舞い込んだ書類っ! もう1度見せてください! 証人欄とか母の同意とか何ですか? 私が名前を書いたところ、〝妻〟って書かれてた気がするんですけど! ――ゆ、指だって勝手に使われたの気になりますしっ」
そこでさっき朱肉をつけられてほんのりと赤く色づいたままの右手親指を彼に向かって突き出す。
「――何を今更」
はぁと溜め息混じりに言われて、私の方に義があるはずなのに、何故かグラつきそうになる。
え? おかしいの、私?
ち、違う……よね?
「さっきの書類の証人欄を成人した誰かに埋めてもらって、キミのお母様に結婚に同意する
開いた口が塞がらないという言葉を、身をもって経験したのは今日が初めてです!
口をポカーンと開けすぎて、危うくよだれが垂れてしまいそうになる。危ない、危ないっ。私は慌てて口を閉じた。
だ、だいたいっ、プロポーズとかありました?
私がおバカで忘れてるだけ?
妻になること前提で云々がそれだとしたら「んなバカな!?」ですよ?
何にしてもっ。そんなインパクトの薄い求婚ダメでしょう?
百歩譲ってそれがアレだったとして……私OKしてないしっ。
そういう
「つっ、妻とか何とかっ。わ、私っ、ぷ、プロポーズも受けてませんし、あったとして……それをお受けするだなんて一言も」
乗り気になったのは、うなぎの
色々思いめぐらせつつも、とりあえずそれだけは、と何とか言ったら、「戸籍が変わることがそれほど問題か? うちに養子に入ったと思えばいいだろう」って、本気ですか?
「それって物凄く大きなことだと思うんですけど。そ、そもそもっ。ミキ……、ヨ、リツナはそれでいいの? 正直貴方ほどの
言ってて虚しくなってくるけれど事実だから仕方ない。
目の前の彼ならば、きっとどこぞの深窓の令嬢とだって簡単に結婚できてしまえるはずだ。
私よりもっとお金持ちで、親御さんが権力を持ったお嬢さんと一緒になって、その後ろ盾を得ることだって出来るでしょうに。
正直な話、私は下手をしたら負債を抱えたバリバリの「ハズレクジ」だ。
現に――。
「私なんか
日本文学科の学生らしく、古めかしい言葉を使ってバシッと決める。ついでにバンッ!とテーブルに手をついて、リアクションもバッチリに前のめりになって力説した!と同時に、ガタッと音がして。
気がつくと
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