3.なし崩し的にというより飯崩し的に②
「よ……。りつ、な……、さん」
「さんも必要ない」
むむぅー! どこまで人の足元を見れば気が済むの!
お腹一杯になったら絶対に反旗を
この時の私、食べたらさらに
ホント、空腹って判断能力鈍らせて……怖いっ!
「よ……り、つな」
グッと喉の奥から押し出すように何とか彼の名前を絞り出してから、「……こそ、うな丼知らないなんて損してると思います!」とささやかな報復を添加。
ふふふ。
でも、今回は相手の方が
フッと小馬鹿にしたように笑ってから、
「俺の知ってるうなぎ料理はうな重だけじゃないぞ、花々里。キミはきっと
とか。
貴方も大概負けず嫌いですね?
でも――。
「しっ、知らないって認めたら……」
「認めたら?」
正面から整ったハンサムさんに見つめられるのってやっぱり馴染めないっ。
きっとそれで、なのよ。
「――食べさせてくれるんですか?」
なんて、まるで次の機会を期待しているような愚かなことを言ってしまったのは。
だってだって。私、この世にある食べ物の中で、うなぎが一番大好きなんだもん。食べてみたいじゃないっ。
「もちろん。約束しよう。ただし――」
そこまで言って、
もぉ、何なの、何なの。
学費を出していただいた借用書とかかしら。
こんなことしてる間にお料理、冷めちゃうよ?
後で良くない?
そわそわと眼前のうな重とお吸い物を気にしていたら「これにサインをくれたら、ね? 食事もそれからにしよう」とか。
「確認なんですけど……サインだけでいいんですよね?」
サインひとつで目の前の美味しそうなお料理も、まだお目にかかったことすらない
ふふふ。
サインのひとつやふたつ、お安い御用よ?
だって日本では署名の横に捺印がないと、どんな書類もあまり効力を発揮しないんでしょう?
私、今日は印鑑持ってないし、いざ捺印を迫られてもない袖は振れないわ。
持たざる者の強みってやつね。
薄茶色のA3サイズが2つ折りにされたと
お腹空いたーって思いながらサラサラッと名前を走り書きしたら、書き終えたと同時にギュッと手を握られて――。
「なっ、何ですかっ」
言うと同時に親指にヒヤリとした何かを押し当てられて、そのまま名前を書いた横にポン、と。
あ、赤いのついた。
理解の追いつかない頭でぼんやりその書類を眺めたら、署名と赤いの――あ、これ
ん?
ちょっと待って、ちょっと待って! これってもしかして――。
「
バシッと署名したばかりの用紙を押さえようとしたら、わずかばかり遅かった。さっさと回収されてしまう。
「何度も言わせるな。俺のことは
そそくさとそれを折り畳んで内ポケットに仕舞いながら、「後日証人欄にキミのお母様に署名捺印と同意の旨明記いただこう。証人のあと1人はまぁ何とかなる」とか。
「――さぁ、約束通り召し上がれ」
この話はここで終わり、とばかりにさっさと話題を切り替えられて、私は条件反射みたいに「いただきます」をしてうなぎをひと口ぱくり。
……してる場合じゃなーい!
そんなんじゃ誤魔化されないんだからねっ?
一生懸命大好きなうなぎをもぐもぐしながら、
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