1.世の中は世知辛いのです②

***



 父親を幼い頃に亡くした我が家の家計は、手に職のあった母親が、女手ひとつで支えてくれていた。


 お母さんが倒れて、収入の途絶えた我が家の財政は、覿面てきめん坂道を転がるように傾いていって。

 わずかにあった蓄えを、私の大学進学のために吐き出した直後だったこともきっと災いしたの。


 どこまでもついていない。


 今や次の食費の捻出にも困るほどの、立派な火の車になっちゃった。


 この辺に食べられる野草とかあるかしら!?とか考えてしまう程度には私、腹ペコです。


 そんな中、お母さんだけは入院中で食事の心配をしなくていいの、本当によかった!って思ったの。


 弱ってる人は栄養摂らなきゃ元気になれないもの!


 これは本当、不幸中の幸い。


 病院も絶対安静の期間はお母さんのこと、入院させておいてくれると思う。でもそのあとは……?


 現状を知ったら絶対お母さん、無理しちゃうよね!?

 うー、本当ジレンマ!



***



 もちろん、私だってこの状況を指をくわえて見ていたわけじゃない。

 進学してすぐだったけれど、出来得る範囲でバイトにも明け暮れた。


 でも――。


 女子大生が講義の合間を縫って働ける時間なんてたかが知れていて……。


 義務教育じゃないんだから学校自体行く必要はないのかも知れない。でもせっかく入れた大学だし、しかも学費は納入済みって聞いちゃったら。

 貧乏性の私としては、通えるうちはちゃんと通いたいって思ったんだもん。


 だって授業料って安くないし、もったいないじゃない!?


 入院中のお母さんには「へーき、へーき」って嘘をついてなんとか誤魔化してきたけれど……そろそろ限界かも知んない。


 ――お母さんが退院してきたら……何て話そう。

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