そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜

鷹槻れん

1.世の中は世知辛いのです①

「家賃を払える目処が立たないとなるとねぇ、可哀想だけど出て行ってもらうしかないんだよ。こっちも慈善事業じゃないんでね」


 年配の大家さんの溜め息混じりの声を聞きながら、溜め息をつきたいのはこっちだよぅ、なんて思ってるだなんて、言えるわけない。


「もちろん私も悪魔じゃない。村陰むらかげさんのお宅の現状だって分かってるつもりだ。だからね、すぐにとは言わないよ。そうだね、1ヶ月猶予ゆうよをあげよう。だからその間に、ね?」


 ね?と言われても私、なんて答えたらいいの?

 どう答えるのが正解?



 この春から、念願叶って幼なじみの小町こまちちゃんと一緒に、華の女子大生デビューを果たしたばかり。


 今年度の学費に関しては、お母さんから「一括納入してあるから大丈夫。花々里かがりちゃんは勉強に専念して」と言われた。


 私が幼い頃に父が他界し、母子家庭で母娘ふたり支え合いながら頑張ってきたうちはそんなに裕福ではないから。

 てっきり学費も前期、後期に分割して払うんだと思っていた私は、どこにそんなお金が?って思ったけれど、きっと私の進学のために貯めてくれていたのよね?と自分に言い聞かせた。


 だからとりあえずそこまではいいとして――その先はどうなるんだろう。


 学費が工面できなければ、進級は諦めないといけなくなるよね、きっと。


 そもそも――。


 大学云々うんぬんの前に……私、住むところを心配しなきゃいけないっ。


 お母さん!

 学費より家賃を残しといて欲しかったです!とか思っちゃうのはワガママですか?


 そう言えばお母さん、学費の話の後、さらに何かを言いたげに私を見つめてきたけれど、あれは……もしかしてお家賃のことを気にしていたのかな?

 でもそれにしては少し表情が違ったような?


 あれはもっとこう、なんていうのかな?


 そう! 一人娘を嫁に出す父親!――母親だけど――みたいな顔?


 まさかね!


 何にしても呑気にみんなと机を並べて勉学に勤しむ、とかどう考えても無理な気がしてきた。


 と言うのも――。


 ひと月ちょっと前に唯一の肉親で、我が家の大黒柱だったくだんのお母さんが突然倒れて。


 意識こそすぐに回復したものの、頭の手術が必要でしばらくは絶対安静だと言われてしまったから。


 しかも倒れた際に腕も骨折してしまって――。

 とうぶんは仕事もお休みしないといけなさそう。


 本人は「大丈夫、すぐ復帰するわよ!」って言い張るけれど、いま無理させたらまた倒れてしまいそうで嫌だ。

 なるべく大人しく身体を休めておいて欲しい。


 そんなお母さんに、お家賃が支払えなくて住むところがなくなっちゃいそう!とか言えないよ。

 うちのアパート、そんなに新しくないけど駅近で立地がいいからかな。

 案外お家賃が高額で、驚いたの!


 問題が山積みすぎて、何から処理したらいいのか分からない。


 どうしよう……。

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