繊細な心の襞が丹念に綴られる美しい物語

何気ない日常のなかにふと誘い込まれるような落とし穴がある。そこへは近づいてはいけないと思いつつも、そこに自分を満たす何かがあると知っている。
感情を抑え、周りに合わせることばかり覚えてきた人が、心の隙間を埋めてくれる存在に出会ってしまったとき、そこから何が変わっていくのでしょうか。
外側からは分からない人間の本質を、丁寧にはがすように見せてくれる筆致が魅力です。揺れ動く主人公の繊細な心の襞が丹念に綴られ、さりげない描写にも人間関係の脆さ、儚さ、そして体温が感じられます。
ゆっくりと移り変わる東京の風景も額縁になる美しい物語です。

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