第13話 レールと運命2
「なかなか帰ってこないから出直そうかなって思ってたときに酔っ払った小夜ちゃんに会えて」
そんなこと、何も知らずに珍しく飲み会に行ってたから。
「今は仕事してないって言ったら無職の貧乏人だって思われて、家に連れ込まれた」
「変な言い方しないで」
まるで私が危ない人間みたいじゃない。
「本当は、結婚するまで手は出さないつもりだったんだけど、酔っ払いの小夜ちゃんと話してたら……」
『結婚の条件に〝処女であること〟なんてないから。嫌いじゃなかった大学の講師の人と、なんとなくそういう雰囲気になったときにしちゃおうと思ったんだけど……怖くなって泣いちゃって』
「なんてゾッとするようなこと言うから。行きずりのどうでもいい男に手出されるくらいならって、あの夜小夜ちゃんを抱いた」
大学時代の私の思い出したくない思い出。
「あの日も何度も本名を言おうと思ったけど、小夜ちゃんがお金なんか渡してくるから言えなくて」
「だって……」
後ろめたくなってしまったから。
「だから、どんな形でも小夜ちゃんのそばにいて、ちゃんと好きになってもらおうと思った。それに小夜ちゃんのつまらないって思ってる人生を少しでも楽しくしてあげたい、眠れるようにしてあげたいって」
彼は私の目を見る。
「小夜ちゃんにも、ちゃんと自分を好きになってほしかった」
筒井くんは全然お金目当てなんかじゃなかった。
「なら……お金、なんで毎回受け取ってたの?」
「小夜ちゃんが割り切った関係がいいって言ったし、小夜ちゃんを抱いた回数が金額でわかるのがおもしろいなって思って。ちなみに今二百五……」
慌てて思わず民人さんの口を手で塞いだ。
「だからとにかく、俺は小夜ちゃんのことがずっと好きだった。初めて会った日から」
民人さんは私の手を取ってまっすぐ見据える。
「急にそんな風に言われても……感情が追いつかない。それに結局、親の敷いたレールの上で踊らされてたみたいで……」
「俺は、もし小夜ちゃんが本気で別の奴のことを好きになってしまったら、こっちから婚約解消を申し出るつもりだった。だけど小夜ちゃんは筒井を選んだ」
また、あの夜のことを思い出す。
「小夜ちゃんは親の敷いたレールなんて言うけど、俺は全部、この家に生まれたのも、小夜ちゃんと婚約できたのも自分が引き寄せた運命だって思ってる」
「自分が引き寄せた……?」
彼は頷く。
「俺が小夜ちゃんを引き寄せたし、小夜ちゃん自身が俺を引き寄せたんだよ」
口角を上げて笑って見せる。
そんなポジティブな考え方があったんだってびっくりする。
「俺は小夜ちゃんのことが好きで結婚したいと思ってるから、小夜ちゃんが続けたければ仕事も続けてもらいたいし、子どもだって小夜ちゃんが欲しいと思わないなら作らなくていいって思ってる」
「だ、だめでしょ、それは……」
思わず慌てる私を民人さんは笑う。
「だから、子どもが欲しいって思ってもらえるように努力するよ。それくらい小夜ちゃん自身を好きって意味。小夜ちゃん以外なんて考えられない」
また、私の目を見る。
「小夜ちゃんだってあの夜、ちゃんと俺のことが好きだって自分で認めたはずだよ」
民人さんは私の手に口づける。
「結婚してからも焼肉だってラーメンだって、遊園地だって連れて行ってあげるし、公園でお酒飲んだり、今度はクレープの食べ歩きなんかもさせてあげたいんだけど」
「斑目グループの御曹司なのに……」
「誰にもダメって言われてないから」
民人さんは筒井くんの顔でいたずらっぽく笑う。
私が勝手に箱に入ってたって、本当だった。
「だから改めて、小夜ちゃんは小夜ちゃんのまま、俺と恋愛結婚してくれませんか?」
親に敷かれたレールの上で決まりきった人生を歩んでいくんだって思ってたから、こんな展開は全然予想してなかった。
「……あなたと結婚するには条件があります」
「条件?」
私は民人さんの手を握り返す。
「これから毎日、私をぐっすり眠らせるって約束して」
私の条件に、民人さんは優しく笑う。
「うん、約束する。小夜ちゃんが毎晩幸せな夢を見られるように頑張るよ」
私もニコッと笑ったけど、目からは涙が溢れてきた。
突然また、足が地面からフワッと浮く。
「え!? ちょっと」
人目もあるのにお姫様抱っこをされてしまった。
「このままどこかに泊まろうか。着物の小夜ちゃん、新鮮でかわいいから今すぐ抱きたい」
「だめよ、両親にちゃんと話さなきゃいけないんだから」
「えー」
だけど私も、早くあなたの胸の中で眠りたい。
fin.
筒井くんと眠る夜 -年下ワンコ系男子は御曹司への嫉妬を隠さない- ねじまきねずみ @nejinejineznez
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