第12話 アリシアの恋

 服用する毒薬ができるまで暫くの間、アリシアはソヒョンが営む韓国居酒屋、オンマポチャでバイトすることになった。そして夜は二階の片隅で床に着く。近所には銭湯があって、三日月と一緒に行くのが楽しみになった。


 ある日、三日月がオフの日にアリシアが店番をしていると、先日会ったチェ・ユジュンが店にやって来た。丁度ソヒョンが外出していて、アリシアは注文を取りに近づいて行った。


いらっしゃいませオソオセヨ

「お、韓国語上手くなったじゃん、チュアヨ」


 ソヒョンは親指を立てて笑顔でソヒョンを見つめた。心臓の鼓動が速く激しくなり、アリシアは真っ赤になって下を向いた。


「カムサハムニダ」


 そういうと、ユジュンはアリシアを下から覗き込むようにして言った。


「あれ、なんかオレ変なこと言ったっけ。アハハ、緊張しなくていいよ。えっとアリシアさんだっけ、ソヒョンさんがそう呼んでたね」

「はい」

「今日は何にしようかなっと。


 まずいつものように焼酎ソジュを一本、でこれこれ、ここの名物スンドゥプをいただこうか、これ美味いんだよな」


「はあーい」


 アリシアは元気よくそう言うと、小走りに厨房に向かい、冷蔵庫に手を伸ばした。そして並んだ焼酎を一本棚の上に置いて、皿を棚の下から幾つか取り出した。アリシアが皿に突き出しのキムチやニンニクを並べていると、ユジュンが尋ねた。


「君、ここでずっとバイトするの?」

「はい、そのつもりですけど」

「そうか、よかった」


「え?どうして」

「だってさ、ここソヒョンさんと三日月ちゃんの二人で回してるから、ワンオペになり易くって、お客が多い時大変なんだよ」

「はい、それはそうですね」


「で、三日月ちゃんもお勉強で来れない日もあるしさ」

「ええ」


アリシアは銀盆に焼酎と突き出しを乗せて、ユジュンのテーブルに行く。


「でさ、キミみたいに元気な子がいるとまた来たくなるじゃん」

「はい、あ、ありがとうございます」


アリシアは耳朶まで真っ赤になっていることが分かる。


「オレさ、今、六本木にある先進的なIT企業で働いているんだけど、将来は自分で起業したいんだ。生成AIって知ってる?」


「あ、はい、自分で学習する人工知能ですね」

「お、よく知ってるじゃん」

「あ、はい。こういう街中で学んだ知識ばっかりで出来てるんで」


「ふうん、結構苦労してるんだろ」

「あ、はい、まあ」


 「生成AIを使った医療情報の提供とかをやりたいんだ。世界には様々な難病で苦しんでいる人々がいる。そういう人々が個別の症状に合わせて治療法や薬物療法できるAIベースのプラットフォームや、健康な人が家で利用できるリモートヘルスケアを組み込んだアプリを開発したいんだよ。


 で、必要な時には先進的医療スタッフとコンタクトできるリアルタイムコミュニケーションが取れるようなアナログベースの情報と組み合わせるんだ」


「す、凄いですね。それきっとこれから必要になると思いますよ。ご成功お祈りしてます」


「で、キミは何か将来の夢はあるの?」


「あ、アタシですか?」

「そう」


「アタシはお金を貯めて自分のお店を持ちたいかな」

「お店、どんなお店なの?」

「怒らないでね」

「ハハハ、怒らないよ」


「綺麗な女の子たちがいっぱいいて元気なガールズバーかな」


「アハハ、いいじゃん。オレ、アリシアさんの店行くよ」

「えーっ、でも、でもさ、ユジュンさんが、他の女の子を好きになっちゃったら・・・」

「いやかい?」


 アリシアはもう心臓がバクバクするのを感じながらコクリと頷いた。


「カワイイなあ、キミ、アハハハハハ」


ユジュンは快活に笑う。


「あ、あのスンドゥブの支度して来ます」


 アリシアは小走りに厨房に駆けてゆく。丁度その時、ソヒョンが帰って来た。


「あら、ユジュンさん。お元気でしたかチャルチネショッソヨ


つづく





  










      



 













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GO TO HELL 殺人鬼を地獄へー痛快活劇。 山谷灘尾 @yamayanadao1

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