お久しぶりです。バイトが忙しくて投稿が難しい昨今です。
一度読みたくて買い、最近心打たれた小説
井上靖 「天平の甍」
円安の困難さは承知の上で若い人々には是非海外に勇翔していただきたい。そう思ってこの本を取り上げることにした。
以前奈良の唐招提寺を訪れて、中国唐洋式の美しい建築に魅せられた。奈良時代、先進文明を学ぶために遣唐使として海を渡った若き学僧たちは、明治時代先進文明を採取しようと欧米に渡った若者達と相似形だ。
しかし幕末明治維新期と違うのは、渡航する困難さが過酷すぎることである。絶命覚悟で渡航する学僧たちー普照、栄叡、業行、戒融、などの其々の使命と性格が明確にされる。
学究肌の普照、行動派の栄叡、写経に身を投じ、それを日本に伝えて後世に残そうと夢見る業行、異文化に憧れ、永遠の旅人となる戒融。環境と時代は違えど、それは今日世界で海を渡って異文化に触れようとする若者達を彷彿とさせる。
高校二年の夏、最初の渡米で怯えていたあの頃が蘇る。
何かを吸収したくて、それを日本へ持って帰りたくて堪らなかった。
命懸けの渡航ではなかったが、全身が震えるような感覚の中、エコノミーの席にしがみ付いていたのを思い出す。そして数々の人々との出会いと別れ。
小説の中で登場人物たちはひとりの偉人と出会い、彼を日本に招来しようと渾身の努力を重ねる。
当時の中国で最もリスペクトされていた仏僧、鑑真。彼は普照や栄叡の志を意気に感じて
5度も失敗して失明しながらも日本にたどり着いて先進文明を伝授する。
しかし大量の写経を持ち帰ろうとした業行は悲しくも経典と共に海に沈んでゆく。この時代いかに多くの有為な若者が海の藻屑となって志を遂げずに果てたことかを著者は悲壮に語って物語を閉じるのである。
彼らをそんなにまで駆り立てた「留学」や「異文化伝達の意義」とは何か、この著作を読むとその情熱と使命感が伝わってきて、久しぶりに深い感動を得た。大陸から日本へ帰ってきた普照が「日本の山河は 小さく見えた」というのが自己の体験と重なる。
これは映画化されたようだが、もう一度映画かドラマで観たいものだ。
テーマ曲にするならこれがピッタリだと思う。この曲を聴くたび
小説のシーンが蘇る。
https://youtu.be/aQystzibMlc?si=HLfwX4HqRrEqfDOQいきものがかり BLUEBIRD
はばいたら もどれないと言って
探したのは 白い 白い あの雲