お題「おかし」

 ふたりとも、お菓子が好きで、よくコンビニで買ったものを持ち寄ったり、スイーツ店へ行ったりしている。

 先輩と私は、お菓子同盟を結んでいるのだ。ふたりだけの、同盟。

 コンビニに期間限定のお菓子があれば購入し、有名スイーツ店に新作がくれば列に並んだ。

 ケーキもチョコレートもマカロンもマシュマロもパフェも駄菓子も、みんなみんな大好き。私と先輩は、甘いものに目がない。

 この前、ふたりで知育菓子を作ったら、先輩は見事に失敗していた。それが、本当におかしくて、私はけらけら笑ったものだ。先輩は、膨れっ面で、私にデコピンをした。

 いつも、私たちは、そんな感じ。不器用な先輩を、私は助けてあげたり、ちょっと笑ったり。

 ずっと、そんな日々が続いていくのだと思っていた。

 ある日、先輩が病に罹患する。それは、甘いものを食べると大切なものを忘れる、という病だった。

 その病に気付くのには、かなり時間がかかってしまった。なんせ、先輩は何も覚えてないのだから。先輩が、私の名前を忘れた時、初めて気付いたのだ。

 ショックだった。先輩は、お菓子同盟の思い出の大半を失っていたから。

 でも、つまり、私との思い出を大切に想っていてくれたということ。それは嬉しいけれど、やっぱり悲しさには勝てなかった。

 先輩は、甘いものを断つと決めたようで、お菓子同盟はおしまいになる。

 必然、私と先輩は、以前より一緒に過ごさなくなった。

 もう、遅いですか? 私は、過去のものになってしまうんですか? それって死ぬのと変わらないですよ。

 先輩に、そう言いたかった。

 こんなことになるなら、さっさと先輩に「好き」だと言っておけばよかったのに。いや、そうしていたら、先輩に忘れられたかも。いやいや、それは自惚れかも。普通にフラれていたかもしれない。

 先輩、私も甘いもの食べられなくてもいいよ。だから、何か別の同盟を結ぼうよ。

 私は、必死に、“何か”を探した。でも、見付からなかった。

 だから、もう告白するしかない。私との思い出を失くした先輩に。


「先輩、私は————」


 どうか、結末だけは甘くして。

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