短編集「ふたりの一頁」

霧江サネヒサ

お題「夢と未来」

 ねぇ、未来が見えるって言ったら、どうする?

 先輩は、私にだけ秘密を話してくれたらしい。

 眠ると、未来を夢に見るそうだ。遠目の予知夢?

 曰く、先輩と私は、敵対することになるのだとか。先輩が予知夢を利用して、人助けをするのを、私が邪魔するのだそうだ。

 先輩は、未来を変えたいと言う。

 私も、先輩の敵になるのは嫌だったので、一緒にどうすればいいのか考えることにした。

 ふたりで、公園のベンチに座り、うんうん唸る。

 しかし、日が暮れてきても、いい案は浮かばなかった。仕方ないので、私たちは解散する。

 翌日。

 先輩は、大怪我をして入院した。子供を庇って、車に轢かれたのだ。

 私には、分かる。先輩は、子供が轢かれる未来が、今日だと気付いて、それで助けたのだろう。

 幸いなことに、先輩には意識がある。だから、私は尋ねた。


「先輩、これからも人を助けるんですか?」

「もちろん。きっとそれが、自分の使命だから」


 呆れる。死にかけたのに。次は、本当に死ぬかもしれないのに。

 先輩のそれは、勇気じゃない。蛮勇だ。いずれ、身の破滅を味わうことになるに違いない。

 その後。先輩は、本当に人を助け続けた。その度に、先輩はボロボロになる。

 私は、決意した。先輩を止めよう、と。

 先輩が、火事の起きた家に入ろうとしたから、両足を折ってやった。先輩は、私を罵倒するでもなく、這って燃えている家屋に入ろうとする。


「芋虫みたいになりたいんですか?」


 私は、トンカチをかざして、ゆっくり先輩を追う。

 先輩の右腕に、トンカチを振り下ろす。続いて、左腕にも。

 先輩は、芋虫になった。

 そして、泣いている。痛みからではなく、人を助けられない悔しさからだと思う。

 私は、やって来た救急車に近付き、怪我人がいると伝えた。

 先輩は、救急車で運ばれる。

 それから、私と先輩は、何度も攻防を繰り広げた。

 私は、世界で一番、先輩が好き。死んでほしくない。だから、どうか、英雄になんてならないで。

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