お題「妊婦さん」

 先輩が妊娠したらしい。

 その報告を聞いた時、私は、ポカンとしてしまった。


「誰の子なんです……?」

「君だよ」

「はい?!」


 私は、先輩と子作りした覚えはない。そもそも、恋人でもない。


「冗談ですよね?」

「冗談なもんか」


 先輩は、真面目な顔をしている。これはもう、事実として呑み込むしかない。


「な、名前、どうしましょうか?」

「産んでから決める」


 そう決意しているみたいだ。

 月日は流れて。先輩のお腹は、段々と大きくなっていく。私は、たまに撫でさせてもらい、“命”を感じた。神秘的過ぎる。

 先輩、ガブリエルから受胎告知とかされました?

 先輩は、ずっと落ち着いている。もう、親としての風格があった。

 私はというと、そわそわしている。先輩の代わりに家事をしたり、安産祈願のお守りを買いに行ったりしたけど、ずっと落ち着かない。


「先輩、何かお手伝いすることは?」

「今は、ないかな」


 読んでいた本から顔を上げて、返事をする先輩。


「そうですか…………」


 私は、そっと先輩の隣に座った。すると、先輩が私の肩に頭を預けてくる。

 先輩、私のことが好きなんだ。

 今更、そんなことを思った。

 しばらくして、小さな寝息が聴こえてくる。先輩が眠ってしまった。

 先輩が手にしている本に栞を挟み、ローテーブルの上に置く。

 そうっと先輩の体を横にして、毛布を取って来てかけた。

 そして、私は、床に膝をついて先輩の寝顔を眺める。

 先輩、お母さんになるんですね。私も親になるんですけど、大丈夫なんですかね?

 愛しい先輩。愛しい我が子。ふたりを守るためなら、私はなんでもする。


「……先輩、愛してます」

「起きてる時に言いなよ」

「起きてるじゃないですか!」


 いつから起きてたんだろう?


「まあ、我々が愛し合ってるのは自明だけどね。じゃないと、子供を授かりはしない」

「そうなんですか?」

「そういうシステムなのさ」


 先輩は、優しくお腹を撫でて言った。

 私の知らないところで、そんな理が出来ていたのか。

 私たちにとっては、良いことだ。

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