お題「秋」

 この季節になると、先輩は忙しそうにしている。

 私は、そんな先輩に付き合って、読書会に参加したし、絵画教室に行ったし、一緒にランニングしたし、スイーツビュッフェに行った。

 先輩は、毎年こんな感じだ。それに毎回付き合う私も、ちょっと変に思われるかもしれないけれど、先輩が好きだから仕方ない。

 先輩と、ミステリ小説を読み、静物画を描き、公園を走り、かぼちゃや栗を使ったお菓子を食べた。

 先輩は、本当に楽しそうで、私も思わず笑顔になる。

 ふたりで紅葉を見ながら、話し合う。


「今年の仮装は、どうしようか?」

「先輩が決めてください」


 今年のハロウィンの仮装は、先輩が吸血鬼で、私が白いシーツを被ったお化けになった。

 締めくくりとなる一大イベント、ハロウィン当日。私たちはパーティー会場へ向かった。

 会場には、ミイラとか魔女とか狼男とか、あとは吸血鬼もお化けもたくさんいる。

 パーティーのレクリエーションを楽しんでいる最中、私は、あの衝動に襲われた。


「先輩…………」


 その一言だけで、全てを察した先輩が、私の手を引いて、人気のないところに連れて行ってくれる。

 そして、私はシーツを取り払い、先輩の首筋に噛み付いた。先輩の血の味は、この世の何よりも美味しい。

「大丈夫?」と先輩に訊かれる。


「平気です。ありがとうございます」


 舌で噛み痕を舐めて、傷口をふさぐ。


「後天的な吸血鬼の仮装になっちゃったな」


 先輩は笑った。私は、少し落ち込んでいる。

 また、先輩の血を吸ってしまった。

 また、先輩を吸血鬼にし損ねた。

 先輩。私、あなたと永遠をともにしたいんですよ。

 言えない。私の正体を知っていて、血液を提供してくれる優しいあなたに、そんなこと言えない。

 だって、きっと先輩は承諾してしまう。永久に終わらないハロウィンを、あなたは受け入れてしまいそうで。私は、長い時を生きる苦しみを知っているから。

 先輩は、私のことが好きですか? 夜の怪物が好きですか?

 吸血鬼の仮装が出来なくなっても構わないですか?

 私は、お化けの振りをする。今日はずっと、先輩に憑いて行きますから。

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