お題「10年後の私へ」

 今日、手紙が届いた。過去の私からの、全く記憶にないもの。


私へ

これを読んでいるあなたは、きっと結婚していることでしょう。そして、子供もいるのでしょう。

しかし、あなたは本当は、別の人を愛しています。

どうか、先輩のことを思い出してください。

あなたが本当に好きな人は、研究所に囚われています。10年前に捕まりました。

先輩は、私を逃がす代わりに、実験体になることを選んだのです。

しかし、それは嘘でした。私は、この後、記憶をいじられて、先輩との思い出を上書きされます。おそらく、研究員の誰かと夫婦にされ、監視され続けます。それは、私の能力が子供に遺伝するかどうかの実験なのです。

私は、私のために、手紙に仕掛けを施しました。香水が振りかけてあります。


 便箋の匂いを嗅いでみると、柑橘系の爽やかな香りがした。

 それから、思い出したことがある。

 大切な“先輩”の存在。研究所から、一緒に逃亡したこと。逃げながら生活したこと。お揃いの香水のこと。奴らに捕まり、先輩が私だけでも助けてほしいと言ったこと。そして、私の能力。


もう、すべきことが分かったと思います。子供がいるなら、どこかに隠れさせて、私は、先輩の元へ行かなくてはなりません。

救出の成功を祈っています。

私より


 早くしないと。私は、手紙を燃やし、リビングで遊んでいる我が子を連れて、遊びに行く振りをした。

 車で監視者を巻き、過去に、転々と作った隠れ家のひとつへ、子供を連れて行く。


「すぐ帰ってくるから、いい子にしててね」

「どこいくのー?」

「大切な人がいる場所」


 私は、研究所へ車を走らせた。

 閉ざされた入り口の前で、車から降りる。

 まず、私は、投石で監視カメラを全て破壊した。それから、ふたりの見張りを殴り飛ばして気絶させる。

 その後。私は、障害物を全て“燃やしながら”進んだ。

 かかって来い。私は、ファイアスターターだ。


「先輩!」

「な、んで……?」

「話は後です! 逃げましょう!」


 ふたりで逃げよう。いや、今度は違う。


「先輩、研究所を破壊し尽くしましょう」

「了解。君は、いつも無茶するね」


 私たちは、走る。私が“燃やし”、先輩が“凍らせ”ながら、進んだ。

 そして、捕まっている人々を解放し、研究所を跡形もなく消す。

 もう、怯えながらの逃亡生活なんて、ごめんだ。

 私も先輩も、未来へ踏み出す。

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