お題「ハロウィン」

 黒いとんがり帽子にマントの魔法使いの仮装をした先輩が、手品で飴を降らせ、子供たちに配っている。

 使い魔の黒猫役の私は、それを側で見ていた。

 先輩は、私より早く生まれたから先輩なんだけれど、成長は私よりも遅い。

 先輩は20歳で、私は40歳相当だ。

「そろそろ、移動しようか」と、先輩が言うので、私は返事をして、ついて行く。

 公園まで行き、先輩は存分に魔法を使った。飴を降らせ、わたあめの雲を出し、何もないところからパンプキンパイを取り出す。

 子供たちは、おおいにはしゃいでいる。

 私は、先輩のすることを誇らしく思った。

 先輩は、子供にも動物にも優しいのだ。

 6年前に私を助けてくれた時の恩を返すため、私はこの人の側にいる。

 この公園で息絶えようとしていた私を、先輩は、病院に運んでくれた。そして、私を家族として迎え入れてくれたのである。本当に嬉しかった。

 先輩が、毎年ハロウィンになると張り切るのは、イベント事が好きだからなのと、人ではないものが入り混じる空間が楽しいからだそうだ。

 ハロウィンの時期になると、仮装の振りをした“本物”がたくさん紛れている。

 あっちの吸血鬼は、本物。そっちのシーツお化けも、本物。今、先輩の近くに来た魔女は、千年生きている。

 そのことに気付いていることは、先輩と私だけの秘密だ。

 近所の子供たちにお菓子を配り終えた先輩は、帰宅する。

 魔法使いの仮装をやめて、部屋着になった。私も、クモの巣柄のマントを脱ぐ。


「今年も楽しいハロウィンだったね」


 先輩が満面の笑みで言った。

 私は、同意するために「にゃあ」と鳴く。

 先輩に撫でられ、私は、喉をゴロゴロ鳴らした。

 私が猫又になったら、先輩の魂を探して、生涯寄り添うつもりでいる。

 その時が来たら、またハロウィンをふたりで過ごしたい。

 幽霊の先輩と、猫又の私で、黄昏時を歩くのだ。

 それはきっと、今よりも楽しい時間になることだろう。

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