お題「解禁」

 狩猟解禁日がきた。

 私と先輩は、必死に化物たちから逃げる。

 この世界は、人間には到底太刀打ち出来ない化物に支配されていた。そして、今日からまた、人間狩りが始まる。

 私と先輩は、森に潜み、協力して逃げ隠れした。

 大木の陰から、四つ目の大きな化物の様子を窺う。


「縺ゥ縺薙↓縺?k縺ョ縺九↑」


 意味の分からない唸り声。私は、震える手で口元を押さえた。

 やがて、化物は去り、私たちは胸を撫で下ろす。

 日が暮れる前に火を起こし、食事を摂ることにした。


「今日は、魚の塩焼きだよ」

「美味しそうですね」


 先輩と「いただきます」を言い、魚を食べる。美味しい。

 私は、この時少し警戒が緩んでいた。


「隕倶サ倥¢縺」


 茂みを割って出て来たのは、大きな蜘蛛のような化物で。私たちは、全てを放って駆け出した。

 しかし、私は途中で転んでしまう。


「う……あ…………」


 絶望で言葉が出ない私の元に、先輩が戻って来て、化物に石を投げつけた。


「こっちだ! 化物!」

「驕翫⊂縺」


 化物を引き付けた先輩は、私から離れて行く。


「待って…………」


 遠ざかる先輩を、異形の化物が追いかけている。

 先輩の気持ちを無駄にするな。

 私は、己を奮い立たせ、物陰まで逃げた。

 数時間後。ふたりの拠点の洞穴まで戻った。

 先輩の姿はない。

 私は、不安でいっぱいで涙を流した。

 泣き疲れて、簡素なベッドで眠っていたら、物音がする。


「起こした?」

「先輩……!」

「ただいま」

「おかえりなさい」


 よかった。先輩は無事だった。

 今日は、なんとか生き残れたね。ふたりでそう話す。

 人間狩りは、一ヶ月は続く。

 私は、先輩と生き延びたい。

 あなたがいるから、私は残酷な現実に光を見出だすことが出来る。

 先輩は、私の太陽だ。日射しのように暖かい人。

 この冬を乗り越えたら、春が来る。

 春になったら、ふたりで美味しいものを採りに行こう。

 小さな幸せを抱き締めて生きたい。

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短編集「ふたりの一頁」 霧江サネヒサ @kirie_s

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