お題「夜明け」

 夜が明けなくなった。

 人々は、体調を崩したり、憂鬱になったりしている。

 先輩も例に漏れずそうで、私は心配だ。

 太陽の光がないと、人間は鬱になるし、作物は育たないし。

 だから、私は先輩に提案したのである。


「先輩も吸血鬼になりませんか?」


 先輩は、少し考えさせてほしいと言った。もちろん、私は了承する。

 この夜が明けた時、もう太陽は見られないけど、それでも今が辛いなら。私の手を取ってほしい。

 翌日。先輩は、「吸血鬼にしてほしい」と言った。

「では、失礼します」と断ってから、私は先輩の首筋に牙を立てる。

 先輩は、吸血鬼になった。

 私たちは、月夜の下で散歩をする。


「血液はどうやって調達するの?」

「輸血用のものを分けてもらうんですよ」


 そんな話をしながら。

 私と先輩は、昼夜問わず元気に過ごした。

 数年後。連日、人類の吸血鬼化がニュースで取り沙汰されるようになった。

「このままでは、人間はいなくなるかもしれませんね」なんて、神妙な顔でアナウンサーが言っている。

 そうなると、次に滅びるのは、私たち吸血鬼だ。人の血液がなくなれば、飢えてしまう。

 私と先輩は、そのことを話した。


「結局、死からは逃げられないのかな」

「そうかもしれませんね。せめて、その時まで楽しく暮らしましょう」

「ああ。そうしよう」


 ふたりで、色んなことをする。

 廃墟に泊まってみたり、コウモリになって遠くまで飛んでみたり。

 鏡に映らないから、お互いを鏡代わりにして過ごした。

 また、数年の月日が流れる。

 なんの予告もなく、朝が来た。


「私たち、昼間は眠らないとですね」

「うん」


 人口はだいぶ減っているけど、滅んではいない。

 すぐに、人間の数は増えるだろう。繁殖力が強いのが人類の強みだ。

 私たち吸血鬼は、日陰者に戻る。

 それでも、先輩が隣にいてくれるなら、私は充分に幸せだと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る