鳴り響くな終焉の鐘の音、心に響く祝福の鐘の音

 身も蓋もない話ではあるが、未見の読者がいるのならば、まずは一言だけ残そうと思う。
 自分の冗長なレビューなどは読まずに、下の一行のみを読んで物語の一頁目へと向かってほしい。

 端的な言葉になってしまうが、タグを見て一瞬でも自身の好みに引っかかったのならば、本作のあらすじに目を通すべきだ。正しきタグ付けが行われており、良きあらすじが綴られていると感じた。
 
 この物語は貴方との出会いを待っている。
 せっかく見つけた物語を見逃すのは、勿体ない。
 
 さぁ、頁を開こう。

――繰り返す、繰り返す紅い闇に囚われているように思えた。
 だが、降り注ぐ日差しは暖かく感じ、夜の星は煌めいているように見える。
 当たり前の事だ。陽が照りつけ、風がそよぎ、水面が揺れ、夜空に星が光る。
 けれども、それらを綺麗だと思えるのは、今を生きているからなのだ。
 恋をするのもまた同じ事。思い悩めどもまたそれも生の証。
 運命は刻一刻と変わるものだが、それと同時に"変える"ものでもある。
 死んで花実など咲くものかと、命が燃える音が聞こえたような気がした。


 そんな読了感を抱ける本作は、現在開催中の『 世界を変える運命の恋』がテーマの中編コンテストに応募されている物語であるが、小説を書くという事についての筆者の向き合い方を考えさせられる。
 
 作者が書いた物語は複数拝読した事があるので、そういった一読者の身から出る感想としては「また楽しませてくれた」という話に尽きるのだが、もう少し野暮に言葉を書き残しておきたい。

 まず、最初に書いた通り、タグとあらすじで拾える情報が端的かつ分かりやすい。
 特にタグはしっかりと裏切りが無い物で固められており、あらすじも設定が決して薄っぺらでは無い事が伝わってくる。
 文体についても好みこそあれどネット小説に於ける一般水準は軽く越えている。とはいえそのような事は読めばすぐに分かる事だ。
 
 一番目を見張ったのは、誰に向けて書いているかという点だ。
 作者の小説を複数作読んだと前述したが、それら全てが所謂テンプレートを取り外し、尚且つ作者独自の世界観を醸し出していた。それは今回も間違いない。

 ただ、今回はタグの通り、女性読者へのアプローチ、ターゲッティングをよりハッキリと定めているという印象を覚えた。とはいえ男性読者である自分も楽しんで読む事が出来た。
 本作がコンテストに応募しているという一面が強いのだろう。コンテストの応募要項がある以上 "求められている暗黙のルール" の中で全力を出すという事が求められる。

 創作者には、時にそれらを正しく読み取る力も必要なのだ。

 もし本作を読み終わったならば、普段小説を書かない読者の方も2023年10月時点で本作が応募している『世界を変える運命の恋 中編コンテスト』の応募要項を読み取り、本作と照らし合わせてみてはどうだろうか。
 文章を書くという行為の難しさや、本作の質の高さがより手に取るように伝わるはずだ。それは本作を通した、ある意味での人生経験になるようにも思える。

 そういった読み方もまた面白いだろうと感じたのは、それもまた作者の実力あってこそだ。何故ならば一読者として「筆が乗っていないな」と感じる事が無く、付け焼き刃では無いちゃんとした作者の味が出ているからこそ、勧められるのだ。

 ルールの上で、読者を楽しませ、もっと言えば作者すら楽しんで書く、そういった事をやってのけているであろう本作には、大きな意味、意義を感じてならない。

 コンテストのルールと向き合う、読者と向き合う、物語と向き合う。
 そうして、作者は自分と向き合っていく。

 良き物語であり、正しき物語であった。
 そうして良き挑戦であり、正しき一歩だった。

 願わくば、作者の子と呼べる物語の登場人物達にも、そうして作者にも、明るく綺麗な祝福の鐘の音が鳴り響けば良い。
 そんな事を思いながら、この長文を締めくくらせてもらおうと思う。

 思わず、筆が乗ってしまった。
 笑える話だ。ある種、小さく小さく、自分の運命すら変えられたのだ。

 さぁ、物語に恋をせよ。

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