第2話 確認 ~エルフ姉妹と、新兵~

「おはようッ!! 兄弟姉妹の諸君ッ!!よく眠れたかッ!? 」


 先任特務軍曹のハートマンは、暑苦しい黒い防護服をまといながら、もっと暑苦しい声で叫び始めた!


 全体ブリーフィーングは、数日前に、洋上で済ませた。追加のミッションブリーフィングも終わっている。早く起こされた理由は、“任務”が順調な証拠だ。

 追加の説明があるのだろうか。


 出撃直前の、今でないとダメなのか?

 疲れているから、少しでも眠りたい。静かにしてくれ。

 

 慣れない船旅で疲れた兵士たちは、うんざりした顔をする。


 「そのまま聞けッ、特に、新兵どもッ!! よく眠れたものは、挙手ッ!!」

 「そうかッ! 降ろして、よしッ!」


 ハートマンは、隊員達が、まるで鳥の“くちばし”のような黒い防護服の“ペスト”マスクを着けているので、お互いの声が聞こえづらいだろうと、思っているのだ。


 叫ばなくても、“秘匿念話”で、最適な音量に調整されているだろうに。

 直に、耳で自分の声を聞かせたがるのは、相変わらずだ。


 “特務”の戦場で、仲間同士の声が聞こえなくなる時は、あまりにも離れすぎた時、あるいは、異界の深部に潜った時か、“そいつ”が、“死んだ”ときだけだ。


 今は、そのいずれでもない。



 ハートマンは、帰ってくるかもわからぬ新兵たちに声をかける。

 今回の任務が初対面だろうに、数日間の航海で、ゴーグル越しでもマスクで隠れた顔と、それぞれの“コードネーム”を、一致させているのだ。


「最初に、手を上げてくれて、ありがとう!!

 “アスラ”!! 姿勢がいい! 優等生のお前は、心配ない!」


「惜しかったな、“イザーク”!悔しい気持ちはわかる!

 貴様は、昨晩、遅くまで勉強していたな! すごいぞ!

 だが、寝不足は、感心せんがな!」


「“ディアナ”、愚痴は他人に聞こえないよう、小さな声で、しゃべれ!

 だが、生意気に、装備は、万全なようだな! 良いぞ!

 少し、横になって休んでいいぞ! 特別に、許可する。 

 すこし場所を空けてやれ!

 他に、休みたい者は、楽な姿勢で休んでよし!」


「“ニコル”、どうした? 隅で震えて、船酔いか!

 事前に薬を飲んだか? 俺の回復薬を分けてやる!

 おい!! だれか、こいつが、マスクを外すのを、手伝ってやれ!!」


「“ラスティー”、ブーツの靴ひもが緩んでいるぞ!

 ゆっくりでいいから、結びなおせ! 一緒に結んでやろうか!

 お前の“パーティリーダー”は、誰だ?」 


「“ミゲル”、貴様か! お間が、部下を持つとはな! 

 もちろん、覚えているぞ! お前の母親と弟は、元気か? 

 “リーダー”の役職は、お前の努力と成長した証だッ!! 俺は、嬉しいぞッ!! 

 しっかり見てやれ! ひょっ子どもを頼むぞ!」

 

 一人ひとりの肩を叩き、感謝を伝え、努力を労い、休ませ、励まし、不備を是正し、訓練どおりにやれば問題ないのだ!と叫び続ける。


 やがて、ハートマンは、列の端から、全員の装備について、確認し始めた。

 各パーティのリーダーが、既に一人ひとりの装備を確認しているが、居並ぶ新兵の服装で細かいところまで、確認している。


 この“仕事”の準備では、複数名での確認作業が大事だ。

 ダブルチェック、トリプルチェックにより、時間の許すかぎり事前準備し、装備の不備をなくすことが生存率を上げるのだと、ハートマンは新入りのひょっこ達に教えたいのだ。

 若い兵や、戦闘経験が少ないものには確実に声をかける。

 

 かつての教官時代の癖が抜けきらないのだ。

 ハートマンの面倒見の良さは、変わらないな。



 既に海底都市にいる先遣隊の一人、コードネーム“アルファ”は、苦笑しながら、ペストマスクのゴーグル内に念写された、新兵たちの顔や、“識別マナ”を確認する。


 友軍双撃で、味方を攻撃するのは避けたい。

 

 新兵にとっては、激しい戦闘になるだろう。このうちの何人が生き残るだろうか?


 海底都市内に、脱出路の目印として置いた“アリアドネの糸”が、遠く離れた海中の仲間との、“念話”や“念写”を中継する。


 それにしても、ずいぶんと若い新入り達だな。

 訓練キャンプを卒業して、すぐに連れてきたのか?


 若い少年兵は、“組織”の人的資源が損耗するスピードが、早くなっている証だ。



 “本隊”の状況を、俺たち“先行部隊”に共有しているのは、本隊の突入時刻が前倒しになったことも影響しているだろう。

 スケジュールが同時並行になれば、元の任務だけでなく、新兵たちの面倒も見なければならなくなる。


 我々も前倒しで、“任務”を遂行しなければ、間に合わなくなる予感がした。



「管理官“レイドリーダー”から、“アルファリーダー”へ。

 “任務”の進捗状況を、報告せよ。」

 



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