第13話 秘剣 ~エルフ姉妹と、“真空切り”~

※この作品には過激な表現(残酷描写、暴力描写や性描写)を含みます!

 ご注意下さい。




『 この外道どもがッ!! 』



 少女達に群がっていた、「深きもの共」は、全て同時に首と心臓を両断される。

 特に、祭壇で少女達の体を触れていた怪物達は、念入りに切られていた。


 鎖で繋がれたままの、少女達の体には、いつのまにか、布が、かけられている。



 これをやったのは、俺ではない。


 さきほど、大声で吠えたのは、シリュウだった。

 鬼の形相で、鞘に刀を収めるのがわかる。



 俺なら、他所に気を取られている豚は、後回しにする。

 入口に近い、手前の奴から片づける。

 

 こんな、ふうに、なぁッ!


 パーティリーダーの“アルファ”は、呪いで重たい身体を動かし、大剣を振るう。

 

 救助を優先させるのは、実に、シリュウらしい反応だ。



「せめて、他の技で、倒してくれ!!」


 うっかり、“アルファ”の心の声が、口に出る。



 “アルファ”の目には、サムライ娘の彼女が、刀を抜いたようには“見えなかった”。


 それに、傷口それぞれの切り方が異なり、少女達へ血がかからないようにとの気遣いと、豚共への激しい憎しみを感じる。



 クールを装う、直情型の女剣士、“シリュウ”め。


 “アルファ”は、心の中で舌打ちした。

 こいつ、“最終奥義”の“秘剣”を使ったな!!


 ダンジョンに、囚われの美女。


 こんなの、見え見えの、罠だろ!!

 “ハニー・トラップ”の定番だ。


 必殺技を使って、”正気度”減らして、どうするんだ!!

 急いで助けようとして、消耗したところに、強敵が、来ることもありうる。

 美人局つつもたせかな?


 しかも、パーティの切り札のネタの一つが、敵にバレたかもしれん!


 手の内、特に、“顔”と“必殺技”が、敵にバレたら、困るのだ。

 今後の“仕事”が、やりにくくなる、かもしれないからだ。


 まあ、妖刀“脇差”も、似たような技を使ってたから、いいかなぁ。

 

 でも、別の技を、使ってね?

 その技、“SAN値”が、ゴリゴリ削れるんですよ?



 祈りが通じたのか、鬼神剣士は、刀を背中に戻すと、両手の指を鳴らしながら、鬼の形相で怪物を“切断”し始めた。


 ポニーテールに結んだ長い黒髪が揺れ、“パチン”という指をこすって鳴らす音が聞こえる度に、少し離れた位置では、怪物たちが袈裟けさ切りとなる。


 こいつ、手の指、“パッチン”で、斬撃を飛ばし始めた!


 うむ、大切な”大刀”で、こいつらを切りたくない気持ちは、まあ、わかる。

 俺だって、大切に磨いた、愛しい”大剣”で切るに値しない敵なら、直接触れなくて済む方法で、片づけるだろう。


 だが・・・。



 確かに、他の技を使えといったがなァ!

 

 “隠し技”を、ホイホイ使うなッ!


 それ、武器を封じられたときや、敵との間合いが近すぎて刀での迎撃が、間に合わないとき用の技だろ!

 

 同じ仲間にも、滅多に見せちゃ、ダメなやつ!

 “対策”、されちゃうでしょ!



 ……仲間の最強の必殺技や隠し技を、“彼女達”にも、見られたかもしれない以上、どさくさに紛れて、部屋内にいる“全員”を殺すべきだろうか?


 過去にアルファには、“囚われの姫”が、敵に洗脳されていたり、敵が化けていたりして、痛い目を見た経験があり、用心深くなっているのだ。



 まあ、今は、怒れる侍娘の、好きにさせておこう。


 彼女の“SAN値”の維持が、最優先だ。

 低下するリスクは、避けたい。


 それに、感情に任せて行動するのは、人間の正しい生き方だ。


 先に、脱出させたパーティメンバーの顔が浮かぶ。

 彼女達なら、今の“シリュウ”を見て、何というだろうか?


 “ニコラ”なら『兵士としては、正しくない行動だ。』と冷たく言い放つだろうか。

 “カルロ”は、そんなニコラを見て『あれぇ~?肩に担いでいる、金銀財宝を捨ててから言ってよね~この守銭奴めっ♪』と明朗に笑いながら、ニコラを肘でつつくだろうな。


 しばらくして、逃げ惑う「深きもの共」はあらかた、片付いたようだ。


 “シリュウ”は、部屋の四隅の暗い影で、震えている数人の黄色の毛が生えた「深きもの共」の前に立つと、“パチン”と音を鳴らし一人ずつ片づけていった。


「ぎイゃゃーぁ!!」断末魔は、もう聞こえなくなった。


 これが、最後の怪物だったようだ。

 俺たち以外で、この大部屋内で動くのは、鎖で縛られた、二人の少女だけだ。

 

 どうする?


 まず、“シリュウ”に、冷静さを取り戻させなければ。




「6秒間、深呼吸しろ、“シリュウ”。」

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