第3話 報告 ~エルフ姉妹と、アルファチーム~

『管理官“レイドリーダー”から、“アルファリーダー”へ。

 “任務”の進捗状況を、報告せよ。』


「こちら、“アルファリーダー”。目標は、未達成。回収率30%。

“神殿”の深部に向け侵攻中。現在地は、グリッドD1-R3-M172。

“潜入”から“強襲”に変更済み。抵抗は軽微。損耗なし。オーバー。」


「了解した。状況を継続せよ。」

 管理官との念話を終了する。


 アルファに続いて、ブラボー、チャーリーの各パーティリーダーも呼び出され、それぞれの状況を報告する。

 別の場所に潜入していたパーティは、海底都市の爆破準備が、ほぼ完了していることを伝えた。

 各所に配置された結界や、都市の深部にある基礎部分を破壊する準備が整った。

 もうこの作戦は成功したも同然だ。


 全てのパーティの作戦が上手くいけば、数刻とたたずに、海底都市は、完全に破壊され海に水没する。

 “本隊”の少年兵たちが、中心部に突入後、経験値をある程度稼いだら、全パーティは撤収して、全ての“アドアリネの糸”を起爆剤として、爆破するだけだ。


 “魔剣”使いの“アルファ”が率いるパーティは、合計で5人の精鋭ぞろいだ。

 “組織”の名簿上は、4人と1匹としているが、パーティ“アルファチーム”内で彼女を“区別”するものはいない。

 アルファは、混血の“怪物”を、同じ人間の仲間として扱うことに、誇りを持っていた。


 さて、パーティメンバーと連絡しけなければ。


「時間がなくなってきたな。一度集合するか?相棒?」

 先ほどの通信を聞いていたのか、近くにいる“大刀”使いが、“アルファ”に話しかける。


「問題ない。“シリュウ”。このまま、ツーマンセルで行く。」

「承知!」


 コードネーム“シリュウ”は、極東の忍びのような服装の“大刀”使いの女剣士だ。

 ペストマスクに入りきらない彼女のポニーテールは、戦闘の度に左右に揺れる。

 彼女が黒髪を伸ばし束ねているのは、彼女の長髪自体が、魔道具として機能する武器だからだ。戦闘中、彼女の髪を掴もうとすれば、その手はたちどころに、両断されるだろう。


「それは良かった。お前たちの攻撃に、巻き込まれては、たまらないからな。」

 通信に、軽口をたたく、冷たい声が割り込む。


 “ニコラ”だ。大陸の北方出身の彼女は、白い肌に短い金髪、長いまつげに銀色の瞳の冷たいまなざしが特徴的だ。

 彼女は大剣使いには珍しく飛び道具のついている“銃剣”使いだ。通常の銃剣とは異なり、大剣に長い筒銃が付属している。

 状況に合わせて、大剣と銃を切り替えて使うが、“マナ”を込め狙撃銃として使うことが多い。

 今も会話しながら、神殿内部ふきぬけの高位置から周辺の怪物を狙撃している。


「残念っ!全員そろえば、早く帰れると思ったのにな~!

 “深部”からの脱出経路の確保は、任せてね!」


 “カルロ”が、陽気に通信してきた。

 ラテン系で褐色の肌と、刈り込んだ緑髪を持つ彼女は、両手で、ひとふりずつ剣を操る“双剣”使いだ。

 剣といっても、通常の人間にとっては大剣であり、扱いが難しいことには変わりない。

 今回の任務では、小回りが利く偵察兵の“カルロ”は、狙撃で動けない“ニコラ”を援護して敵の防御網を突破した後は、任務の“目標”を見つけるのが、主な仕事の予定だった。


 道中で“カルロ”は、SAN値が、想定よりも、だいぶ下がってきた。

 彼女が“戻ってこれなくなる”前に、このまま比較的安全な場所で、“ニコラ”と待機させたほうがよい。

 軽薄そうに見えて、責任感が強い“カルロ”は、足出まといになるのを好まない。自分を犠牲にしてでも、任務を完遂しようとするだろう。


 このまま、探索を任せるより、先に脱出させた方が良いかもしれない。

 まだ“念話”で連絡がつく範囲にいる間に、撤収指示を出さなくては。



「そうそう、皆は、“本隊”にいる“石頭”のハートマンの動画を見た?だいぶ性格が丸くなったね~!」“カルロ”は話題を振る。


「そうか?私は甘くなったと感じる。」“シリュウ”が応じる。


「同感だ。わたしの知るハートマン軍曹は、訓練キャンプでの厳しい訓練を象徴する人物だったわ。鉄壁を誇った昔のような覇気を感じない。」 “ニコラ”がつぶやく。


「本当は優しいイイ人だったのかもね。それとも誰かが“改心”させたのかな~?」“カルロ”が応じる。


「いや、それはないだろw」「同感だw」「そだね~w」あはは、と彼女達は笑いあいながら、しばらく雑談を続けた。


 多くの新兵が卒業後にハートマンのもとへお礼参りに向かったが、全て返り討ちにあった。今となっては懐かしい思い出だ。

 訓練を受けた年代が近い者にとって、教官の話題は共通のネタになる。



 戦闘しながら、会話できるなら、精神的には相当余裕があるか?

 パーティは疲労も少なく、士気は高い。武器の損耗は低い。

 任務は継続可能だ。異界の“深部”へ行こう。

 

 白い肌の金髪の少女“ニコラ”が、話をもどす。

「そんなことより、まずは任務だ。

 “遺物回収”だけでも100%にして、任務を終わらせないか?

 先ほど“シリュウ”が言った通り、時間がないのは事実だ。」


 “ニコラ”の言うとおり、確かに、素通りした宝物庫に戻れば容易く達成できるだろう。彼女の“空間収納”の使用率は、残り約40%ほどか。アルファ自身の”収納”可能な空間は、残り約80%ほどだ。最後の5人目のパーティメンバーは、眠ったままなので、計算外とする。


 神殿下層に潜り、「深きもの共」の“秘宝”を、可能な限り“奪取”又は“破壊”する。

 

 それが、俺たち“アルファチーム”の任務だ。

 財宝の中でも、“組織”の上層部は、敵本拠地のマナの動きから、海底都市の動力源を管理しているとみられる“秘宝”に狙いを定めていた。

 早い話が、価値の高いものを探して、袋いっぱいに奪ってこいという任務だ。


 “秘宝”が複数あり、巨大だった場合を考慮して、“ニコラ”には、あまり収納空間の容量を使わせたくなかった。

 本当なら、神殿下層の“深部”探索には、“ニコラ”も同行させたい。

 

 しかし、“カルロ”を一人にするのは、危険か。


 余裕があるうちに、2人とも、撤収させよう。

 動力炉を管理する“秘宝”が大きすぎれば、破壊すればよい。


 階級が上の“ニコラ”がいるし、2人で仲良く“財宝”を回収して、撤収するタイミングを見計らい、俺達が戻る前には、撤収するだろう。

 経験値を稼いでいる本隊が、まだ周辺にいた場合、新兵の面倒は、俺と“シリュウ”が見ればいい。


「“ニコラ”、“遺物回収”を許可する。回収率が100%になり、退路確保が完了した後、“カルロ”と必ず2人で撤収しろ。地上まで必ず面倒をみてやれ。撤収のタイミングは任せる。守り切れないようなら、退路の探索と確保は、諦めて2人で脱出しろ。

  

 地上に出たら、今度皆で、帝都にできた新しいスイーツ店の食べ放題に行こう。

 もちろん、俺のおごりだ。」

「了解。」


「“カルロ”、安全第一だ。回復を優先しろ。宝物庫や扉の“開錠”で無理は、するな。

 先に帰って、おとなしくしてろよ?いいな?

 後で、かわいい子のいる店を紹介するから、絶対に死ぬなよ?」

「はいさ~。そりゃ、絶対に、生きて帰らなきゃ、だね~。」



「俺と“シリュウ”、それに眠ったままの“吸血姫”の3人で、神殿下層の“深部”に潜るぞ。」 

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