第4話 掘削 ~エルフ姉妹と、ポニテのサムライ娘~

『俺と“シリュウ”、それに眠ったままの“吸血姫”の3人で、神殿下層の“深部”に潜るぞ。』 




 少し、時がたち、まるで巨大な大広間のような豪華な大理石の石柱に囲まれた、正面玄関のような場所で、2人の人間がのんびりとくつろいでいた。


 2人の後ろには、今しがた通り抜けた、大扉がわずかに開いている。

 神殿下層から、さらに深い”異界”ともいうべき場所の“深部”につながる扉だ。


 極東の侍娘のような長い黒髪の少女“シリュウ”は、固い床に正座して、真剣な表情で、刀に目を凝らしている。

 しばらく刀を眺めた後、手に持った“大刀”から目を離すと、同じパーティの仲間に声をかけた。


「相棒、”砥石”を出してくれ。」

 得物の刃こぼれを気にしているのか。

 彼女は、いつも最高の切れ味でないと嫌なのだ。


「わかった。少し待ってくれ。」

 彼女と同じ、黒衣にペストマスクの出で立ちの若者が、何もない”空間”に手を突っ込み、何かを探し出した。


「・・・ああ。これだな。2個で足りるか?好きなだけ使え。」

 お目当てのアイテムを、見つけて取り出す。


「助かる。いつも運んでくれて、ありがとう。“アルファ”。」

 手渡された、消費アイテムを受け取りながら、女剣士は、綺麗な姿勢でお辞儀をして、感謝を伝える。


「どういたしまして。”シリュウ”。いいってことよ!

 回収任務の前に、空き容量が増えるなら、大歓迎だ。」

 “アルファ”と呼ばれた若者が答える。


 “シリュウ”は刀を研ぎながら、姿が見えない3人目の仲間に関して、アルファに質問を投げかける。


「“吸血姫”は、何か、言っている?彼女は、まだ起きないのか?」

「何も言わずに、ぐっすり眠っている。我らが、“眠り姫”が起きないということは、ここの空間の時間の流れは正常だな。」


 夜にしか活動しない彼女は、地上の時間に正確だ。


 “吸血姫”は、”組織”内では“怪物”扱いなので、パーティの他のメンバーとは、給金の支払い計算が異なる。

 他の隊員は、固定給プラス歩合制だが、彼女に支払われるのは、わずかな固定給のみである。

 おまけに、各種の”手当”が、まったく付かない。

 これでは、“仕事”のやる気が出るはずがない。


 残業代が支払われないので、勤務時間外の労働を、非常に嫌うのだ。



 それに、変に感覚が鋭いところがある。


 ”異界”内部の時間の流れが、早かったりしたら、『うーん。寝足りない。頭が痛い。もっと寝かせてくれ。』と文句を言う。


 時間の流れが、遅かったら、『うーん?寝すぎた?逆に頭が痛い。休ませてくれ。』といって、不機嫌になる。


 どちらも、寝起きの機嫌が非常に悪いので、すぐわかる。



 今回の作戦は、敵勢力「深きもの共」の海底都市の殲滅だ。

 彼らが弱っている日中の時間帯に総攻撃することを狙って計画されている。

 

 どさくさに紛れて、財宝を奪うのがアルファ達のパーティの目的だ。

 そういうわけで、パーティ“アルファチーム”は、夜明け前から潜入を開始した。

 

 この調子では、“吸血姫”は、まだ、しばらくは起きないだろう。



「しかし、いつまで待っても、“門番”が出てこないなぁ。」

 刀を、休まず研ぎ続ける少女はひとり、つぶやく。

 クールなポニテ女剣士の“シリュウ”は、意外と天然なところがある。


「それは、”シリュウ”さん。ほら、さっき門を通る前に、あなたが真っ先に倒した、“アレ”が、“門番”だったんじゃないかな?」


 アルファが、”シリュウ”のボケに、突っ込みを入れ、門の方を指さす。


 アルファが、指さした先に、何か”幻想的な”怪物がいた。

 3つ首の巨大な犬のような姿をした巨大な怪物が、門の向こう側に横たわっている。


 首は全て落とされ、心臓部分には、ぱっくり大きな穴が開いている。

 なぜか、穴の開いた部分からは、血がほとんど出ていない。


「そんなハズは、あるまい。“アルファ”さん。

 やつは、てんで、歯ごたえがなかったぞ。」


「いえいえ、あなたが強すぎるんですよ。

 その”大刀”、やけに切れ味が、良すぎません?

 実際、倒すのが早すぎて、”吸血姫”も、起きなかった。


 流石は、天下無双の豪傑よのう。天晴じゃ!」


「ははっ、これは、これは。もったいない、お言葉。恐悦至極!

 砥石、かたじけのうござりまする。

 もっと念入りに、刀を研いでおかねば。」



 冗談を交わしながら、アルファは、ひたすら情報を整理する。

 撤収する前に、偵察兵の“カルロ”は、“秘宝”のもとへと流れるマナの痕跡を追う方法を、事細かにアルファ達に伝えていた。

 マスクに投影される地図座標のグリッドに、”秘宝”へのマナの流れを入力する。

 地図と実際の視覚情報から、十分に追跡が可能だ。

 大丈夫だ。問題ない。


 ”パーティリーダー”のアルファは、“カルロ”が集めた情報から、任務の”目標”となる”秘宝”の位置を、導き出す。


 冗談を言っていた“シリュウ”も、”大刀“を研ぎ終わったようだ。

 他の装備の確認や、移動の準備も、既に終わっている。

 もう、休息は充分だ。


 さて、そろそろ、行こうか?


「“目標”の座標が、わかったぞ。“シリュウ”!

 やはり、ここの遥か真下だ。階段でも探すか?」


「いいや、“掘る”のを手伝ってくれ、相棒。」

「“落下”の間違いじゃないか?“シリュウ”、刀を折るなよ?」

「ふふっ、誰に言ってる? 私より早く、”目標”へ、たどり着けるかな? さあ、尋常に、勝負だッ!」


「ハアッ!!」”シリュウ”は、剣先から発した無数の”飛ぶ斬撃”を、丸い円を描くように床に打ち込み、刀傷を地面に刻み続ける。

 固い石がまるで、チーズのように切れる。

 床に入った切り込みは、下層に到達するほどに、大きく深い!!


「削れッ!!わが愛しい“魔剣!”」大剣をかざした、アルファが叫ぶ。



  ザシュ、ザシュ!! ザシュ、ザシュ!!  ズ ド ン !!!

 

 大理石の神殿の床が、大きな音とともに崩落し、抜けた穴に二人は飛び込む。


 1階降りるごとに、再び神殿の床をぶち抜き、2人は、目標のある下層まで降下する。





「痛ったぁ!!誰か、私のお尻、踏んだでしょ!!」

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