第11話 勝敗 ~エルフ姉妹と、“虐殺者”~

『もし勝負に“私”が勝ったら、“な ん で も” 言うことを、聞いて下さいね?』


 もちろん、負けた。

 大敗を喫した。


 目標にたどり着く“距離”や“時間”、仕留めた怪物の、“数”。


 そのいずれについても、パーティリーダーの“アルファ”は、“妖刀使い”に勝てなかった。


 

 この“妖刀使い”の忍者女は、ヤバい。

 阿鼻叫喚の戦場で、長い黒髪ロングヘアで和装を着てる刀使いは、ヤバい奴だ。

 笑い続けながら、戦場を疾走してるし、間違いない。


 整った姫カットで、ストレートに見える時と、髪が乱れている時がある。

 

 “幻覚”では、なさそう。

 

 こいつ、いつの間に、髪を直しているんだ?

 刀を、櫛に持ち替えて、髪をわざわざ、梳いているのか?


 “超スピード”で、動く能力に自信があるのは、間違いない。

 “加速魔法”の一種か?


 表の人格“シリュウ”も、“最終奥義”発動中は、『世界が止まって見える。』、とか言ってたっけ。



 パーティ内で、こと“対集団戦”において、本気を出した彼女に勝てるものはない。


 ”飛ぶ斬撃”をしつつ、"縮地”で移動されたら、勝ち目なんてないよね。


 "斬撃”って、範囲魔法だったんだね。

 刀身も、"無限”に伸びてた、ような気がする。

 


 そもそも単純な比較で、パーティリーダー“アルファ”が、大振りに大剣を“振る”よりも、彼女が剣で“突く”方が、圧倒的に、速いのだ。

 

 和装の妖刀忍者“脇差”の暗殺術は、“刺突”により、急所を突くことを基本とする。

 

 一番恐ろしいのが、目に見える刃渡りと、実際の間合いが一致しないことだ。

 

 理由は、彼女が取り憑いた女剣士“シリュウ”の肉体が、剣による"斬撃”を飛ばす固有能力を持っているから。


 刺突の剣が、まるで、"投げ槍”のように、空中を舞うのだ。


 それも、無数に。 


 

 どんな距離でも、関係なく、相手の急所を突く。

 無数の刺突により、鋼の鱗を持つ怪物、不死身の化け物すら、削り取るのだ。



 彼女の本質は、"槍使い”だ。 


 

 さながら、連射可能な“銃”を、弾の再装填を気にせず、打ち込んでくるようだ。

 “前衛”の“大刀使い”だが、“後衛”の“魔銃使い”と同じ間合いで、火力を出せる。

 

 彼女をパーティの仲間に引き込む際は、相当苦労した。


 特務部隊の中で、汚れ仕事に特化した“暗殺部隊”において、有数の実力者だった。


 かつて反乱を起こした“暗殺部隊”の多くが、いまだ“組織”内に“存在”し続けていられる理由は、彼ら彼女らが持つ、圧倒的な戦闘能力が、必要とされているからだ。

 




 絢爛豪華な、“黒い神殿”内部は、“宝物庫”と呼ぶに相応しい。


 古代オリエントの宮殿を模した、高級なホテルといった趣きだ。


 王侯貴族の避難所、だからか?

 色鮮やかな幕が張られた、広い寝室が付いた部屋が、多く見られる。

 廊下は、綺麗に整えられており、高価そうな調度品が並んでいる。


 今は、部屋や廊下を、“染み”や“刀傷”が、ひどく汚しているが。




 “黒い神殿”内部に、たどり着いた時の、"妖刀”の満足そうな顔は、忘れられない。

 黒い和装で黒髪ロングな彼女の口元は、耳まで届くかのように大きく笑っていた。


『“距離”、“時間”、“数”。

 いずれの勝負も、"私”の方が、わずかに勝ったようですね。


 ・・・フフッ。

 まさか、主君を打ち倒せる日が、来るなんて・・・。


 では、わが殿よ。

 約束通り、"3つの願い”を、叶えて、頂きましょうか?』



 キミとは、"勝負”、受けるとも言ってないし、何か、数も増えてるよッ?


 俺、パーティリーダーだよ?

 下剋上、じゃあないですか?


 イヤッ、“大剣”が見てる前でっ、そんなこと、しないでぇッ!



 その後、滅茶苦茶にされた。

 ・・・仕事中なのに。



 合計30分の時間制限がなければ、死んでいたかもしれない。

 "延長”は、断固拒否して、倉庫にぶち込んだ。


 舌と、腰が、すごく痛い。



 丸い“丸薬”の入った、手作りの戦闘糧食を、無理やり、食べさせられた。

 3種類も!

 

 黒い三角の握り飯は、もう当分、食べたくない。

 凄く“形容しがたい”辛さの具が入っていた。


 あまりの辛さに、“アルファ”は、正常な判断ができなかった。

 お礼を言いながら、忍者女が差し出した水筒を、勢いよく飲んでしまった。

 

 もちろん、すごく辛い“調味料”が入っていたので、全力で噴出した。

 

 “倉庫”から、普通の水を出して飲めば、良かった!



 あと、それから、困った“デバフ”が発生した。

 背負い直した“大剣”が、なぜか凄く、重たいのだ。


 こんなに、重かったっけ?

 わざと、“重力”魔法で、重たくして、いませんか?


 “大剣”の中に宿る、“ナニカ”の、反応はない。

 うんともすんとも、言わない。


 早く、機嫌を、直して欲しいものだ。

 このままでは、俺の腰が持たん。


 予定よりも早く、30分とたたずに“宝物庫”内部に突入できた事が、唯一の収穫か。

 


「ふぁあ~。ふぅ、もう30分、たったのか・・・?

 むっ、“目標”に、たどり着いたようだな?

 ?

 どうした、“相棒”?」


 あくびをしながら、黒髪ポニテのサムライ娘が、目を覚ましたようだ。


「・・・大丈夫だ、問題ない。」


 ・・・こいつ、“妖刀”使ったのに、“正気度”が回復している!



「“マナ”の流れを、たどれ! “秘宝”は、近いぞ! もう、この先、すぐだ!」

 

 

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