12

 2人はサメから降りた。いよいよソエの地にやって来た。ソエの地は雪が降っていて、とても寒い。藍子は震えた。


 藍子はしばらく立ち止まった。いよいよ、ソエの地にやって来たのだ。そして今日は、この世界を救う運命の日だ。必ず世界を救うんだ。


「ここがソエの地」

「うん。最果ての地!」


 ジームは深くため息をついた。いよいよダークキャッスルに戻ってきた。だが、今度は敵としてだ。もうダークドラゴンなんて親と呼べるか? そんな気持ちでいっぱいだ。


「いよいよ来たんだね!」

「うん。だけど本当の目的の場所はダークキャッスル」


 その時、港町の桟橋で誰かが泣いている。よく見ると、ロングヘアーの女の子だ。一体誰だろう。


「あれ? 誰か泣いてる」


 藍子は女の子の肩を叩いた。女の子は悲しそうな表情だ。そして、顔中が傷だらけだ。


 ふと、藍子は京子の事を思い出した。そういえば、死ぬ直前の京子もそんな感じだったな。どうして自分はそれでも虐待してしまったんだろう。謝ろうとしても謝れない。もう死んでいるからだ。


 ジームはそんな藍子をじっと見ている。何かを思っているようだ。だが、何も話そうとしない。


「どうしたの?」


 藍子が話しかけると、その女、美優(みゆ)は顔を上げた。美優は驚いた。怪獣だ。だけど、この怪獣は、見た目と反して優しい。何者だろう。


「お母さんに殴られたの」

「そんな・・・」


 藍子は驚いた。この子も虐待されている。虐待で京子を殺してしまった罪償いに、何とかしないと。


「どこにいるの、そのお母さんは」

「私、1人で逃げ出したの。お父さんを待ってるの」


 美優はとても優しいお父さんを待っているという。両親は離婚していて、母、美月(みつき)が育てる事になったという。だが、美月はなかなか泣き止まない美優を虐待するようになった。そして、その虐待から逃れるために、心優しい父に助けを求めたという。


「どうしたの?」


 美優は藍子の表情が気になった。何かを思い出しているような表情だからだ。


「自分も同じことやってしまったから、その痛みがわかるの。辛い?」

「うん・・・」


 美優は安心した。この怪獣さんはとても優しい。美優の事をかわいそうに思っている。


「早くお父さん、来てほしいね。お父さん、優しいの?」

「うん」


 美優はお父さんが来るのを楽しみにしていた。ここで会おうと約束していた。そう思うと、少し元気が出てきた。だが、不安もある。美月がやってきたらどうしよう。美月が来たらまた連れ戻されるだろう。


「よかったね」


 藍子はそれを聞いてほっとしていた。もうすぐこの子が救われるんだ。楽しみだな。


「お父さんがやってきて、私を助けてくれるの」

「早く来ないのかな?」


 だが、そこに美月がやって来た。母は恐ろしい表情だ。どうして外に出たのか。学校の時以外は、外に出たらいけないとあれほど言ったのに。


「美優、何をしてるの! また外に出て!」


 美月は美優を強引につかんだ。美優は抵抗したが、美月は強くて離そうとしない。


「ママ、やめて!」

「さぁ、家に帰りなさい!」


 美優は叫び声をあげるが、美月はその声を聞こうとしない。


「やだ! やだ!」


 その時、藍子がやって来た。美月は怪獣がやって来た事に驚いた。何をしようというんだろう。


「やめなさい!」


 藍子は美月をつかんだ。だが、美月は抵抗する。怪獣なのに、どうして美優を助けようとするんだろうか? 見かけによらず、優しい心を持っている。とても怪獣らしくない。


「そこの怪獣、離せ! この野郎!」

「かわいい子供にこんな事をするなんて、許さん!」


 藍子は鋭い爪で引っかいて美月に抵抗とする。だが、美月は素早くよける。


「怪獣のくせに子供に優しくしやがって!」

「それが何だ! 子どもにひどい事をしてるくせに!」


 藍子は美月に訴えたかった。お前の育て方は間違っている。こんな事ばかりしていると死刑にされるぞ。


「育児が面倒くさいんだ!」


 美月は育児が面倒くさいと思っていた。ならば、美優なんていらないと思っていた。


「面倒くさくても育てる事も生きていく上で、命をつないでいく上で大切な事だ!」

「怪獣のくせに生意気だ!」


 美月は思っていた。怪獣のくせにどうしてこんな事を言っているんだ。人を苦しめるのが怪獣なのに。


 その時、黒い影が現れた。ダークドラゴンだ。まさか、こいつもダークドラゴンが操っていたとは。この世界の悪い奴はみんなダークドラゴンに操られているんだろうか? 藍子にはそう思ってしまうほどだ。


「何をしている・・・、こいつを苦しめろ! それが私の力になるのだ! 苦しめろ!」

「ダ、ダークドラゴン!」


 美月は驚いた。まさか、自分に力を与えられていたダークドラゴンが現れるとは。よほどの強敵だろうか?


「またしてもあいつに操られてたのか」


 美月は抵抗する。だが、怪獣は離そうとしない。そして、攻撃を仕掛けてくる。だが、美月は必死でそれをさせないようにしている。


「この野郎!」


 藍子はダークドラゴンを攻撃した。だが、全く当たらない。影のようだ。本体はダークキャッスルにいるんだろうか?


「諦めろ! 私にはいかなる攻撃も効かぬ! 私は無敵なのだ!」


 ダークドラゴンは不敵な笑みを浮かべている。藍子は悔しそうにそれを見ている。美月はその様子をじっと見ている。


「くそっ・・・」

「諦めるのだ!」


 ダークドラゴンは自信気だ。俺を倒す事なんてできない。俺は悪の化身。倒す事ができない。あんな怪獣には絶対に負けない。あいつに勝てるに違いないと思っていた。

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