10
2人は昨日以上に疲れている。だが、進まなければ、この世界の未来はない。そして、藍子は自分が自分でいられなくなる。そう思うと、進まなければいけないと感じてしまう。
藍子は今までに会った人々の事を思い出した。彼らはみんな、ダークドラゴンに振り回されていた。ダークドラゴンは何て悪い奴なんだろう。そんな奴にどうして人間は力をもらおうとするんだろう。力が欲しいからとはいえ、どうして力を欲しがるんだろう。
「どうしてこの世界は苦しみであふれてるんだろう。平和に生きるべきなのに」
もう1つ、藍子は気になる事がある。どうして世界では戦争が起こっているんだろう。人々は平和に生きるべきなのに。徐々に平和に生きることの大切だとわかってきた。自分は逮捕されてから、平和について何度も考えた。だけど、自分は犯罪を犯してしまい、怪獣にされてしまった。もう遅いのだ。こうして平和を考える時間もあと少しかもしれない。だけど、そうはさせない。
藍子は後ろを向いた。クチウの街があんなに小さく見える。こんなにも遠くに来たのか。だけど、目指す場所はまだまだ遠い。どこまで歩けばたどり着けるんだろう。だけど、私たちは行かなければ。今までであってきた人々のためにも。そして、これから出会う人々のためにも。
2人はクチウの街を少し見ると、再び前に進み出した。あんなに近かった峠が目の前に見える。またもや峠だ。あと何度、こんな峠を越えるんだろう。
峠に差し掛かるあたりから、雪が降ってきた。この先のツムの地やソエの地は雪がよく降る街で、この時期はよく雪が降るという。
北に向かうにつれて、寒くなってきた。2人は次第に白い息を吐くようになった。これも徐々に北へ向かっているんだと感じる時だ。
程なくして、2人は再び峠道に差し掛かった。この峠も人通りが全くない。現実ではどれだけの人が通るんだろう。
歩くにつれて、次第に雪が深くなっていく。峠道はつづら折りで、どこまでも続いているように見える。2人はいつ通ったかわからない車の轍を頼りに、険しい峠道を進んでいく。
進んでいくと、汽笛が聞こえる。どこかで機関車が通っているんだろう。京子と機関車のおもちゃで遊んだのを、藍子は思い出した。だけど、その思い出はもう帰ってこない。自分がやってしまったんだ。
その後も進んでいくと、大きな雪覆いが見えてきた。その雪覆いは峠の頂上付近にある。雪覆いは木製で、もう何十年も前にできたようだ。
興味にそそられて、2人はその雪覆いのある場所に向かった。そこには1件の茶屋があり、その横には駅舎がある。雪覆いの中にはレールが敷かれている。
その茶屋は深い雪に埋もれながらもそこにあった。だが、誰も客は出入りしない。とても寂しい茶屋だ。
2人は茶屋に入った。茶屋には1組の集まりがいる。鉄オタのようだ。彼らは楽しそうに話している。彼らはダークドラゴンの事を知っているんだろうか? この世界を支配しようとしているドラゴンなのに。
2人はテーブル席に座った。すると、老婆がやって来て、お茶を差し出した。
「いらっしゃい。何にするかい?」
「あんこ餅お願いします」
「私もお願いします」
老婆は厨房に消えていった。藍子は店内を見渡した。店内には白黒の写真が飾られている。それはみんな、蒸気機関車の写真だ。その内の1枚の写真に雪覆いがある事から、この近くの駅の昔の写真のようだ。
「ここはどこだろう」
「峠の茶屋らしいよ」
2人は振り向いた。話しかけたのは後ろのテーブル席の男たちだ。男たちはこの駅の事を知っているようだ。
「ふーん」
と、藍子はジョイント音に気付き、窓を見た。客車列車が後ろ向きに入線してくる。藍子は興味津々だ。
「あれ? 機関車がバックで入ってくる」
「ここはスイッチバックの駅なんだよ」
この駅は峠の頂上に設けられたスイッチバックの駅で、この先にある引き込み線に入線してから、バックで駅に入るそうだ。
「そうなんですか?」
「はい。だけど、もうすぐなくなるんですよ」
すると、男がふと寂しい表情になった。もうすぐこんな光景が見れなくなるからだろう。
「そうなんですか」
藍子は鉄道に興味がない。だけど、廃止になったり引退するニュースはよく見る。その度に大量の鉄オタがやって来る。やはり何かがなくなるのは寂しいんだろうか?
「はい。高速化のために消えていくんですよ」
「寂しいですね」
その直後、客車列車は駅を離れていった。彼らはその様子を見ている。
数十分後、しっかりと休息をとった2人は、再び歩き出した。ここからは下り坂だ。次の街、ツムの地はまだ見えない。だけど、着々に進んでいる。そして、ダークドラゴンの元にも近づいている。
その先には白樺林が続く。道はつづら折りの下り坂だ。車は通り過ぎるが、そんなに多くない。とても静かな峠道だ。ソエの地まではどれぐらいだろう。そう思うと、肩を落としてしまう。
2人は、ツムの地が見える場所までやって来た。その先には死の海が広がり、その先に目指すべきソエの地がある。そこからダークドラゴンのいる城に行く事ができるという。
「ついにここまで来たか。ダークドラゴンはその先の大陸にいるんだね」
藍子は遠くを見た。海の向こうにソエの地が見える。いよいよその大陸が見える所までやって来た。だけど、まだ油断できない。どこで邪魔をする人が出るかわからない。
「ああ。何としても目指さないと」
「この先にいるのね」
2人は峠道を降りていく。徐々に雪は深くなくなってきた。そして、田園地帯に入った。だが、田畑は雪に埋もれて、土が見えない。あるのはただの雪原だけだ。その先には街がある。ツムの地だ。
「早く越えないと」
「いかん! そこを越えたらいかん!」
と、誰かが声をかけた。その男は老人だ。とても優しそうだが、どこか狂っているような雰囲気だ。彼もダークドラゴンに操られているんだろうか?
「どうして?」
藍子は首をかしげた。越えなければいけないのに、どうして越えてはならないんだろう。
「そこは死の海と言われ、ここを生きて渡った人はいないんだぞ」
「そんな・・・。でも行かないと。そしてその先でダークドラゴンを倒さないと」
藍子は無理やり行こうとする。だが、老人が止める。老人とは思えないほど、老人は強い。
「それでもいかん!」
結局、藍子は行くのをやめた。だが、藍子は諦めていない。あの老人の目を盗んで、行かなければ。
「あのおじさん、何だろう」
「越えなきゃいけないのに、どうして越えちゃダメなんだろう。まるで私たちを邪魔しているかのようだわ」
ジームも不審に思っている。この老人も、ダークドラゴンが操っているんだろうか?
「何か怪しい。秘密があるに違いない」
藍子も感じている。思っている事は、ジームと同様だ。
「どうして?」
「だって、今まで私が出会った人々って、ダークドラゴンに操られているもの」
藍子はこれまでに出会った人々はみんな、ダークドラゴンに操られていた。この老人もきっとそうだ。
「そう言えばそうだね。ひょっとして、あの人もダークドラゴンに操られている?」
「そうかもしれないね。あのおじさんの言う事なんか気にせず、ひそかに北に向かいましょ」
「うん」
2人は決意した。あの老人の目を盗んで、秘かに北に向かおう。北に向かうのが私たちの使命だ。
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