9

 2人は牢屋の中でじっとしていた。民家はとても静かだ。誰もいないようだ。捕まえられてすぐ、男たちはどこかに出かけ、それ以来、誰も周りを人が通っていない。


 藍子はうずくまっていた。このままここで身も心も怪獣になってしまうんだろうか? そうなったら、ジームをも食い殺してしまうかもしれない。あんなに可愛い子、食い殺してたまるか。だが、脱出できる手段を見つからないままだ。これからどうすればいいんだろう。静かな空間の中で、藍子は絶望していた。


 その時、1人の少女がやって来た。その少女は黄色いスカートに白いTシャツを着ている。優しそうな表情だ。


「だ、誰だろう」


 その女は2人を見つけると、こっちに近寄ってきた。何をしようというんだろうか? 私たちに気付いてやって来たんだろうか?


 女は持っていた鍵で牢屋の鍵を開けた。まさか、逃がしてくれるとは。この女は、私たちの味方だろうか?


「大丈夫?」


 女は優しそうな声だ。藍子はほっとした。やっぱり自分を救う人はいたんだ。


「あ、あなたは?」

「ここを支配しているピピンの娘、ミシェルよ」


 ミシェルはここに住んでいて、クチウの地を支配しているピピンの娘だ。ミシェルはピピンの政治に反対している。そして、ピピンの秘密を知っている。だが、反発すると殺される。だから、悪いふりをしているのだという。


「ピピン?」

「ここを支配している奴だよ」


 ミシェルは父とは言わない。こんな悪い政治をしているので、父とは陰では呼ばないようだ。


「まさか、私を連れ去った人?」

「そうかもしれないわ。あなたを以前から付け狙ってたもん。あいつを食い止めろってね」


 ピピンは以前から藍子を狙っていた。ジームの力で藍子が刑務所から逃げて、北に向かう。そして、ダークドラゴンを倒しに行くと。それを阻止するために、藍子とジームを捕まえろと。


「やはりそうだったのか」


 藍子の思っていた事は正しかった。やはり自分を狙ってここに閉じ込めたんだ。


「さぁ、早く逃げましょ!」


 3人は急いで玄関に向かった。3人は辺りをしきりに見渡している。家の中には誰もいない。


「早く早く!」


 3人は玄関から出て、辺りを見渡した。誰かが見ているかもしれないと思ったからだ。案の定、そこには何人かの見張りがいる。彼らも、藍子を狙っているようだ。


「あいつらは見張り?」

「ああ。あいつもダークドラゴンに操られてるんだ」


 彼らの見張りはみんな、ピピンの言いなりだ。だからみんな、私たちを捕まえようとするのか。


「こっちこっち!」


 ミシェルは指示をした。見張りの目を盗んで、勝手口から逃げよう。この裏に勝手口があるはずだ。ミシェルは玄関を閉め、勝手口に向かった。2人はミシェルについて行く。


 少し歩くと、台所の横に、勝手口を見つけた。ここは細く、見張りがいないかもしれない。


 3人は勝手口から外に出た。その先は狭い路地裏で、人通りが少ない。ここならだれにも見つからずに逃げ出せそうだ。


「早く行こう!」

「早く早く!」


 3人は全速力で逃げた。だが、誰にも見つかっていない。早くここから逃げて、早く北に向かうんだ。もう時間がない。


 3人は大きな道路に出た。道路は広いのに、閑散としている。あれもこれも、ピピンの独裁政治のせいだ。そう思うと、ミシェルは悲しくなった。


「何とか逃げ切ったわね」

「ああ」


 3人はそれでもしきりに辺りを見渡している。ここにいても、どこかで見張りがやって来るかわからない。早く市街地から逃げて、北に向かわないと。


「早く行こう!」


 だがその時、1人の見張りに見つかってしまった。見張りは3人に気付くと、表情を変えた。


「待て!」

「くそっ、見つかった!」


 見張りを見て、ミシェルは焦った。早く市街地に逃げないと。


「2人とも逃げて!」

「うん!」


 3人は全力で逃げていく。だが、彼らは速い。追いつかれそうだ。


 と、そこにピピンがやって来た。脱走したとの報告でやって来たんだろうか? 3人は焦りつつ、どんどん逃げる。だが、どんどん追いつかれる。


「くそっ、逃がすか!」


 と、ミシェルが立ち止まり、彼らをふさいだ。


「もうやめて、お父さん!」

「な、何をするミシェル、やめろ!」


 ピピンはミシェルを抑えようとした。だが、ミシェルは逆にピピンを抑えた。まさか、自分が抑えられるとは。


「早く逃げて!」


 見張りはミシェルを話そうとする。だが、ミシェルは強く、歯が立たない。


「は、離せミシェル!」

「くそっ、こうなったら」


 ミシェルはピピンの頭を歩道のアスファルトにぶつけた。すると、黒い影が抜けていく。ダークドラゴンの影だ。どうやらダークドラゴンの魂が分離したようだ。


「いてっ・・・」


 それを見て、見張りは驚いた。まさか、ピピンがダークドラゴンに操られていたとは。


「う、うわぁぁぁぁぁ」

「だ、ダークドラゴンの気が抜けていく・・・」


 しばらくすると、ピピンが起きた。ピピンは元の心に戻ったようだ。


「み、ミシェルか?」


 ピピンは優しそうな声だ。何があったのか、ピピンは覚えていないようだ。何もかもダークドラゴンに操られて、ダークドラゴンの言うままに独裁政治を行っていたようだ。


「お、お父さん?」


 ミシェルはほっとした。その様子を見て、2人もやって来た。


「ご、ごめんな、こんな事になって。お父さん、強さを求めるあまりにこの国をめちゃくちゃにしてしまった。本当にごめんな」


 ピピンは強い衝撃を受けて、息が切れ切れになっている。ピピンはどうしてダークドラゴンに操られてしまったのか、話しだした。




 ピピンはそれ以前からクチウの地を支配していた。だが、決断力が全くなく、周りに助けてもらいながら、何とか実権を握っていた。ピピンはそんな自分が向いていないと思っていた。だが、今は亡き親の命令だ。やらなければならない。


 ピピンは疲れて、帰り道を歩いていた。ピピンは肩を落としていた。どうすればいいんだろう。もっと自分は強くなりたいのに。この地を強くしたいのに。


「もっと強くなりたいか?」


 突然、誰かの声がした。そこにいるのは、黒いドラゴンだ。だが、優しそうな声だ。まるで父のようだ。


「はい」


 ピピンは素直に答えた。自分はもっと強いリーダーになりたい。そのためには、何でもやりたい。


「ならば、私に力を与えられるがいい。そうすれば、お前は強くなれる」

「ほ、本当ですか?」


 ピピンは驚いた。まさか、こんなに簡単に強くなれるとは。これは与えらもらわないと。


「ああ。私についてきなさい」

「わ、わかりました」


 ピピンはダークドラゴンの影について行く事にした。この後自分は、正気をなくしてしまうのに。


「よろしい。素直でよろしい」


 それ以後、ピピンはしばらく行方不明になった。数日後、帰ってきた時から、ピピンは恐ろしい独裁政治を始めてしまった。最初はみんな、異様に思っていたが、次第に普通だと思うようになったという。




 ピピンは優しい目でミシェルを見つめている。こんなお父さんですまなかった。これからはみんなの声を大切にする政治を行っていくから、許してくれ。


「こんなお父さんですまんかったな、ミシェル。これを渡すから、必ずダークドラゴンを倒してくれよ」


 ピピンは藍子に緑色のかけらを渡した。藍子はそのかけらを受け取った。それは知恵のかけらで、これもダークドラゴンの元に向かうために必要な物だ。


「どうしてこんな事が起きなければならないんだろう」


 ジームは悲しんでいる。世界は平和でなければならないのに、どうしてこんな事が世界各地であるんだろう。ダークドラゴンが許せない。


「ダークドラゴンが許せない。絶対に倒す! この世界の平和のためにも」

「怪獣のお姉さん、ダークドラゴンを倒して! 応援してるから!」


 藍子はミシェルの右手を握った。必ず、ダークドラゴンを倒してみせる。だから見ていてね!


「わかった。絶対に倒して、みんなを救ってみせるからね」


 2人はクチウを後にして、その先に進んだ。その先には山がそびえ立っている。またここでも山越えのようだ。

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