5
翌日、あと5日。2人は峠の頂上で目覚めた。峠の頂上はとても静かで、人通りが全くない。もう忘れ去られた峠だろうか?
2人は再び歩き出した。歩いても歩いても無人の山林だ。どこまで行けば人家が見えるんだろう。全くわからない。
峠の頂上を過ぎ、ここから下り坂だ。その先には誰も歩いていないし、車の通る気配がない。最後にここを人が通ったのはいつだろう。
「あと5日なのね」
藍子は寂しそうな表情を見せた。この意識でいられるのも、あと5日だ。それまでにダークドラゴンを倒さないと。でも、不安もある。倒してその呪いを解く事が出来ても、残るのは孤独な自分だけだ。京子も雅ももういない。住む事もできない。
「うん」
ジームは元気に答えた。藍子にはダークドラゴンを倒してほしい。ただそれだけだ。この世界を救うのは、藍子しかいない。
「早くダークドラゴンの所に行かないと。そして倒さないと」
ジームは前を向いた。だが、山林以外に何も見えない。だが、その先にダークドラゴンのいる城が見えるんだと思うと、わくわくしてくる。
「そうね。頑張って北に向かいましょ」
「うん」
藍子も前を見た。何も見えないけど、その先にダークドラゴンの城があるんだ。必ずダークドラゴンを倒して、世界を平和に導くんだ。
「どうしてこんな世界になったのかな?」
ふと、藍子は考えた。どうしてこんな世界になったんだろう。誰も望んでいないのに。
「ダークドラゴンが現れてから、この世界は悪い人であふれてしまったの」
ジームは知っている。この世界にダークドラゴンがやって来てから、悪に満ちた世界になってしまった。それは生まれた時から知っている。だけど自分はそんな世界が嫌いだ。ダークドラゴンが嫌いだ。
「そうなんだ」
藍子は世界の真実を知った。だとすると、ダークドラゴンは異世界からやって来たのかな? そして、この世界を征服するためにここにやって来たんだろうか?
「この道がダークドラゴンのいるダークキャッスルに続いてるんだね」
「早く行かないと」
2人は峠道を下っていく。歩いていくうちに、つづら折りのカーブに差し掛かった。右に左に、何度も曲がっていく。だが、なかなか人家が見つからない。まだまだ集落は通り様だ。どこまで続くんだろう。藍子は肩を落とした。
ジームは自分の無力さを嘆いていた。翼があれば、ひとっ飛びで通り過ぎられるのに。飛べなくなって、申し訳ない。
つづら折りを過ぎると、長い一本道に入った。ここまでくると道が平坦になってきた。どうやら峠を越えたようだ。藍子はほっとした。もうたどり着けないのではと心配だったが、峠を越えられた。
相変わらず静かな道が続いていく。どこまで進むと、人家が見えてくるんだろう。気が遠くなりそうだ。
しばらく歩いていると、1人の少女が道の先から歩いてきた。その女は元気がなさそうだ。
「ねぇ、大丈夫?」
藍子は気になった。弱っている子供を見ると、助けたくなってしまう。
「わからない」
その少女、アンナは少し戸惑った。見た目は怖い怪獣なのに、どうしてこんなに優しい心を持っているんだろう。
よく見ると、アンナはとてもやせ細っている。どうしてこうなっているんだろう。何かを食べさせないと、命が危ない。
「何日も食べてないの?」
「うん」
アンナは下を向いている。2人とも心配している。早く何とかしたい。
「いっつも先生や生徒にからかわれてるの」
「そんな・・・」
藍子は驚いた。こんなにもひどい事をされているなんて。早く助けないと。アンナが心配だ。死なないだろうか? 京子を死なせてしまった藍子は、これ以上子供が悲惨に死んでいくのが見たくなかった。
「先生がそんな事するなんて、許せない!」
「私も」
2人は決意した。何としても彼らを止めないと。そして、アンナを救わないと。
そこに、3人の少年がやって来た。その少年は、不気味なまなざしで3人を見ている。それを見て、アンナは下を向いた。こいつらがアンナをいじめているようだ。
彼らはアンナを見つけると、今にも襲い掛かりそうな雰囲気だ。
「すいません、アンナさんをからかうのはやめませんか?」
藍子は襲い掛かろうとしない。彼らは驚いた。見た目は怪獣なのに、どうしてこんな優しい気持ちを持っているんだろう。
「俺はアンナの両親に俺の両親を殺されたんだ。だから、恨んでいるんだ」
彼らはみんな、アンナの両親に殺されたという。まさか、アンナの両親がこんな事をしていたとは。だから恨んで、こんな事をしたんだろうか?
「そんな・・・」
藍子は絶句した。そんな事が起きたなんて。こんな事が世界であってはならない。人間は殺されるために生まれてきたんじゃない。
「だからといって殺さないで!」
殴ろうとする彼らを、藍子は強い力で止めた。だが、手を出そうとしない。もう人を殺したくない。
「お父さんとお母さんがそんな事するわけない!」
「本当の事だ!」
彼らは強い口調だ。彼らの目は、恨みで満ちている。だが、どこか誰かに操られているような表情だ。
ジームは彼らを怪しそうな目で見ている。ひょっとして、彼らはダークドラゴンに取りつかれているのでは?
「嘘に決まってる!」
「本当だ!」
彼らは藍子の制止を振り切って、アンナを殴り始めた。アンナは泣きそうだ。だが彼らは殴るのをやめようとしない。
「殴らないで!」
「やめろ!」
次第に彼らは藍子も殴り始めた。だが、怪獣の姿の藍子は全くびくともしない。体が強いからだろうか?
「この野郎!」
と、そのうちの1人の男が持っていた刃物で自分の腹を突き刺した。正気を取り戻したようだが、どうして腹を刺したんだろうか?
「うっ・・・」
男はその場に倒れこんだ。とても痛そうな表情だ。ジームはその様子をじっと見ている。正気を取り戻して、自分を刺したんだろう。だけど、どうして自分で死のうと思ったんだろうか?
「終わりだ! 覚悟しろ、怪獣野郎!」
そして、別の男も持っていた包丁を腹に突き刺した。彼も自殺しようというのか?
「うっ・・・」
彼らは気を失っている。その向こうにはうっすらと、幽霊がいる。彼らの両親だろうか?両親がダークドラゴンの魂を抜いたと思われる。
と、彼らは起き上がった。それまでの怖い表情とは違い、優しい表情だ。これが本当の心だろうか?
「お、俺はどうした?」
「えっ!?」
藍子は驚いた。まさか、この男たちもダークドラゴンに洗脳されていたんだろうか?
「俺はダークドラゴンに洗脳されていた。アンナを殺すようにと。アンナの両親は俺の両親を殺してはいない。別の人がやったんだ。なのに、ダークドラゴンの味方になる事で罪を逃れ、アンナの両親に罪をなすりつけたんだ」
実は、彼らの両親を殺したのは、別の人だ。アンナの両親は彼らの両親を殺してはいなかった。ダークドラゴンの味方となる事で、罪を逃れていた。そして、アンナの両親に罪をなすりつけたのだ。
そんな事で罪を逃れるなんて。そして彼らに取りついてアンナを殺させるなんて。こんなの許せない。アンナは全く悪くないのに、どうしてこんな事されなければならないんだろう。藍子は拳を握り締めた。こんな事、あってはならない。
「そんな・・・」
「許せない!」
ジームもこぶしを握り締めた。ますますダークドラゴンが許せないと思った。このままではダークドラゴンの想いのままに世界が殺戮で支配されてしまう。
「早く倒そう!」
「うん」
と、彼らは死にそうな顔でこちらを見ている。何かを言いたいような表情だ。
「こ、これを持っていけ!」
男の1人がポケットからある物を出した。それは形が愛のかけらに似ているが、青く光り輝いている。
「勇気のかけらだ!」
ジームはその石も知っている。まさか、この人が持っていたとは。きっと、この世界の未来を彼らに託しているんだろう。
「これもダークドラゴンの所に行くのに必要なの?」
「うん」
男は息が切れ切れだ。死がすぐそこに迫っているようだ。だが、限りある命を燃やして訴えかけようとしているようだ。
「どうか・・・、この世界のために・・・」
そして、彼らはその場に倒れた。彼らは息を引き取ったようだ。
「死んじゃった・・・」
アンナはその場に崩れ落ち、泣き出した。どうしてこんな事で死ななければならないんだろう。どうして世界が平和にならないんだろう。
「どうして誰かが犠牲にならないのか」
藍子とジームはその様子をじっと見ている。どうして死ななければならないんだろう。ダークドラゴンの快楽のために殺されるなんて、ひどい。早く平和にしなければ。
「犠牲なんていらないのに」
「ひどい世界だね」
藍子は決意した。死んだ彼らのためにも、世界を平和にしないと。きっと彼らは天国で見守っているだろう。
「私が何とかしないと」
2人はバダイを後にして、再び北に向かった。彼らのためにも、そしてアンナのためにも平和を取り戻さねば。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます