4
エディの家は歩いて5分ぐらいの所にある。ごく普通の一軒家だ。藍子は雅と過ごした日々を思い出した。雅は今頃、どうしているんだろう。会う事が出来たら謝りたい。だけど、怪物になってしまった自分を見て、どう思うんだろう。
藍子とジームは近くの塀に隠れながら彼らを待った。だが、なかなか来ない。どこかに遊びに行っているんだろうか?
しばらく待っていると、2人の少年がやって来た。どうやら彼らがエディとアレックスのようだ。早く彼らを何とかしないと。
「こいつらか」
「そうみたいね」
エディとアレックスは家に入ろうとしている。今日も家で遊ぶようだ。彼らは2人がいる事を知らない。
と、藍子とジームがやって来た。2人がいる事を知らないエディとアレックスは驚いた。
「ちょっと、あなたたち!」
突然、話しかけられて、動揺した。彼らは冷たい目で2人を見ている。
「何だよ!」
エディは抵抗した。振り払おうとしたが、怪獣の藍子は力が強くて、離そうとしない。
「あんたたち、メアリーがかわいそうだと思わないの?」
それを聞いて、アレックスは笑みを浮かべた。メアリーの事を思い出すたびに、笑いが込み上げてくる。こんな奴、生きていてもしょうがないと思い、いじめようと思ってしまう。
「いや、それが面白いと思うんだもん!」
エディは高笑いをした。自分も面白いと思っている。やめられない。
「そんなのを面白いと思うなんて、許せない!」
藍子は強い口調だ。娘を虐待させて死なせている自分が言うのもなんだが、いじめは絶対に許せない。かわいそうだ。やめるべきだ。
だが、彼らは全く聞き耳を持たない。それどころか、より一層厳しい表情になった。
「俺たちに歯向かうのか? じゃあ、やってやるぞ!」
エディとアレックスは襲い掛かってきた。だが、怪獣の姿の藍子にはかなわない。
「ガオー!」
藍子はエディに噛みついた。だがその時、藍子は意識を失っていた。藍子は感じた。自分が心までも怪獣になってしまうって、こういう事なのかな? 何もかも制御できずに、あらゆる人々に暴力を振るってしまう。虐待をしてしまった自分はまさに怪獣だ。だから私は怪獣の姿にされたんだ。
「ど、どうしたの?」
藍子の様子がおかしいのは、ジームにもわかった。藍子が心まで怪獣になってしまうと、こうなってしまうんだ。それまでに、何とかしないと。
「体が・・・」
藍子は意識を取り戻した。目の前には傷ついたエディとアレックスがいる。エディとアレックスは意識があるものの、息が絶え絶えだ。
「どうしたの?」
「少し自分を見失ったの」
藍子は息を切らしている。自分はエディとアレックスを傷つけてしまった。本能が目覚めてしまったようだ。本当は嫌なのに。
「くそっ、ダークドラゴン様のために、苦しみを届けないと」
その時、光が差してきた。何だろう。エディとアレックスは空を見上げた。
「・・・、やめなさい・・・、エディ、アレックス、やめなさい・・・」
そして、2人の女性が空から降りてきた。エディとアレックスは呆然となった。自分たちの母だ。数年前に、何者かに殺されたと言われている母だ。
「お、お母さん?」
彼らの母たちは優しそうな表情だ。まさか、ここで現れるとは。何事だろうか?
「どうしてこの世界を苦しめるの? 世界がそれでいいの?」
彼らの母たちは空から見ていた。このままで2人は大丈夫だろうか? このままでは悪い子になってしまう。ダークドラゴンのように心も黒く染まってしまう。それでいいんだろうか? その前に、自分たちで止めないと。
「そ、それは・・・」
その時、黒いドラゴンの影が現れた。ジームは厳しい表情になった。ダークドラゴンだ。彼らはダークドラゴンに取りつかれていたようだ。
「苦しみを届けろ・・・。それが我の力になる・・・」
だが、彼らの母たちはダークドラゴンを止めようとする。どうかもう操られないでほしい。彼らの味方にならないでほしい。
「もうやめなさい!」
エディの母はダークドラゴンを握りつぶした。すると、エディは正気を取り戻した。だが、もう死にそうだ。
「な・・・、なぜだ・・・」
信じられない。ダークドラゴンは呆然となった。こいつらを操っていたのに、どうして?
「呪いを絶つために魂を抜いたんだ・・・」
「藍子さん、その魂を握りつぶして!」
2人の母たちは藍子に命令した。そして、光り輝く物を託された。それは彼らの魂だ。そうすると、彼らが死んでしまう。これで大丈夫だろうか?
「えっ、えっ・・・」
藍子は戸惑っている。本当にこんな事をしていいんだろうか? エディとアレックスが死んでしまう。
「早く! 早く!」
「わ、わかった・・・」
支持されるがままに、藍子は2人の魂を握りつぶした。すると、エディとアレックスは気を失った。
「エディ・・・、アレックス・・・」
彼らの亡骸を見て、藍子は泣いた。とても怪獣とは思えない。ジームは呆然としている。
「こんな事があっていいの?」
いつの間にかジームも泣いている。ジームも悲しいようだ。ダークドラゴンに取りつかれただけで、こんな事になっていいんだろうか?
「あってはならない・・・」
「早くダークドラゴンを倒して、この世界を救わないと」
藍子は拳を握り締めた。彼らのためにも、必ずダークドラゴンを封印しないと。
「そうだね」
「もう行こう」
と、アレックスの母がある物を出した。それは、赤く光り輝く石だ。これは何だろう。藍子は首をかしげた。
「怪獣さん、これを持っていって」
藍子はアレックスの母から石を受け取った。その石は赤く、まるでカイロのように温かい。
「ありがとう。何これ?」
「私が大切にしている石なの」
それを見て、ジームは反応した。その石を知っているようだ。
「これって、『愛のかけら』?」
「知ってるの?」
藍子は驚いた。その石を知っているとは。この石は何だろう。
「このかけらがないとダークドラゴンの所に行けないんだよ」
ジームは知っている。ダークドラゴンのいるダークキャッスルに行くには、愛のかけらの他に、あと4つのかけらが必要のようだ。
「そうなの?」
「うん」
と、そこにメアリーがやって来た。彼らをやっつけたようだ。だが、死んだ2人を見て、茫然となった。これがその結果だろうか? 命を救えなかったのか? とても辛い。また遊びたかったのに。
「メアリー、元気でね」
メアリーを見て、彼らの母たちは空へと昇っていった。メアリーはその様子をじっと見ている。
「怪獣さん、絶対にダークドラゴンを倒してね」
「わかった。絶対倒すよ」
メアリーは両手で怪獣の手を握った。藍子は泣きそうになった。この子のためにも、そして、天国へと旅立った彼らのためにも絶対に世界を救わないと。
藍子はモケを後にして、バダイの地へ向かった。この先には何が待っているんだろう。また自分を邪魔するような人がいるんだろうか? いたとしても、北に進まねば。そうしなければ、自分の未来はない。これは、自分の未来を切り開くための旅だ。
2人がしばらく歩くと、田園地帯に出た。目の前には山が見える。目的地はずっと先だ。メアリーのためにも、未来を繋げないと。
「こんな遠くにヒガシが」
2人はとても疲れていた。だが、立ち止まってはならない。この世界の未来がかかっているんだ。休む事は許されない。
「けっこう歩いたね」
「ああ」
藍子は肩を落としている。ジームはその様子を心配そうに見守っている。もし、空を飛べたらいいのに。だけど、しばらく飛べそうにない。力になれなくて、申し訳ない。
2人の先には、夕日が見える。その先には、朝が待っている。明日はどこまで行けるんだろう。どんな困難が待ち構えようとも、私が立ち向かう。そして、ダークドラゴンの元にたどり着き、倒す。
その夜、2人は峠を歩いていた。峠は人通りが少ない。そして静かだ。とても寂しい。だけどジームといると、なぜか寂しくない。どうしてだろう。
その先は暗くて、全く見えない。暗い中にどこまでも道が続いていく。その先には何があるんだろう。それは目の前の暗闇のようにわからない。
歩いても歩いても上り坂だ。どこまで続くんだろう。歩いているうちに、藍子は疲れてきた。だけど、進まなければ。この世界を救うために。そして何より、元の自分を取り戻すために。
数時間歩いて、ようやく2人は峠の頂上にやって来た。そこにはベンチがある。民家は全くない。無人の山林のようだ。
2人はここで1番を過ごす事にした。もう今日は疲れた。ここで休み、また明日、先に進もう。
「明日はもっと先に進めるといいね」
「うん」
ジームはゆっくりと目を閉じた。藍子はその様子を、優しそうな目で見ている。怪獣なのに、どうしてこんなに優しく接しているんだろう。まるで本当の娘のようだ。だけど、そこにいるのは京子ではなく、ジームだ。
次第に藍子も眠ってしまった。静かに夜は過ぎていく。藍子は夢の中で誓っていた。早くダークドラゴンの元にたどり着かなければ。
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