3

 しばらく歩くと、看板が見えてきた。ここはモケと呼ばれている所らしい。だが、どう見てもここは栃木だ。どうしてこんな地名になっているんだろう。この世界は実際の世界をまねたパラレルワールドだろうか?


 この辺りは住宅地が多い。ベッドタウンのようだ。歩いていると、子供たちの声が聞こえる。楽しそうだ。それを聞いていると、藍子は下を向いてしまう。自分は京子を殺してしまった。もう京子に会えないし、遊べない。


「あれっ、ここって、栃木だよね。モケって書いてあるけど」

「えっ、モケだけど」


 ジームは不思議そうに見ている。ここは昔からモケと言われている所なのに。この怪獣は何を言っているんだろうか?ジームは首をかしげた。


 徐々に辺りが明るくなっていく。もう朝だ。鳥のさえずりが聞こえてくる。聞いているだけでうっとりするが、そんな事をしていられる時ではない。早く北に向かい、ダークドラゴンを倒さねば。


 と、向こうから1人の少女がやって来た。その少女は服がボロボロで、泣いている。何があったんだろう。


「どうしたの?」


 藍子は優しい表情で声をかけた。藍子にはその少女が京子のように見えてしょうがない。京子の事が忘れられないようだ。いまだに後悔している。自分の過ちで、私は怪獣になってしまった。


「みんなにいじめられているの」


 少女は顔を上げた。だが、怪獣の藍子を見て驚く事はない。怪獣がいるのが不思議ではないんだろうか?


 藍子は拳を握り締めた。こんな事されている子がいるなんて。度々ニュースで見る。どうしてこんな事をするんだろう。思えば、自分も京子を虐待して死なせてしまった。考えたら、それもいじめじゃないか? あれだけ思っているのに、自分もいじめみたいな事をしてしまった。


「そう、大丈夫?」


 藍子は爪を引っ込めて、少女を撫でた。少女は少し笑顔を見せた。やはり怪獣がいる事が普通のようだ。


「ありがとう。私、メアリーというの」


 その少女はメアリーという名前だ。メアリーには両親がおらず、その事でいじめられている。だが、どうして両親がいないんだろうか? 死んだんだろうか?


「誰かにいじめられているの?」

「エディとアレックスにいじめられているの」


 メアリーはなかなか泣き止まない。相当辛い事をさせられているようだ。


「そうか、私が懲らしめてやるさ!」


 藍子は笑みを浮かべた。京子を虐待で死に追いやったのを償いたいな。


「ありがとう」


 その様子を見て、ジームは何かを考えた。気づいた事があるんだろうか?


「その子供たちって、ダークドラゴンに操られているのでは?」


 あてずっぽうだが、ジームの推測は当たっているかもしれない。ダークドラゴンはこの世界の悪の象徴で、人間の悪の心を力としている。


「えっ!?」


 藍子は驚いた。まだ何にも知らないのに、どうしてそんな事を言っているんだろうか? 


「ダークドラゴンは人間を洗脳して、凶悪にする力を持っているの。この世界でいじめが起こっているのは、ダークドラゴンの影響だと言われているわ」


 ジームはダークドラゴンの事をよく知っている。ダークドラゴンはこの世界の悪そのもので、人々の苦しみを自分の苦しみだと思っているそうだ。


「そ、そうなの?」


 藍子はまだ信じられない様子だ。ダークドラゴンがこんな力を持っているとは。


「うん。わからないけど、とりあえず、あの子の様子を見よう」

「うん」


 2人はエディとアレックスの様子を見る事にした。果たしてダークドラゴンが操っているんだろうか? それとも自分からいじめているんだろうか?


 3人でエディの家に向かっている間、2人はメアリーの事を考えていた。両親のいないメアリーの気持ちがよくわかる。


「あの子、両親がいないからいじめられているのか」

「かわいそうだね」


 2人はメアリーをかわいそうだと思っている。両親がいないだけで、どうしてこんな事をするんだろう。いじめる理由なんてないのに。


「どうしたの?」

「親がいるって、大切な事だなと思って」


 藍子は両親の事を思い出した。両親は早くして交通事故で無くなってしまった。今思うと、その時の愛情を知らなかったから虐待で京子を死なせてしまったんだろうか? そう思うと、両親がいる事って大切だなと思う。


「親の大切さ、わかるんだね」


 ジームは感心した。藍子は反省している。こんな怪物の体をしているけど、心は優しいんだ。藍子に怪物の姿は似合わない。人間の姿がいいに決まってる。


「そりゃそうだよ。あんな事して捕まってからこれだけ反省したんだよ」

「しっかり反省してるの、えらいよ」


 ジームは藍子の手を握った。とても暖かい。なぜか和んでくる。どうしてだろう。藍子にはその理由がわからない。


「ありがとう」


 と、メアリーは何かを知っているような表情だ。隠さないで話してほしい。


「どうしたの?」

「メアリーの両親を殺した奴、知ってるの。ダークドラゴンの手下だって事知ってる」


 ジームは驚いた。まさか、こんな所にもダークドラゴンの魔の手が伸びているとは。ダークドラゴンはどうしてこんな悪い事をするんだろう。苦しみや戦争では何を得る事ができないのに。


「そんな・・・」

「それで、メアリーも死なせようと」


 メアリーを殺そうとしているなんて。とてもひどい。早く倒さないと。この世界が苦しみや悲しみで包まれてしまうだろう。


「そんなひどい事するなんて・・・」


 ジームは拳を握り締めた。自分の楽しみのためにこんな事をするなんて、許せない。今すぐ倒してほしい。


「許せない・・・」


 藍子も許せないと思った。自分の手で倒して、この呪いを解かなければならない。


「ダークドラゴンはこの世界の苦しみを自分の喜びと思ってるから」

「そんなひどい事を・・・」


 自分はひどい事をした。だけど、ダークドラゴンはもっとひどいな。早く何とかしないと。この世界はもっとひどい方向に向かってしまうだろう。


「許せないよね」

「うん」


 藍子はメアリーの頭を撫でた。我が子を死なせてしまった分、この子を守りたい。


「あの子たち、なのにダークドラゴンに操られて、メアリーをいじめているの」


 今度はメアリーも殺そうとしているなんて。ひどすぎる。早く止めないと。


「そんな・・・」


 藍子も呆然となった。どうしてみんな殺されなければならないんだろう。人を殺してはいけないのに、どうして平気で殺しちゃうんだろう。


「あの子も道連れにしようとたくらんでるわ」


 ダークドラゴンの事はよく知っている。殺す事でしか快楽を得られない。この世界の悪を司るドラゴンなのだから。


「何とかして目覚めさせないと」

「うん」


 と、メアリーは紙切れにある物を書いた。そしてそれを藍子に渡した。そこには地図が書かれている。ここにエディとアレックスがいるようだ。


「ありがとう。ここがこの子達の家なの」

「ありがとう。頑張ってくるね」


 藍子とジームは彼らを探す事にした。何としてもエディやアレックスを改心させないと。

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