13

 その時、1人の男がやって来た。美優の父、陽一(よういち)がやって来た。今日、陽一はやって来た。美月に取られた子供を取り返すために。そして、自分こそ子育てをするにふさわしいと言わせるために。


「美優! 大丈夫か?」


 その声を聞いて、美優は陽一の元に走ってきた。美優は嬉しそうだ。これから美月から解放される。自由になれるんだ。


「お父さん!」


 だが、それに気づいた美月もやって来る。体罰を加えて殺して、ダークドラゴンに命を捧げるのが正しい。


「美月! いい加減にするんだ!」

「ダメ!」


 美優は陽一の後ろに回った。陽一は大きく腕を広げ、美月を止めようとする。これ以上近づかないようにしているようだ。


「やめろ! お前はダークドラゴンのおもちゃじゃない!」


 陽一は知っていた。美月はダークドラゴンの指示で美優を殺そうとしているのを。美優は俺の大切な子どもだ。殺してはならない。美優も大切な命だ。こんなに簡単に死んでもらいたくない。


「やだ!」


 だが、美月は取り返そうとしている。虐待死させて、ダークドラゴンに命を捧げるんだ。


「お前は人の痛みがわかるのか?」


 陽一は気づいてほしかった。命の大切さを。その命を育て、生きつなぐのが人間なのだと。


「わかるわけない! だってダークドラゴンのために苦しみを届けるのだから!」

「やめろ!」


 突然、陽一が美月の頬を叩いた。それと共に黒い影が抜けた。ダークドラゴンの影だ。それと共に、美月は元の優しい顔になった。正気に戻ったようだ。


「わ、私は?」


 美月は呆然としている。目の前には陽一がいる。どうして自分はここにいるんだろう。ダークドラゴンに力を貸して以来、何をしていたんだろう。


「美月! 正気に戻ったのか?」

「私、私・・・、あぁ何て事を! 何て事を我が子にしてしまったんだろう。もう私は母として失格だわ! 早く殺して! 早く殺して!」


 美月は殺してほしいと願った。自分は美優にとんでもない事をしてしまった。母親としてしてはいけない事をしてしまった。死をもってそれを償わなければならないだろう。


「ダメだ! 人の命はこの星よりも重いんだ! 生きろ!」

「やだ! やだ!」


 美月は持っていた包丁で自分を刺そうとした。だが、陽一が止める。自殺なんてするな! もっと生きろ!


「美月、やめなさい!」


 と、そこに黒い影が迫ってきた。ダークドラゴンだ。再び美月を操ろうとしているようだ。


「こいつ、私の言う事を聞け!」


 影は再び美月に重なった。すると、美月の表情が変わり、再び狂暴になった。


「うっ・・・」

「ヤバい! また取りつかれた!」


 陽一は焦った。また取りつかれた。早く分離させないと、また美優に体罰を加えてしまう。


「美月、やめなさい!」

「おのれー!」


 そこに、2人の老人がやって来た。美月の両親だ。美月がダークドラゴンに操られてしまったのを、両親は知っている。分離させて、元の美月に戻ってほしい。


「美月、やめろ!」


 美月の父、重三(じゅうぞう)は美月に抱きついた。ダークドラゴンの悪い魂を分離させているようだ。


「離せ! 離せ!」


 それを見て、陽一は美優と共にどこかに行こうとする。できるだけ遠くに離れよう。そして、一緒に平和に生きよう。


「美優、さぁ行こう!」


 重三は美月を抑えている。美月に美優を渡すもんか! 美優が心身ともに成長できるには、陽一といるのが一番だ。わからないのか?


「待て!」

「お前に美優は渡さん!」


 美月は抵抗していた。必ず美優を取り返す! ダークドラゴンに命を捧げるんだ。


「悪霊よ、女にとりつく悪霊よ、立ち去れ!」

「や、やめろーーーー!」


 その時、黒い影が分離して、消えた。そこには、元の美月がいる。もうダークドラゴンの言いなりにならないと感じた重三は、ホッとした。


「美月、だ、大丈夫か?」


 美月は息を切らしている。取りつかれて分離してで、疲れているようだ。


「お父さん、ごめんなさい」

「いいんだ。辛かっただろう」


 重三は美月を抱きしめた。やっと元の美月に戻ってくれた。だが、もう美優は戻ってこないだろう。ダークドラゴンの誘いに乗ってしまわなければ、美優は自分の者だったのに。離婚しなかったのに。


「私、ひどい事をしてしまった。ごめんね」

「いいんだいいんだ。ダークドラゴンの誘いに乗ってしまったんだろう」


 重三は美月を許している。元の美月に戻ってくれるだけでいい。これまで積み重ねてきた悪は忘れて、自分らしく生きてほしい。


「うん。日頃のストレスが溜まってしまい、ダークドラゴンの誘惑に乗ってしまったの」


 と、藍子は美月の肩を叩いた。まるで自分とよく似ている。自分は日頃のストレスが溜まってしまったため、それを京子にぶつけてしまい、死なせてしまった。


「私もそうだったの。その気持ち、わかるわ」

「か、怪獣さんもそうなんですか?」


 美月は驚いた。何だろうこの怪獣は。恐ろしい見た目とは裏腹にとても優しい。美月の両親も驚いている。こんな清らかな心を持っている怪獣がいるなんて。


「はい、私は娘を虐待して死なせてしまったため、怪獣にされてしまったのです。だけど、この意識でいられるのは、今日までなんです。それまでにダークドラゴンを倒さなければならないのです」


 美月と重三は驚いた。まさか、この怪獣がダークドラゴンを倒そうとしているなんて。


「そうなんですか。頑張って!」

「私、応援してるから!」

「ありがとう」


 藍子は笑みを浮かべた。みんな、自分を応援している。この人たちのためにも、必ずダークドラゴンを倒さねば。


「美優にそんな事をやって、本当にごめんね。これを持っていって・・・」


 美月はズボンのポケットから石を取り出した。それは、鮮やかな緑の石だ。


「これは? まさか、力のかけら! これがあればダークドラゴンの所に行けると言われている!」


 ジームは知っていた。これがダークキャッスルに行くための最後のかけらだ。いよいよ、ダークキャッスルに行けるんだ。そう思うと、わくわくしてきた。


「そう・・・。お願い・・・、ダークドラゴンを倒して! 世界に光をもたらして・・・、優しい怪獣さん・・・」


 美月は目を閉じた。とても疲れているのだろう。とても優しそうな表情だ。


「わかった! がんばるね!」


 藍子は集めた5つのかけらを並べた。この5つがあればダークドラゴンの元に行ける!


「これで全部そろったね!」

「うん!」


 ジームは喜んだ。もうすぐ世界が救われるんだ。そして、藍子の呪いが解けるんだ。


「これでダークドラゴンのいるダークキャッスルに行けるよ!」

「本当だね!」


 藍子はわくわくしてきた。あと少しでダークドラゴンに会えるんだ。そして、世界を救える。そして何より、自分にかけられた呪いが解けるんだ!


「うん! この5つのかけらを天に掲げて!」


 藍子は5つのかけらを天に掲げた。すると、虹色の階段が現れた。その階段は、天に向かってどこまでも続いているように見える。藍子は呆然としている。


「す、すごい!」

「この虹の架橋がダークキャッスルに通じる道になるんだよ!」


 その先にはダークキャッスルがある。待ってろ、ダークドラゴン。必ず倒して、世界の平和を取り戻すんだ。


「藍子さん、負けないで! 絶対にダークドラゴンを倒して!」


 重三は応援している。見えなくなっても、ここで応援しているから、絶対に世界を平和に導くんだぞ!


「わかった! だから見ててね!」


 藍子は重三の手を両手で握った。重三は嬉しそうだ。まるで自分の子供のように優しい。


「うん! 応援してるから!」


 藍子は虹の階段を踏みしめた。不安だったが、普通に歩けるようだ。早くダークキャッスルに向かおう。


「ありがとう! 行ってくるね!」

「行ってらっしゃい!」


 2人は階段を登り始めた。重三は手を振っている。それを見て、藍子は手を振って応えた。みんな、私たちの事を見ている。彼らのためにも、世界の平和を取り戻さなければ。

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