14

 歩いていくうちに、地上が小さくなっていく。そして、見送った人々も小さくなっていく。階段を徐々に上がっていく。その階段は、どこまでも続いているように見える。まだダークキャッスルは見えない。どこまで行けばたどり着くんだろう。藍子はため息をついた。だけど、進まなければ、自分の未来は、世界の未来はない。


 ジームはその先をじっと見ていた。その先にダークキャッスルがある。そして、ダークドラゴンがいる。


 見えなくなっても、茂三と美月は空を見ている。あの空の向こうに、藍子とジームがいる。もうすぐ、ダークドラゴンとの戦いが始まる。ダークドラゴンは強い。何しろ、この世界の悪そのものだから。だけど、藍子なら勝てる。だって、倒す運命だから。そして、藍子が世界を平和に導いてくれるんだ。


 数時間歩いても、階段は続いている。次第に階段は雲を抜け、見渡す限り雲しか見えない、雲海のような場所に出た。階段の先には、黒く輝く城が見える。あれがダークキャッスルだ。だが、まだまだ小さくて、よく見えない。やっと見えてきたのに気づいて、藍子はほっとした。着実にダークキャッスルに近づいているんだ。ダークドラゴンのもとに近づいているんだ。だが、ダークキャッスルはまだまだ先だ。もっと上らなければ。


 やっと見えてきたダークキャッスルを見て、ジームはダークドラゴンの事を思い浮かべた。あんなの、父じゃない。本当の私の父はどこなんだろう。私は、どうして生まれたんだろう。気が付いたら、自分はドラゴンとして生まれてきた。でも、幼少期はそうじゃなかった。目の前にいるのは、人間の両親だった。では、幼少期の自分の目の前にいる、人間の両親は誰なんだろう。


 歩いていくうちに、次第に辺りが暗くなっていく。期限が刻一刻と近づいてる。早く向かわなければ、心まで怪獣になってしまい、世界が救われない。


 階段を上り始めて数時間、ようやくダークキャッスルに着いた。その外観は真っ黒で、悪の化身、ダークドラゴンを象徴しているようだ。


「ここがダークキャッスルなのね」

「うん」


 藍子はダークキャッスルをじっと見つめた。この城のどこかに、ダークドラゴンがいるんだ。絶対に倒して、この世界を平和にするんだ。そして、元の人間に戻るんだ。


 2人は大きな扉を開け、ダークキャッスルの中に入った。入った先は大広間になっていて、とても静かだ。護衛は誰もいないようだ。


 藍子は辺りを見渡した。大広間にはいくつかの入り口がある。そのうちのどれかが、ダークドラゴンのいる場所に通じているんだ。早く見つけないと。


 藍子は真ん中の扉を開けた。その先には、藍子と京子がいた部屋がある。とても懐かしい。ここで自分は、京子にとんでもない事をしてしまった。そのせいで自分は、怪獣にされてしまった。どんなに悔やんでも、京子は帰ってこない。だけど、世界を平和にする事で、許してもらえるんだろうか? いや、許してもらえないだろう。もう京子は戻ってこないのだから。


 ここは違う。その先で行き止まりになっている。そう確信した藍子は、右の部屋に入った。そこには裁判所がある。自分はここで裁判をかけられ、怪獣の刑を言い渡された。本当にこんな刑って、あるのかなと思った。だが、ここが異世界だと知って、それは夢だと確信した。早く悪い夢から覚めろ! そして、京子との日々を取り戻したい!


 ここでもない。藍子は引き返した。どうやらここは藍子にまつわる幻を見せる城のようだ。どうやらダークドラゴンは、藍子の事を知っているようだ。知っていて、このような幻を見せているんだ。


 藍子はまた別の扉に入った。そこには、自分が勤めていた職場の様子だ。逮捕するまでは、普通にここに勤めていたのに、もう戻れない。逮捕されて、復帰しようと思っても、絶対にうまくいかないだろう。だが、職場には誰もいない。職場とは思えないほど静かだ。ダークドラゴンはこんな所まで知っているとは。とても恐ろしい。


 藍子は引き返した。どこが、ダークドラゴンの場所に通じる扉だろう。ひょっとして、今までに見た事のない景色が扉の向こうに広がっていたら、それがダークドラゴンに通じる扉ではないかと思い始めた。


 藍子は焦っていた。早く見つけないと、期限が切れてしまう。だが、焦らず頑張って見つけないと明日はない。その思いが藍子を動かしている。


 藍子はその隣の扉を開いた。そこには、牢屋がある。ここに私は閉じ込められていた。そしてここで、ジームと出会った。ジームが救うまでは、自分は身だけではなく心も怪獣になってしまうんだと覚悟していた。だけど、ジームがやってきて運命が変わり、この旅が始まった。そしてもうすぐ、その旅は終わろうとしている。旅が終わったら、私たちはどうなるんだろう。全く予想できない。だけど、ダークドラゴンを倒して、平和な未来が訪れる事だけは確かだ。どんな未来であっても、2人が笑顔で過ごせるような日々であってほしいな。


 藍子は一番左の扉を開いた。その先には長い通路がある。この景色は見た事がない。これが、ダークドラゴンのいる場所に続く通路だろうか? 通路の所々にはドラゴンの彫刻がある。それらはダークドラゴンだろうか? 一定間隔である窓からは、夜空が広がる。その夜空の下には、ダークドラゴンに苦しめられている人がいる。彼らのためにこの世界を救わねばと感じる。


 藍子は礼拝堂にやって来た。だが、誰もいない。礼拝堂の奥には、黒いドラゴンの彫刻がある。度々見た黒いドラゴンだ。これが、ダークドラゴンだろうか? ここは、ダークドラゴンに祈りを捧げる場所だろうか?


 藍子は礼拝堂の奥にやって来た。その時、辺りが明るくなった。2人は驚いた。まさか、ダークドラゴンが操っているのでは?


「フッフッフ…、よくぞここまで来たな!」


 その声に、藍子は反応した。まさか、ダークドラゴンだろうか?


「お父さん! もうやめて!」


 ジームは拳を握り締めている。その声は、ダークドラゴンだ。その声を聴くだけで、憤りを感じる。


「こ、こいつが、ダークドラゴン?」

「うん」


 程なくして、目の前に黒い影のようなドラゴンが現れた。ダークドラゴンだ。ダークドラゴンは鋭い目で2人を見ている。


「藍子よ、ここまでたどり着いたのは誉めてやろう。だが、お前は俺を殺す事はできない。なぜならば、私は神だからだ」


 ダークドラゴンは高笑いした。神の私を倒そうだなんて、ばかげた話だ。神なんて、倒せるわけがない。お前らは滅びるだけだ。覚悟しろ。


「そんな・・・」

「そんなの嘘よ! 神様と言ってるだけなの!」


 ジームは知っていた。神と自称するだけで、本当は実態を持たない悪の塊なんだ。全然怖くないんだ。


「うるさい! 裏切者め! じきに血の海で溺れるがいい!」


 ダークドラゴンは黒い炎を吐いた。だが、2人は間一髪でよけた。ダークドラゴンは鋭い目つきで2人を見ている。


「もう人々を苦しめないで!」

「娘を殺したお前が何を言っている? お前は死刑になればよかったのに」


 ダークドラゴンは藍子の事を知っている。怪獣の姿になった理由も。実はあの裁判は、ダークドラゴンが仕切っていたのだ。藍子はそれを全く知らない。


「死刑にはなりたくない! 娘の分も生きるんだ!」

「3歳しか生きられなかった娘のためにこんな事ができるのか?」


 藍子は必死な表情だ。虐待で死なせてしまったけど、そんな子の生きられなかった分も生きなければならない。だから、死刑になりたくない。


「ああ! 生きなければならない!」

「愚かな! そんなひどい事をしてでも生きたいのか?」


 ダークドラゴンは笑みを浮かべた。藍子の思っている事がばかばかしくて面白いようだ。虐待で死なせてしまったのに、どうしてこんな事を言っているんだろう。なんとも愚かだ。


「はい!」

「ならば、生きる事の苦しみを、味わえ、この怪獣女!」


 ダークドラゴンは強烈な冷たい息を吐いた。藍子は避けることができずに、浴びてしまった。藍子は氷漬けになった。

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