ソルター・マーシー

長いこと施設で暮らしているタカは入れられた理由を忘れている。タカだけでなく、施設の人間は皆、忘れている。身体の病気が原因か、精神の病気が原因か、あるいは、それ以外なのかすら判然としないまま、日々を送っている。その施設は定期的に動物がくる。不定期で健康診断が行われる。食事の際に薬が渡される。周りは森に囲まれており、坂の上にある。自由にレクリエーションルームで催しものを開ける等の特徴がある。自由度の高いこの施設に不満を持つ者は少ない。タカとほとんど同時期に入れられたヤスは施設に反抗的な珍しい存在で、薬も飲んでいないが、タカには懐いている。
しかし、一人の女性ケイコが死ぬことで皆が不安に陥る。ヤスはレクリエーションルームで意志さえあれば不可能はないという演説をし、施設に対し疑問を抱かせ、皆を奮い立…続きを読む