第22話 興味本位の続行

 放課後。

 午後の一発目の授業で理不尽に怒られたりなどしたが、それ以外は特につつがなく終了することができた。

 拾った生徒手帳はもう手元にはないが中の情報は既に頭の中にインプット済みだ。

 余裕ある者の高等遊戯を再開しようじゃないか。


「良くん、今日一緒に帰る?」


「残念ながら崇吾、俺は今からやることがある。ただお前がどうしても手伝いたいって言うんだったら」


「あーそうなんだじゃあね」


 俺の返事を最後まで聞くこともなく、親友はさっさと教室から出て行ってしまった。

 薄情な奴だな、ちょっとくらい付き合ってくれてもバチは当たらないんじゃないのか?


 仕方がない、こうなったら一人で張り込んでやる。

 付き合いの悪い友人の事は諦め、俺は一人で調査を開始する事にした。



 鞄を片手に教室を飛び出し、ターゲットのいるF組へと向かう。当然相手に気づかれるわけにはいかないので、細心の注意を払いながら近づく。ただあんまりモタモタしているとターゲットが移動する可能性も高い。特に今は放課後だ、ほんの少しの油断で見失ってしまいかねない。

 判断を見誤らないように動かなければ。


 ……よし、見えてきたぞ。


 案の定、帰宅する為に生徒たちがぞろぞろと教室から出てくる。中に残っている人間もいるだろうが、まずは出てきている生徒の中からターゲットがいないか探すことにする。


 怪しまれないように廊下の壁に背中を預けながらスマホをいじる、フリをして生徒の波を見分けて行く。


(お、いた)


 ターゲットを発見。人並から少し離れたところに一人で歩く男の姿を見た。

 友人が傍に居ないところを見ると、おそらく今からちかりの元へと向かうはずだ。あの手のタイプは彼女を誰かに自慢するのではなく、むしろ彼女がいるのを茶化されるのを嫌うタイプだろうから。


 奴が俺の目の前を通り過ぎるの確認すると、怪しまれないようにしながらこっそりと後ろをついていく。見失わない為とはいえ直ぐ後ろをついて回るわけにはいかない、あくまでもつかず離れず自然体にだ。


(さてと……ここからどう出るか?)


 ターゲットはどうやらキョロキョロと辺りを見ながら歩いているようだ。ちかりを探しているんだろう。


 玄関口付近、靴を履き替えるちかりを発見。俺はバレないように物陰に隠れる。


 ターゲットの沢木はちかりを見つけると、若干きょどりながらも近づいていく。その背中には嬉しさがにじみ出ているようだ。ケっ。


 物陰に隠れている以上、ちかりの表情は確認出来ないのが難点だがバレるわけにはいかないから仕方がない。欲を言えばどんな会話をしているのかも知りたいところではあるが、これも諦めることにする。


 それから直ぐに二人は玄関口から外へと出て行ったようだ。これから帰宅デートか? 良い御身分だ事でね。

 俺も靴を履き替え、校舎を後にする。さてどこへと向かうんだ?


 しばらく尾行を続けると、沢木はちかりを連れてある建物へと入って行った。


(ここって……)


 そこは町中にある全国チェーンの喫茶店だ。学生にも馴染みがある場所であり、俺もちかりと何度か入った事があるが、あそこのコーヒーはなかなか悪くない味だった記憶がある。


(なるほどな。彼女とか出来た事無さそうな割に、こういうとこに連れ込む気概はあるようだ)


 恋をすれば人は変われるって事か? ご立派になったもんだ。いや、あいつの過去とか知らないが。

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