第11話 恋を探して
「ふう食った食った。奢りで腹が膨らむなんて最高の気分だな、そうは思わないか?」
「僕は奢った本人だから思わないかなぁ」
チーズバーガーにシェイクにポテト、それら全てを平らげてテーブルの上にはゴミクズだけが残った。
いや満腹、これで夕飯について考える必要がなくなったってわけだ。持つべきものは友達様々ってところか。
「本当に感謝してる?」
「し、してるさ。疑り深いなお前」
崇吾が目を細めて聞いてくるが、感謝してること自体は本当だから。
「さて腹ごしらえも済んだし本題に入ろう」
「本題?」
「そう本題。つまりこれから始まる夏休みの計画について、だ」
当初の予定では、デートプランを直前までじっくりと考えてちかりと一緒にかけがえのない夏を楽しむはずだった。それが破局という形でご破算となった以上は練り直さなきゃならない。
そしてこの場合の練り直しとは当然……。
「お前知り合いに可愛い女の子とか居ない? もしくはお前に美人の姉ちゃんとか」
「居ないよ。仮にいたとしても自分の身内を君に紹介するのはちょっと、ね? 普通に気まずいじゃないか」
居ないかぁ。
この場合の練り直しとは? 新しく恋人を作ることである。
当然だ。本来夏を利用して甘い思い出を作るはずだったのだ、その為には彼女がいる。であれば、まずはそこからどうにかする必要がある。
昔から失恋の傷は恋で癒すものと言われている以上、やっぱり恋をしたい。そして過去を振り切って男として一段上のステージに上がりたいと思うのは贅沢な悩みだろうか?
だが残念なことに俺には親しい女の知り合いがいない。そりゃあクラスメイトなら挨拶ぐらいはするけれど、言ってしまえばそれだけの仲だ。
今までは俺の隣にちかりという美少女の恋人がいた。だから女友達ができなくても別に気にはならなかったが、新しい恋人を作るとなると手札がない。
だから他人の伝手でどうにかしようと思ったんだけれど……。残念だがそれも使えそうも無い。
崇吾の奴、知らない人間からはボーイッシュな女の子に見られるんだから、その姉妹となれば美人なのは間違いない……はずだったんだけどな。居ないとなればこの手も使えない。
数少ない手札が無くなった。これは本格的にどうすればいいかわかんないな。
「結局のところ地道に見つけていくしかないんじゃない?」
「そうは言うけどさ崇吾、お前なら分かってくれると思ったんだがなぁ……」
「分かれって言われてもね。そうだ、改めて自分の好みを振り返ってみるっていうのはどう? 何事も初心から始める、とも言うしね」
俺の好みか。確かに、自分自身を振り返ってそこから次の彼女作りのヒントを探っていくというのも、まあ悪くはないか。
夏も直前に何を言ってるんだと言われればそれまでだが、ここはあえて遠回りするのが正解かもしれない。
俺の好みと言われれば……まずは俺の話を聞いてくれてきっちり頷くなり返してくれたりして、それに物静かでそれでいて、居て欲しい時にいつも俺の傍に居てくれて、俺自身も守ってしまいたくなるような華奢な可愛げがあって……。
『ん……』
それにそれに、基本的に無表情なんだけど何気ない仕草に主張が見えるような。あと、あんまり女の子らしくない口調でさ、事務的って言うの? ん。とか、わかった。とか飾らない言葉遣いに心をくすぐられるようで。それにやっぱり! あの小動物的な愛らしさを感じさせる……。
『ん、わかった』
って、ちかりじゃねえか馬鹿!!
「ちょっと!? 良くん、急にどうしたわけ?」
デコが痛い。俺は無意識のうちにテーブルに額を打ち付けていたらしい。
「な、なんでもない。……そうだな、いっそ新しいジャンルを開拓するってのも手だと思うんだ」
そうだ、いっそ今までと逆の考えでさ、むしろ寂しさと感じさせてくれないくらい明るい女と付き合うってもいいんじゃないか? 失恋を吹き飛ばしてくれる程の元気のある陽キャ。
ただ問題は一つ、そんな女の子が都合よく見つかるだろうか?
『良ち~ん!』
………………ん?
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