第28話 終わりの日
いよいよ今日が一学期最終日。金曜を終えれば煩わしい学校生活ともおさらば。一か月程だけだけど。
それでも学生にとってはこれほど嬉しい学校行事も無いだろう。休みなのに行事とはこれいかにって感じかな? いつにも増してこんな下らない事考えるあたり、俺テンション上がってるわ。
今日は日差しがいつにも増して清々しい、新しい始まりを歓迎しているようだ。
これで新しい彼女が出来るなら言う事なしだが……。いや、焦る事は無い。彩美との仲は夏休み中にゆっくりと進めていけばいい。何事も焦ると失敗する。
俺は人間だ。経験により、急ぐ事がスムーズに物事を進める事ではない事を知っている。
伊達に彼女いた訳じゃないって事よ!
鼻歌でも歌いながら無事に登校する。……いつもなら途中で崇吾と合流するはずだが、珍しいな。
教室に入ると、崇吾が……いないか。
……うん? いや、あいつの鞄が机のフックに掛かってるって事は来てるのか? 便所かな?
そうか見えて来たぞ。登校中に腹が痛くなって急いで学校に来た、そして今は踏ん張ってる最中だ。
そんなとこだろう。なら俺も友人だ、これ以上の詮索はしないのがマナーだな。気長に待っていてやろうじゃん。
そう思っていたのだが、結局戻って来たのは始業チャイムギリギリだった。そんなに腹が痛かったのか? 難しい顔をしながら席についた。
明日から夏休みだってのに、しまらない奴だな。
(やっぱりおかしい……。うん? 良くんの背中、今ぼやけて見えたような。気のせいかな?)
一時限目も終え、その後は講堂で集会。いつもならげんなりする校長の長ったらしい話も、今日ばかりは気持ち良く聞き流せた。なんせ今日は昼前には学校は終わり、部活やってる奴以外は帰るだけだからな。
「明日から夏休みだからって羽目を外し過ぎるんじゃないぞ。じゃあ、今日は解散」
教室に戻ってからは担任の注意事項を聞いて、いよいよ一学期も終わった。
はぁ、解放感! これで後は新カノでも出来れば文句なしだけども。
それはおいおいとして、崇吾を誘って帰ろうとしたのだが……。
「崇吾、お前この後予定あるか?」
「……うん? あ、ごめん。何?」
俺の呼びかけに反応が遅れるばかりか、内容を聞いてくるとは。何か悩みか? あ、そうか! 朝ギリギリで駆け込んで来たの便秘だったからだな。それで、今も悩んでるって訳か。なるほど。
これも親友の為だ、一つアドバイスでも送ろう。
「我慢は良くないぞ。どうしても辛い時は、病院に駆け込んでチューブでもぶっ刺してもらえ」
「本当に何の話なの?」
「便秘で悩んでるんじゃないのか?」
「違うよ! ちょっと考え事してただけ。悪いけど、僕これから野暮用があるから。帰るなら一人でね」
何だよ、心配して損した。
しかし付き合い悪いな。仕方ない、一人で帰るか。
「そうかい。じゃ、お先に」
「あ、それと。……気を付けて帰ってね。真っ直ぐ家に帰った方がいいよ」
「お前は母親か?」
「いや、なんかちょっと心配になってさ。じゃあ本当に気を付けて帰るんだよ」
だから母親かっての。
言いたい事だけ言って、崇吾は教室を出て行った。
今日の日差しのように晴れやかな気分で廊下を歩く。この後どうにか彩美とデートの約束でも取り付けられないだろうか? そんなことを考えながら下駄箱に向かって歩いていた。
「あれ?」
歩いていたはずだったが、どうやら階段を上って扉の前。
ここは屋上の扉、なぜこんなところに?
「あ、そうか。こいつはセンチメンタリズムだな。全く、俺という男は。この一学期の締めくくりに上から街の景色でも見ようと無意識に足を運ばせていたんだ」
まさか自分がこれほど感傷に浸るような人間だったとは。意外と母校愛があったんだな。
ドアノブをひねって屋上に出る。う~ん風が気持ちいい。
そういえばあんまりこういうところに来たことがなかったな。なかなかいい場所じゃないか。
今は人も居ないし、この大パノラマを独り占めってわけだ。二学期に入ったらもう一度来てみるか?
気持ちの良い、そんな感情に溢れていた時の事……。
「良介」
不意に背後から、抑揚のないされど冷たい声が耳の奥まで透き通った。
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