第26話 疑念に駆られる友
その後のちかりの動向としては、新しい男と十分ほど喋った後図書室を出て行き、沢木と合流。手を繋ぎながら人気の無い棟を散歩、それもまた十分。
そうして別れた後に、第二のデブ男と校舎裏でまたもおしゃべりの後、ちかりが男に頼まれほっぺたにキスをして終了。おしゃべりと言っても三人の男がほぼ一方的に話していただけだが。
しかしやっぱりというか、あの第二の男もこの学校の生徒だったか。
ちなみに一部始終をスマホに撮っておいた。何か役に立つかもしれない。
しかしなんだな、これって俺四股かけられたのか。とんでもない女だぜ。しかも男たちの様子を見るに、自分こそが彼氏だと思ってる。他の男の存在も知らずに哀れなもんだ。
別れて正解だったな。ちかりという女はその類まれな容姿を活かして男を――それも女慣れしていない男の純情を弄ぶのが好きだったのか。
まあ何にせよ、そんな女と縁が切れてよかったと思うべきだな。
さ、昼も終わりだ。とっとと教室に帰ろっと。
………………
…………
……。
「…………ん」
◇◇◇
本日の授業もつつがなく終わった。何をやっていたか寝ぼけてよく覚えていないが。
頭を叩かれなかったってことは、教師達に気づかれなかったってことだ。ラッキーだったな。
帰り支度をして、その途中でふと思った。
どうせだ、我が親友に報告でもしておこう。
「おい崇吾。実はだな、俺の調査は無事完了して」
「結局またストーキングしてたんだね。いくら君が傷ついたからって、相手にバレたら今度は君の方が悪者になるよ」
「だからストーキングじゃないって言ってるだろ! 俺のは調査であり、今後の人生における糧としてだな」
「はいはい分かったよ。よーく分かりました」
この野郎適当に返事しやがって。だが許そう、俺は一仕事終えて気分がいいのだ。
「取り敢えず聞いてくれ、俺はあの女のとんでもない素顔を見た。驚くなよ? なんと現在三股をしているんだ」
「へぇ、それは驚きだ」
「お前信じてないな? 本当なんだよ、現実にそういうことが出来る人間がこの学校にいたんだ!」
「いや別に信じてないわけじゃないけど。……同時に付き合ってる男性の中に、体が横に大きい人って居なかった?」
「居たけども。何? 知り合いに当てはまる奴が?」
「別に、そういうわけじゃないんだけどね……」
それだけ言うと、崇吾は黙ってしまった。何か考え事をしているような難しい顔をしている。話の途中にこういう顔をするのは珍しい。聞き上手な崇吾は、まず一旦人の話を聞いてから色々と考える人間だからだ。
一体どうしたって言うんだ?
「あのさ、そういえば気になったんだけど」
「ん?」
「彼女……晴空さんって、別れる前は連絡取り合ってたんだよね?」
「ああそうだが。と言ってもあいつは機械音痴で自分から連絡をすることなんかないんだよな。専ら俺が電話掛けてたな、スマホの登録も俺がしてさ。で、それが?」
「うん、いくら別れたって言ったって何の連絡も無いのも変かなって思ってね。……そう、彼女から連絡をする事はそもそもなかったんだね」
確かにそうだが、でもそれってそれほど不思議に思うことか?
「ま、そんな事はいいじゃないか。とっとと帰ろうぜ」
「……ああ僕、ちょっと用事があるから」
「おうそうか、じゃあな」
「また明日」
何の用事か知らないが、俺は一人で校舎から出て行くのだった。今日も夕日が眩しい。
◇◇◇
一人教室に残った崇吾の頭に、ある疑念が浮かんでいた。
(自分から連絡を取ることがほとんど出来ない女性が、果たして四人もの男性にバレる事も無く同時に交際することが可能なんだろうか?)
余程慎重な人間といえど、例えばイレギュラーな事態で彼氏同士が鉢合う可能性だってある。自分から会うこともなく相手の行動をコントロール出来るはずは無い。そのはずなのだが……。
(だけど良くんにはバレて二人は別れたはず。やっぱり考え過ぎかな)
しかしそれでも崇吾の中で疑問が膨む。
良介に言った手前みっともないと思わないでもなかったが、ちかりについて少し調べる事にした。
どうしてここまで気になるのかがわからない。ただ――何か胸騒ぎがしてならないのだ。
キッチリと確かめたわけでもないのに、崇吾にはそこはかとない確信があった。
この間あった二人組、あれがちかりと彼氏の一人だと。
そこに疑問を挟む必要はない、何故か深くそう思えた。
放課後の校舎、その一角で目当ての人物たちを発見した。
人通りを感じない階段の踊り場で話す二人。いや、話すという表現には語弊がある。何故なら、一方的に相手の男性がちかりに話しかけているからだ。
その様子を背中越しに、物陰から息を殺して見る崇吾。
(やっぱり妙だ。彼女を見ていると、例えようもなく不安になる。どうして相手の男性は平然と話す事が出来るんだろう?)
一つ、身震い。
調査はまた後日でも遅くは無いはず、あまりこの場に居たくない。
その感覚が彼の足をその場から引き離した。
遠く去って行くその背中を、暗い瞳が射貫いていたとは露知らず。
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