第13話 新たな始まりに悩む男

 なんてやってる場合じゃない! 本題に入ろう、そう! 彩美に今彼氏がいるかどうかだ。

 ど、どう切り出せばいいんだ!?


「あ、ああ! し、しかしなんだな! 今日は晴れ渡るこの青い空が眩しいじゃないかだろう?!」


「良ちん、今夕方だけど……」


「そ、そうだったかな? はははは!」


 いやもう本当にどうすりゃいいんだ!? 俺はギャルと何を話せばいい? どんな風に話題を振ればいいんだ? そんなの俺が聞きたいわ!!


「……良ちん」


 彩美がどこか訝し気に俺の顔を覗き込んでくる。

 やめろ見るな! 意識してしまうだろ!?


 だ、だだだだだダメだ! 心なしか足が震えてきた気さえする。


「良ちん、やっぱ変じゃない?」


「そ、そんなことないぞ!? 俺はいたって普通の男子高校生だ!」


 そうだ! もうこうなったら勢いで行くしかない!! もういっそ当たって砕けろだ! よし行くぞ今行くぞすぐ行くぞ!!!


「こ、この間さ、彼氏でも作ればって言ったけどもぉ。そ、その後どんな感じ? 出来た感じ? もう居る感じ?」


 日和りやがって俺の馬鹿野郎が!!!


「うん?」


 彩美が困惑した様子……に見える。そりゃそうだろうな、いきなりそんなこと聞かれたら誰だって困惑するわ。俺だって混乱するもん。

 でも、俺はもう後に引けないんだよ! だから頼むよ神様!! あ、いやこの場合は山司の姉御とでもいうべきか? それとも……いや、なんでもいいんだそんなん!


「ああ、あれ。彼氏ねぇ、そっちはもうぜ~んぜんダメ。なんかピンって来る人がいないって感じ?」


 彩美は両手をひらひらと振りながら、諦めたようにそう答えた。どうやら彼氏は居ないらしい。


「そっかぁ」


「こんなんだから、今まで出来て無いんだよね~。ウチって意外と理想高いのかな?」


 まさかの発言だった。

 彼氏出来た事無いのかよ!? 今まで百人は男を手玉に取ってきましたが? みたいなギャルに見えるのに、意外だったぜ。


 と、いう事はだ。もし、もしかしたら俺が初彼氏になれる可能性もある訳だ。


 心の中で燃え滾るものが、俺の脳髄を沸騰させる程に熱くさせていく。

 こ、これはチャンスだ! 二度と巡って来ないかもしれん程のラッキーを逃してなるものか!


「へ、へええ! そうなんですか大変ですね色々と!!」


 何が大変ですね、だ!? てめぇで燃やしたもんをてめぇで冷ますんじゃないよ!!


 まずいまずいまずい!! こんなの煽りとも取られるだろ。下手すりゃここで縁がすっぱり切られて終わる。

 自分自身のとんでもない失態に心臓が痛い。阿保だ間抜けだとバクバク攻めてきやがる。

 どうしようこれ……?


「う~ん、そうなんよ。色々大変でさ、周りの友達が彼氏の話とかしてもウチだけイマイチついてけない、みたいな」


 嘘だろ? 俺の発言をそのまま取ってしまったぞ! 本当に俺が心配したみたいになってる!?

 起死回生を見たぜ、俺……。なんだっていい、ここは汚名返上だ!!

 落ち着いて慎重に行け……!


「何て言うの? 年相応の可愛らしい悩みじゃないか、俺にも覚えがあるぞ。周りに先を越されると焦っちゃうんだよな」


「キャハハ、何それ? 良ちんってばおじさん臭~い。ハハっ!」


 俺自身言っててそう思う。どう考えても同年代の発言じゃないや。落ち着くっていうのは老けるって事じゃないよ俺。

 しかし彩美にはウケたようで、腹を抱えて大笑いしている。


「でもさ、やっぱ焦ってもしょうがないっしょ! うん! あんがと良ちん。やっぱもっと今をエンジョイしなきゃだよね!」


「お、おう。吹っ切れたようでなにより。俺も嬉しいよ、はは……」


 まずい気がする。これじゃ、恋愛なんて二の次でいいじゃんってアドバイスを送っただけじゃないか?


 いやダメだろう!? 俺はどうなる? このまま幼馴染のお友達ポジションで夏休みに突入しろってか? 無理だろ! でも、今ここで告白なんてしたらそれこそ取り返しのつかない事になる。間違いなくそのタイミングではない!


 あ~もうどうすりゃいいんだよ!?


「良ちんはさ、ウチの事どう思う?」


「え」


 何急に?

 俺の思考が彩美の質問に追い付いていない。どう思うって、どう思う俺?


「え~っとそれって……」


「あ!? やば、もうこんな時間! ごめんね良ちん、このままじゃ授業に遅れるから。ばいば~い!」


「あ、ああ」


 俺は彩美の背中を見送りながら、呆然と立ち尽くしていた。

 あ、今彩美がビルの中に入って行きましたね。


 結局肝心な事は言えなかった。


 あ~もうどうしようこれ……。完全にタイミングを逃したわ……。

 いやでも逆に考えるんだ俺! これでよかったのかもしれないってな! だってそうだろう?

 ……それでどう思うって、どう思う俺? どう思えば正解なんだろう俺。


 質問の意図が分かりかねるまま、帰宅の途に就く俺。

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