第15話 火曜日の再開

 新しい朝を迎えた。今日は火曜日、夏休みまであとちょっとだ。

 今日はどうも気分が良い。新しい恋に芽生えそうだからだろうか? それともちかりとの関係にケリを着ける事が出来たからだろうか?


 どちらにせよ、俺がやられっぱなしの間抜けでは無い事を証明出来たのだ。いくら彼女が可愛くて抱きしめたくなるような愛らしさを持ち合わせてて、ほのかに見える甘えが心をくすぐられてそれから……。


 それからじゃない。何がそれからだ。

 とにかく俺が言いたいことは、浮気を許すのはかっこいい事でもなんでも無いって事だ。キッチリと駄目な事は駄目であると、別れることで教える。これこそが男らしさじゃないか。


 洗面台で顔を洗い、鏡を覗き込む俺。うん、男らしいじゃないか!


 さあ朝飯の時間だ!

 ……そうして用意したのは白飯とふりかけ。うん、男らしいじゃないか……。


 俺に彼女の手料理を食べられる日は来るのだろうか? その前に彼女を作れるのか? 悩んだって仕方ないか。今は腹を膨らませる事を考えようぜ。


 あ、このふりかけ結構イケるじゃん。偶には新規開拓もするもんだな。




 真夏は朝から日差しが強くて参るもんだ。朝早く起きる学生と社会人の敵だな。

 でももうすぐ夏休みな分、学生はマシだな。すいませんね社会人の方。


 俺は意味もなく道の向こう側を歩くサラリーマンに向かって気づかれないように頭を下げた。

 俺が内心何を考えているか、もし見透かされたら煽りと思われかねんな。


 ……そういえば彩美って何時からバイトしてんだろ? 流石にこの時間って事は無いだろうが。

 何となくそんなことが気になってしまうのは、俺があいつを気にしてる証拠か? 彼女でも無い女の行動が気になるなんて、思春期の中学生かストーカーくらいなもんだな。

 あれ? じゃあ俺って……。いやいや、それは違うぞ。


「あ~……頭いてぇ……」


 考え事し過ぎて頭が痛いぜ。


 ◇◇◇


 古典の授業で頭がコテン。

 夏の日差しに誘われて、眠りこけた俺の頭を教師がはたく。


「おい、起きろ」


「……んあ?」


「起きたか? じゃあこの問題の答えを――」


 コテン。

 バシンっ。



 午前中いろいろあったが、今は念願の昼休みだ。

 今日の昼飯はいつものように白飯に冷食で固めた弁当では無い。何故なら、作るのを忘れたからだ。

 ……さ、売店に行くか。



「ねえ、良くん」


 売店で物色していると、後ろから声を掛けられた。崇吾だ。

 俺は振り返りながら答える。


「珍しいなお前、自慢の手作り弁当は今日どうした?」


「偶には買うのもいいかと思って。……なんて、本当は作り忘れただけなんだけど」


 いたずらな笑みを浮かべて小さく舌を出す崇吾。

 ただでさえ美少女の面してんのにそんな仕草をナチュラルに出すせいで、一部の酔狂な連中から人気がある。


 こいつと友人をやる数少ないデメリットは、そんな連中から陰ながらチクチク言われる事だな。そんなことするより彼女でも作れってんだよな。……今の俺には言われたくないだろうが。


「今は何がおすすめなの、良くん?」


「あ? そうだなぁ……、ほら今夏じゃん? つまり夏っぽいものをみんな食いたがってるんだよ」


「つまり?」


「そう、この焼きそばパンとかどうよ?」


「夏っぽいかなこれ?」


「夏と言えばだろ。知らないのか?」


「君が適当なことを言っているのは知ってるけど」


 手厳しいな。


 それはさておき、お互い好きな食いもんを選んだ。崇吾は焼きそばパンにメロンパン、俺はカップラーメン。塩味が今は食いたい気分だったんだ。


「君の方が夏っぽいもの選んでない?」


「気のせいだろ」


 変なやっかみは聞き流し、売店に備え付けられてる電気ポッドからお湯を注ぐ。

 同じテーブルには箸やら爪楊枝やらも置いてあり、勝手に持っていくスタイルだ。

 まだまだ出来上がりは先だってのに、この漂う匂い。待ちきれないぜ。


「ん、お箸」


「これか? ほらよ」


「お湯……」


「おっ、そっちは醤油かぁ。……ほら、今お湯入れてやるよ」


「ん、ありがとう」


「いいってことよ。困った時は何とやら、だ」


 俺に礼を言うと、醬油のカップ麺を両手で抱えながら、その小柄な後ろ姿はトコトコと遠ざかって行った。


 ん? ………………ッ!!!?

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