第18話 突然のデート

「ねぇ良ちん、これからウチとデートしない?」


「……へ?」


 つまりどういうことかと言うと、半ばぼーっとした頭のまま校門を出て数歩を歩いて、そうして出会ったのが幼馴染ギャルこと彩美だった。ぼーっとしてるから幻でも見てるのだろうか?


「って言っても1時間くらいだけどね。今日も学校あるし」


「はえ?」


 現在時刻は四時ちょっと過ぎ、部活に入っていない連中が大量に外に飛び出すこの時間帯。母校の柵に背中を預けて待っていた女がいた、それが彩美でこれは現実らしい。

 何でも俺と一時間ほどデートがしたいとのこと。


 何故に?


 降って湧いて出た展開と疑問は、最適化されない俺の脳みそでは処理しきれない。


「ほらほら、行こう! さあ行こうレッツゴー!!」


「ふぇ?」


 つまるところ現実とイメージのオーバーラップだ、という言葉が頭に沸いて出たが、何を言っているのか今の俺の脳みそでは理解できない。自分で考えておいて無責任だと思う。

 簡単に言えば、さっきから現実についていけないんだ。

 今だってほら、気づいたら何故か腕を彩美に取られて俺の足は釣られるように前へと歩く。


 ところで何の用だっけ? ああ、デートか……えっデートッ!?




「はい、良ちん。これ持ってね」


「……おう」


 彩美が俺の腕を引いて向かったデート先は――チェーン店の大型百円ショップだった。

 なんだよ、デートって単に買い物に付き合えって事か。期待しちゃったんだよな俺。


 内心首を落としながら、甘い想像に期待したのが悪いとも思わないでもない。やっぱ現実っていうのは、そう上手く出来てないな。


 目的は聞かされてないが、要はあれだろう。一人暮らしに必要なあれやこれやを安く済ませようって事で、俺という手近な荷物持ちが欲しくなったってとこか。

 俺がどこの高校に通ってるかは知らせてないんだが、一度制服姿で会ってるからそこから調べがついたんだろうな。


 彩美がこの街に戻ってきてどのくらいの月日が経っているかは知らんけど、それでも数ヶ月ぐらいは経ってるんじゃないのか? 今更何を欲しがるんだか。


「あ、これ可愛い! これもいい匂いするじゃん! ほら、良ちんも一緒に選んでよ」


「へいへい」


 彩美が楽しそうに商品を吟味する横で、俺は適当に相槌を打つ。女の子の欲しがる生活雑貨に対してアンテナを張っていない俺は、どう答えればいいのかはよくわからないからね。

 何だろ? とりあえず全肯定すれば理解のある彼君を演じる事が出来るのか?


「ねえ良ちん、これどう思う? キュート感じちゃう?」


「うん感じちゃう感じちゃう」


「……なんか適当じゃん? もっと意見欲しいかなーって」


 ジロっと軽く睨まれてしまった。とりあえず肯定すれば、なんて浅はかな考えと散ってしまったぜ。

 なんとか挽回せねば、男として一歩先のステージへと進むんだ!


「うんとっても可愛いね。まるで君という、森の奥深くに咲いた一輪の花に彩りを与える太陽のような神々しさすら感じるよ!」


「何、そのキャラ……? ちょっと何言ってんのか分かんないけど」


「あ、はい。ごめんなさい」


 彩美がドン引きしているのを見て、俺は自分の見栄っ張り加減を恥じた。これは酷い……俺の脳みそも恥を知ったようで何よりだ。


「ま、まあいっか! 良ちんはこういうのが好きって事ね! ね?!」


「……うん、そうだと思……そうだよ」


 挙句、女の子の方からフォローをされてしまう。これは酷い。




 エコバッグが一杯になるくらいに買い込み、荷物を持って運ぶ俺。ちなみにもう片方は学生鞄、だって学校帰りだったんだ。

 彩美の方は財布とスマホぐらいしか入りそうに無いちっこいバッグのみ。ま、荷物持ちとして俺を使ってるんだからしょうがないか。


 美少女の彼氏役……にはなれなくても荷物持ちにはなれたんだから独り身男子としては上等だろう。そう納得させることにする。……いつか普通にデートしたいなぁ。


 そんなことを考えているうちに彩美の住むアパートへと到着。

 ちなみに彩美の通っている学校はここから歩いて十分もしないところにある、そういうことも考えてここを借りたんだろうか? でも、確かにこれならギリギリまで好きに過ごせるってわけだ。


「ごめんね、疲れたっしょ? ちょっと家に上がっていく? ……って言いたいトコだけど、もうあんまり時間無いんだ」


「まぁその、お邪魔する機会はまた今度ってことで」


「ごめんね。あ、でも……」


 扉を潜り玄関に荷物を降ろした。言われるほど別に疲れてもないんだけどね、だってエコバッグ一つ一杯になってるからって、こっちは現役の男子高校生。この程度屁でもない。

 彩美は降ろした荷物をガサゴソと漁り、何かを取り出した。


「はい、これ」


「これは……アロマ?」


 さっき店で意見を聞かれてドン引きされたアロマディフューザー、それを突き出された。


「買い物に付き合ってくれたお礼。安物だけど、気分が落ち着くって評判なんだよ」


「あ、あんがと……。俺ってそんなに落ち着きないと思われてんのか?」


 ボソッと口に出したが、確かに最近浮き沈みが激しいような気がするような。


「色々大変だと思うけどさ、良ちんならガンバれるって!」


「そうか。……おう、じゃあまたな!」


「うん! ……今度はゆっくりと、ね」


 手を振る彩美に見送られて、俺は玄関の扉を閉める。


 励まされてるな俺、もしかして脈ありか?! だといいけど。

 ……そういや最後の、ゆっくりって何だろう?





(大丈夫かな? 良ちん。無理、してなきゃいいけど……)

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