第2話 知りたくもなかった光景
「海に行きたいとかプールに行きたいとか、なんかあるか?」
「特に。泳ぎは得意じゃないけど、あなたが行きたいならいいよ」
そういう答えが聞きたかったんじゃないんだが……。
「でも、祭り……」
「ん? 祭りか……。行ってみたいか?」
「ちょっと……楽しそうだから」
なるほど、確かに去年祭りに行った時なんかはこいつのポーカーフェイスもちょっと柔らかく見えた。普段あんまり感情を表に出さないのに、その時だけはちょっと頬が緩んでいた気がする。
うん、いいじゃないか。
「よし、分かった。じゃあ今度の夏祭りは楽しもうぜ」
「うん」
ま、もちろん祭りだけじゃない。夏は長いんだ、夏らしいデートプランを他にもしっかり考えないとな。
夕日がちかりの頬を染めて、それが楽しみから来るものであったなら最高なのにな、なんて考えながら俺たちは仲良く手をつないで下校する。
その時は、呑気にそんなことを考えていた。愛する彼女とのデートで浮かれない男はいないから、仕方がないと言われればそれまでだが。
◇◇◇
七月某日。学校もない土曜日、近所で開かれた夏祭りは地元民だらけのアットホームな、悪く言えば寂れた感じのお祭りだった。派手さはなく、だからこそ馴染み深い。
でもこの雰囲気は好きだ。浴衣に着替えたちかりも可愛い。ちかりには同年代の女子には無い浮世離れした静かさがある、そこがこの祭りの雰囲気とマッチしていて……正直言って興奮した。
そんな彼女も、今日ばかりはどことなくいつもよりテンションが高い……ように思える。気持ち程度だが、これが分かるのも彼氏の特権ってやつだな。
「射的やりたい」
「お、やるのか?」
「ん、あれが欲しい」
「おっけー、任せろ」
「うん……とれた」
「中々だろ? ほら」
「ん、ありがと」
他にも、リンゴ飴やらチョコバナナを買ってやった。食べさせ合いをしたりして、傍から見たらとんでもなくバカップルな行為だったが、実際に俺たちは付き合っているわけだし、そもそもちかりは恥ずかしがったりしない。
まあ、それはそれで少し残念な気はするが。
祭りの醍醐味と言ったらやっぱり花火だ。地元のさして有名でもない祭りだから、よその人間から見たら派手でもないかもしれないが、俺にとっては十分すぎる。
なんたって、隣に彼女がいるんだからな。それだけで十分だ。
バンっと咲く夜空の大輪を見て、ちかりはボソっとつぶやく
「綺麗……」
「ああ、すげえな」
「…………」
「…………」
これ以上の会話は野暮だな。
最後の花火が消えた後、ちかりはトイレに行きたいと下駄をコロりと鳴らしながら駆けていった。
「ったく、あいつは相変わらずマイペースだな」
そう言いながらも、俺はどこか嬉しかった。
しかし、恋人との夏祭りっていうのはベタだが、どうしてこうもドキドキするものなんだろうな。
それから大体三十分たっただろうか。さすがに遅いと感じた俺は、ちかりを探しに行くことにした。マイペースな彼女のことだから色んな出店に目移りして遅れている可能性もある。もしくは……いやさすがにそれを深く考えるのはデリカシーがないな。
そんなことを考えながら、雑踏に目配せをして練り歩く。……案外見つからないなどこに行ったんだ?
闇雲に歩き回り神社の境内にたどり着いた時、ふと思った。
そういえばこのちょっと奥の林なんか夏祭りのカップルが一目を気にせずイチャつくのにうってつけだよな。
出羽亀感覚でソロっと覗き込んだ時だ。思い描いた通りに若い男女がキスをしている現場がそこにはあった。お互い顔を近づけてるせいか、離れたところからはよくわからないが、パッと見た感じ二人とも俺と歳が近い感じがした。
特に、相手の女の子なんて背格好がちかりにソックリで、着ている浴衣も全く同じ………………え?
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