第4話 勘違いじゃないよ?

「センパイ、チャリ通?」

「いや、電車」

「わーい、一緒だ」


 誰かと一緒に下校するのはいつぶりだろうか。

 いつも一人で帰っていたから、新鮮だ。


「ちなみに最寄りは?」


 そう聞かれたので、最寄り駅を答える。

 学校近くの駅から、たった二駅ほどだ。近くて助かる。


「えー、逆方向だ。ショック」

「なぜ……?」

「センパイと家近かったらなーって思っただけ」


 拗ねたようにそんなこと言うから、思わず言葉が詰まる。


 こいつ、無自覚か……?

 男の子はすぐ勘違いするんだから、迂闊なことを言うのはやめてほしい。


 それではまるで……これからも俺と会いたいみたいじゃないか。

 彼女が俺に付き合っているのは、あくまで、今朝のお礼だというのに。


「残念だったな」

「うん」


 他愛のない話をしながら、駅までの道のりを歩く。十五分ほどとやや離れている。

 大庭は本当に楽しそうに喋るので、話していて退屈しない。いつの間にか、素直に楽しんでいる自分がいた。


「てか、センパイいつも一人なの?」

「帰りか? まあだいたい生徒会で遅くなるし」

「それもだけど、生徒会の仕事? の時も」

「いや、今はそんなに任せる仕事ないから……」


 本当に人手が必要になれば、他の執行部メンバーにも声をかけるつもりだ。それこそ、行事が近くなれば俺一人ではどうしても足りない。


「うわ、生徒会長なのに人望ゼロだ」

「おい」

「馬鹿にしてるわけじゃないよ! かわいそーって思っただけ!」

「憐れまれるほうが辛いわ!」

「あはははっ、センパイおもしろ」


 本当に必要ないだけで、人望がないわけじゃない。……ないよな?


「しょーがないから、私が明日からも手伝ってあげる」

「いや、いらん」

「めっちゃ塩!?」

「一人のほうが集中できるんだ。静かなところで作業したい」

「遠回しに騒がしいって言われてない?」

「いや、割と直球で言ってる」

「ひどーい」


 今日だけならともかく、明日以降も彼女を拘束するわけにはいかない。

 大庭のことだから、友達も多いだろう。放課後の時間は貴重なはずだ。


「手伝っても、なんのメリットもないぞ」

「あるよ。センパイに会える」

「はいはい」

「あー、流されたー」

「そんな勘違いされそうなこと、ほいほい言うもんじゃない」


 後輩の可愛い女の子からそんなこと言われて、嘘でも嬉しく思ってしまう。


 照れ隠しに注意すると、大庭はふいに立ち止まった。


「……勘違いじゃないよ?」


 街灯に照らされた横顔が、とても美しく見えた。

 少しだけ細められた瞳が、きらきらと瞬く。


「それって……」

「あ、コンビニ発見! 寄ってこ!」


 大庭が俺の手を掴んで、近くのコンビニに引っ張っていく。


 言葉の真意は、結局聞けなかった。

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