第7話 ex.大庭萌仲

――大庭萌仲視点


「よしっ」


 午後の授業のため教室に戻る途中、小さくガッツポーズした。

 足取りも自然と軽くなる。


「作戦通り!」


 お湯が欲しいという理由のためにカップラーメンを買ってくる。完璧な作戦だった。

 会いに行く口実を一晩考えただけある。十一時に寝たけど、朝起きたら思いついてた!


 放課後まで待つ手もあったけど、お昼から会いたかったのだ。

 でも、理由もなく行くのも恥ずかしいし。口実なしで会いにいけるほど、勇気がないから。


 カップラーメンしか持ってこなければ、センパイに会わないとお昼ないからね。

 自分が逃げないようにする、背水の陣だ。


 本当は、ちょっとだけ怖かった。

 拒絶されたらどうしようって。センパイだって友達と過ごしたいかもしれないし、私なんて邪魔かも。そう思って、不安だった。


 でもセンパイは、なんだかんだ言いながら付き合ってくれた。やっぱり優しい。

 勇気出してよかった。だって、ほんの一時間足らずだけどとっても楽しかったから。


 ううん、今日だけじゃない。

 昨日、放課後に生徒会室に行くのだって、すっごく緊張した。

 扉の前まで行って、引き返して……その繰り返しを何往復したのか覚えてない。


「センパイ……」


 辻堂京先輩。


 その名前を、そっと心の中で反芻する。


 我ながらちょろいと思うけど、けっこう、好きになってた。


 惚れやすいタイプではなかったはずなんだけど……。むしろ、今まで好きな人とかできたことなかった。


 だから、これが恋心かはわからない。

 でも、センパイともっと仲良くなりたいと思った。


「センパイ、ギャルとか嫌いかなぁ」


 いや、自分でギャルとか言うの恥ずかしいけど、よく言われるから。


 先生からはすこぶる評判の悪いこの見た目も、自分では結構気に入ってる。

 やっぱ可愛くなりたいじゃん。金髪似合ってる自信あるし。


 でもセンパイがもっと清楚っぽいの好きだったら、イメチェンもありかも。


「放課後聞いてみよっと」


 来るなって言われたけど、行く気まんまんです。


 なんでこんなに積極的なんだろって、自分でも思う。

 意外と恋に一直線なタイプ? 知らなかった。


 でも、これが結構楽しい。


「今日はどうやってイジろうかなー」


 放課後のことを思って、思わず笑みが溢れる。


 まあセンパイ一人だと可哀想だからね。

 可愛い後輩の私が会いにいってあげないと。


「……自分が会いたいだけだけど」


 ぼそっと呟いて、窓の外を眺めた。

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