第16話 どう? 可愛い?
午後一時になる十分前、待ちあわせ場所に指定された駅に着いた。
俺も萌仲も電車一本で来られる場所だ。それほど遠くなく、また遊ぶところの多い栄えた駅だから、ここらで集まるなら一番に候補に上がる。
改札を通りながら、襟が曲がっていないか確かめる。
デート……。その言葉を妙に意識してしまって、どの服を着るか悩んだ。
パーカーだらけのカラーボックスをひっくり返して、辛うじて襟付きのシャツを発見することができた。
かっちりしすぎず、カジュアルすぎず、といった塩梅のコーディネート……になった、はずだ。自信はないけど。
『ついた』
スマホを取り出し、萌仲にそうメッセージを送る。
すると、即座に着信音が鳴った。
「もしもし」
『あ! せんぱい? どの辺いる?』
「改札出たとこかな」
『私もすぐ近く! 待って、探すね』
スマホを耳に当てながら、辺りを見渡す。
同じように電話をしながらきょろきょろと回る少女を発見した。
少し遅れて、萌仲の視線が俺に向く。彼女はぱあっと花を咲かせて、声を弾ませた。
『みっけた!』
もう声が届く距離だというのに、わざわざ電話越しにそう伝えてくる。
萌仲は存在をアピールするように、手をぶんぶん振った。
俺も片手を軽く上げて応じる。
『センパイ、すごいことに気づいちゃった』
「……一応聞こうか」
『近くにいるのに、声が電波になってサーバーを通って、センパイに届いてる。これってすっごい遠回りじゃない? なんだかロマンチック』
「よくわからんから切るぞ」
『えー』
通話を終了すると、ここからでも萌仲のむくれ顔が見えた。
肩を竦めて、萌仲のほうへ歩み寄る。
それよりも早く、萌仲は小走りで駆け寄ってきた。
「センパイ、よっ」
「悪い、待ったか?」
「んーん、一時間くらい?」
「まじで? すまん……。ていうか、一時集合じゃなかったか?」
「私が勝手に早く来ただけだから大丈夫! 待ってる時間も楽しかったし」
純粋で、まっすぐな言葉。
どうも捻くれた考え方をしてしまう俺には、それがひどく眩しい。
「来てくれてありがと! センパイ、来てくれないと思った」
「信用ないな」
「ううん、信用してるけど不安だったの。楽しみすぎて逆に不安的な?」
わからないでもない。
順調な時に限って、なにか問題が起きるものだ。緊張感は大切である。……そういう話ではないかもしれないけど。
「……ずいぶん、なんというか、素直だな」
「素直?」
「ああ。嬉しいとか楽しみとか、素直に口にできるのがすごいと思う」
「そうかな? たしかに、昔から思ったことすぐ口に出しちゃうかも」
「俺にはできないことだ」
言葉として発する前に、つい考えてしまう。
言うべきことなのか。
内面をさらけ出す必要があるのか。
余計なことを考えてしまって、結局、口から出るのは本心じゃないことも多い。
装飾して、捻じ曲げて、結局どうでもいいことをしゃべってしまう。
本心を出さないほうが、気持ち的に楽だから。
萌仲は、その葛藤を易々と飛び越えていく。
……俺を好いているような言動が本心だと俺が断じるのは、驕っているようで恥ずかしいが。
少なくとも、彼女の言葉に嘘は感じられない。
こんなに真っすぐ伝えてくれているのに目を逸らすのも、失礼な気がする。
まあ、恋愛的な好きとは別だと思うけど。せいぜい、仲の良い先輩だろう。
「あー、またセンパイ、余計なこと考えてる。私といるのに」
「っ、すまん」
「じゃあ、はい! チカパイも素直に言ってみよー!」
萌仲は全身を見せるようにくるりと回った。
「どう? 可愛い?」
白いデニムと白いスニーカー、上はレザージャケットを羽織っていて、モノトーンでまとめた大人っぽいコーデだ。
バッグもレザー素材で、小さいものを肩にかけている。
化粧もいつもと違うのか、目元の色使いが綺麗だ。
「可愛いよ」
「えへへ、言わせたみたいになっちゃったけど嬉しい」
「可愛いって言わないとなにされるかわからないからな」
「えー、ひっどーい」
本心で可愛いと思ったが、つい茶化してしまう。
それでも萌仲は嬉しそうに破顔する。
「じゃあ、行くか」
「うん! ショッピングしよ!」
萌仲が俺の手を引く。
「あ、言い忘れてたけど、センパイもかっこいいよ」
「……どうも」
「少しは意識してくれたんだなーって、嬉しい」
見透かされたことが恥ずかしくて、しばらく彼女の顔を見れそうにない。
タメ口後輩ギャルが懐いたら、世界一可愛くなった 緒二葉 ガガガ文庫ママ友と育てるラブコメ @hojo
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